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【創作大賞 2024】Dance
はじめて自分のカメラで撮った写真は自分の左手だった。
通り雨が過ぎ去った草むら。
真上を見上げる。晴れ渡る空はどこまでも高く高く透き通っていた。光は木に葉に車にベンチにブランコに自転車に虫にそして自分にもそそがれていて、身体の裏の裏までしみわたる。水滴がきらきらと光を放っている。雲一つなく快晴。自分も青色になる。
ことばはいらない
正直でありたい
うわっつらじゃない
立派な
【#創作大賞2024】ドシャえもん第1話
めくれ上がったTシャツから出た腹をそのままに、テレビを見る夫が発した言葉が頭に貼りついて離れません。
赤ん坊がいなくても俺がいるじゃん?
最初、発言の真意が分からずぼんやりとしていました。しかし、赤ん坊がいなくても可愛い俺がいるからいいだろう?という意味だと分かった時……。頬がカっと熱くなるのと同時に喉に冷たい刃が差し込まれたような気持ちの悪い感覚に襲われました。
どうやってアレを可愛がれと
ごきげんとり 第1話
○ 2022年8月
俺がライター仲間の千鶴に頼まれ、九州のこの田舎町にやってきたのが昨年の10月。早いもので10ヶ月が経った。
普段は静かで朴訥な雰囲気漂う町だというのに、今月に入るとまるで町全体が何かにとりつかれたかのように一気に活気づき始めた。
毎年8月に開催される、町はずれにある小さな神社の例大祭が町の人々の心を浮き立たせているのだ。
町には他にもいくつかの神社が点在しているが、例祭
朝茶は七里帰っても飲め 一杯目
一杯目 お茶を濁す
パリーン。
「おい! 奴が窓から逃げ出した! 追え!」
「探せ! まだこのあたりにいるはずだ! 奴は手負いの身。そう遠くまで逃げられるはずがない!」
近くで叫び声が聞こえる。このトランクとこの身を渡すわけにはいかない。
数時間前、新緑のまぶしい八十八夜を迎えた日の夜のことだった。世間は大型連休真っ只中。ラボも私以外はみな有給休暇をとっており休みだが、私は一人、お茶を飲
「腐るまで待って」第1話【note創作大賞2024】
第一話
――基本的には私が質問しますので、それに答えていただくだけで結構です。それでは撮影を始めてもよろしいですか?
答えに困ったらどうすればいいですか?
――途中で止めても構いません。編集をしますので、気軽に答えてください。動画が完成したら、公開前に藍一さんにもチェックのために送る予定です。気になった点はご指摘ください。
だったら安心ですね。
――では、はじめさせてください。お店は毎
たそがれ商店街ブルース 第1話 微熱
幼い頃、熱を出すといつも奇妙な夢を見た。
細くなったり太くなったりする雪が降りしきる山道を、1人歩く少年の私。どこから来たのか、どこへ向かっているのかもわからないまま歩き続けていると、いつの間にか、360度が真っ黒闇に包まれた空間にワープしている。私は自分が立っているのか浮いているのかもわからない。すると、どこからともなく、ふんどし姿のいかつい男たちが現れて「エンヤコーラ、エンヤコーラ」と掛け
神様の向こう側(第1話)
写真立てに切り取られた京香の笑顔は、歳を重ねない。仏壇にふわり漂う白水仙の香りも、小皿に乗せた桜餅の甘さも、もう彼女には届かないのだろうか。
「そっちの世界にも、香りや味覚があるのかな」
和也は香炉に線香を立てながら呟き、静かに両手を合わせた。
「俺も拓も、何とかやってるよ。だから京香も……たまには遊びに来なよ」
話しかけても、妻の声は聞こえてこない。
京香が突然、業務中の交通事故で命を失
レンタサイクルの彼女 (第一話)
【二十四歳の冬】
カレンダーをみて、床がもう冷たいのを感じた。彼女が家を出てから一週間は経つだろうか。
晴天の霹靂だった。
二人が別々の方向に進む選択のスイッチは僕が握っていると思っていた。でも彼女も同様に同じスイッチを持っていて、それを押したのだった。
彼女とはなんとなく、このまま一生を添い遂げると思っていた。僕の人生はいつも上手くいかない。彼女は僕に不満を持っていたのだろう。まぁ、
掌編集『球体の動物園』① ゴリラVSイメージ
「おい、ねぇちゃん、俺たちと遊ぼうぜ」
今どき珍しい声の掛け方をされたとき、私の頭の中を巡ったのは『ひとり暮らしの女性が、近所のコンビニでお弁当をひとつだけ買うのは危険です』という、昔どこかで読んだ忠告文だった。
今のこの状況のように、コンビニから跡をつけられたりするらしい。
「ねぇちゃん、可愛い顔してるな。仕事帰り? カラオケボックスでも行かない?」
「結構です」
「ふん、カラオケじゃなくて