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和食ランゲージ通信

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和食ランゲージは、和食文化を捉える、47個の「キーワード」のコレクションです。 それぞれのキーワードは、歴史を通して繰り返し見られる和食の特徴を一つ捉え、概念化しています。 こ…
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#料理

【和食ランゲージVol.22】ちいさなご馳走

〜後日〜 日本のおかずは汁気が少なく味が染み込んでいるため、冷めても美味しく食べられます。また漬物など塩分濃度の高い保存食が多いことや、日本の米は冷めても味が落ちないことなどの条件も重なり、和食は携帯食に適した食文化として発展しました。 握り飯を味噌や漬物と一緒に包む弁当は、最も簡易的な携帯食として昔も今も親しまれています。弁当箱が誕生したのは安土桃山時代で、遊山や花見などの娯楽時には、見た目に凝った弁当がつくられました。 江戸時代になると、外食文化の誕生に伴い、

【和食ランゲージVol.21】愉快な粉もん

和食は米食を中心として発展してきた食文化ですが、小麦粉を使った料理も数多く存在します。中でも異彩を放っているのが「粉もの(粉もん)」と呼ばれる料理たちです。 粉ものに明確な定義はありませんが、お好み焼き、たこ焼き、もんじゃ焼きなど、粉を溶いた液に様々な具材を混ぜて焼く料理は、全国各地にバリエーションが存在します。ピザ、チャパティ、タコス等、他国の粉物料理は水分を飛ばして焼き上げるのに対し、日本の粉ものは水分が多く、ふわふわ・とろとろといった食感を楽しむことが特徴的で

【和食ランゲージ通信Vol.20】お茶と楽しむ食

多くの食文化では水や酒とともに楽しむのに対し、和食の食事では、お茶を合わせるのが一般的です。 日本のお茶は、仏教の伝来とともに中国から緑茶が持ち込まれたのが始まりとされています。その後大陸とは異なる製法や飲み方が独自に発展していきました。中国では釜炒り製が一般的なのに対し、煎茶、玉露、抹茶、番茶などの日本の緑茶は蒸し製でつくられ、風味が長持ちするなど品質が改良されています。また烏龍茶や紅茶などの茶葉は発酵しているのに対し、緑茶の茶葉は発酵していないのも特徴的です。 安

【和食ランゲージ通信Vol.19】一汁三菜の型

   和食の献立はご飯と漬物に汁物・おかずを組み合わせる形式をとっています。その原型は室町時代に誕生した本膳料理とされています。これは数々のおかずや汁が載っている「膳」が幾つも並べられる大変豪勢なものでした。その後、本膳料理を簡素化したものとして、茶の湯の席で食べる懐石料理が生まれます。現在食べられている一汁三菜は、この時千利休が確立したもので、元々はお茶と一緒に楽しむ簡単な料理でした。     「型」が存在することで、おかずや汁物を入れ替えるだけで食事のバリエーション

【和食ランゲージ通信Vol.18】 アイヌの食文化

【和食ランゲージ通信Vol.17】制約が生む創造性

  日本の料理には、歴史的に多くの制限が課せられていました。その最たるものが奈良時代以降、約一二〇〇年にも渡って続いた肉食の禁忌です。中でも仏教の修行僧の食事として発達した精進料理では、殺生戒に従って獣肉はもちろん、魚介や鳥類を食することも禁じられていました。そのため豆、芋、野菜などの食材を濃い味付けで調理したり、油であげたりすることで、体力の消耗が激しい武士でも美味しく満足できる、洗練された料理が完成しました。肉などを使わない代わりに、豆腐や麸を油であげるなどして肉に似

【和食ランゲージ通信Vol.16】調和と均一化

和食には様々な食材を一緒に「巻く」ことで一つの料理にしてしまう料理が多く存在します。その代表例が「巻き寿司」です。黒い海苔の上に真っ白な飯を広げ、そこにこれまた多様な食材を並べ、最後にはその全てを巻いて一つにしてしまう。完成した巻きものには力強さと粋があります。切ったときのカラフルな断面や、棒状のままかじったときの歯ごたえなど、巻物ならではのコントラストが楽しめます。 その他にも磯辺巻きや鳴門巻き、巻き柿など、巻いてつくる料理は多数存在します。これらは全て、個々の食材の

【和食ランゲージ通信Vol.15】年中行事とのかかわり

【和食ランゲージ通信Vol.14】くせになる苦味

健康長寿への関心が高かった日本人は、薬用効果があるとわかった食材は、たとえ苦くても積極的に食べる文化を持っていました。やがて「苦いものは体によい」という感覚を経験的に養い、様々な苦い食材を摂取するようになりました。 はじめは薬用として食べていた食材でも、食べているうちに独特の美味しさを感じるようになります。苦味は味わいの幅を広げ、次第に「くせ」になり、それなしでは物足りなくなってしまいます。 苦味を持つ食材の多くは、春の訪れを告げる風味でもあります。冬を明けた頃に芽を

【和食ランゲージ通信Vol.13】多様な舌触り

多様な舌触り和食ランゲージNo.13 和食では独特の舌触りをもった食材を楽しみます。 納豆、とろろ、なめこ、もずくといったヌメヌメ、ネバネバといった舌触りを持つ食材を、日本人は好んで食べてきました。これらは、他文化の人からすれば「気持ち悪い」と思われがちですが、和食ではこの独特の感触こそを味わいの醍醐味とします。オクラや生卵のように後発的に日本に伝わった食材も、その独特な舌触りが好まれ、難なく食文化の一部に取り込まれました。 こうした食材は生やすりおろしの状態で食べ

【和食ランゲージ通信Vol.12】体調管理の知恵

【和食ランゲージ通信Vol.11】音の味わい

(コトコトコトコト…) (グツグツグツグツ…) (コトコトコトコト…) 牛蒡や蓮根など根菜類のコリコリと歯ごたえのある食感、また新鮮な山菜類などのシャキシャキとした食感は、それ無しでは美味しさが半減してしまうほど、味わいの大切な一部です。これらの食材を料理する際には、例えば根菜ならば金平や和え物にするなど、繊維さを壊さず食感を損なわない調理方法が選ばれます。 この他にも一汁三菜に欠かせない漬物のパリパリとした食感、魚卵を楽しむ際のプチプチとした弾ける感覚、煎餅や霰

【和食ランゲージ通信Vol.10】出汁のうまみ

西洋や他のアジア諸国のように獣肉の脂やタンパク質、また刺激的なスパイス類を歴史的にあまり使用しなかった日本では、鰹節、昆布、煮干し、椎茸などの食材から引く、洗練された独自の味わいが発達しました。中でも和食の出汁の基本となる昆布と鰹節を合わせる出汁は本膳料理や懐石料理とともに発達し、室町時代以降に文化として広まったとされます。 日本の出汁には、他の食材の風味の邪魔をせずに味わいを引き立てる力があります。出汁のうまみが加わることで、野菜や海産物を中心とした淡白な食材でも、美

【和食ランゲージ通信Vol.9】魚から摂る栄養

日本近海は、多様な魚介類が集まる世界屈指の漁場です。暖流と寒流が入り混じる沿岸、入り組んだ海岸線や大小の湾、多くの島々など、魚を獲るのに適した自然環境があります。陸地においても山々に覆われた国土は河川に恵まれ、川魚も多く獲れる国です。新鮮で活きのよい魚が豊富に手に入った日本では、焼き魚や煮魚などの料理に加え、魚を生で楽しむ寿司や刺身の文化も発達しました。 殺生を戒める仏教の風習から奈良時代以降長らく肉食が禁止されていましたが、魚食は例外とされていました。動物食が制限され