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空想お散歩紀行 物語の道

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空想の世界の日常を自由に描いています。
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2023年4月の記事一覧

空想お散歩紀行 AIウィザード

空想お散歩紀行 AIウィザード

かつて、世界には魔法使いがいたと言う。魔法という人々の理解の範疇を超えた力を使い、時に人を助け、時に人の脅威となり、しかし科学の発展で、いつしかその存在は絵本や伝説の中だけになってしまった。
しかし、科学のさらなる発展は再び魔法使いを世に出すこととなる。

甲高い音が長くフィールドに響く。
試合終了を示すホイッスルの音。
その日行われたサッカーの試合は、8-0というサッカーの試合としては珍しい大差

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空想お散歩紀行 鎧の国

空想お散歩紀行 鎧の国

いつの頃からか、その国では危険が常に隣にあると、人々の心に深く刻まれ来た。
それは、暴力や犯罪といった人間固有のものの場合もあるし、天変地異や疫病など自然由来のものだったりする。
とにかく、危険と死が日常的に自分のすぐ傍にあると人々は感じていた。
だからその国の人々がまず最初に考えるのは自分の身を守ること。
そのために取った手段が、「鎧」である。
頭のてっぺんから足の先まで、全身を鎧で覆った。男も

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空想お散歩紀行 過去は変えられる

空想お散歩紀行 過去は変えられる

過去は変えられないけど変えられる。
彼は自分の魔法の力を人々のために使っていた。
彼はこの社会の中で、自分が魔法使いの末裔であることを隠しながら生きていた。
彼は心理カウンセラーとして、日々心に重い何かを縛り付けた人たちに対して、治療を施している。
彼の使う魔法は、時間移動に関するものだ。
大昔、彼の先祖の中にはその肉体ごと、自由に過去や未来に行くことができたほどの大魔法使いもいたそうだが、魔法の

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空想お散歩紀行 未来に与える影響は計り知れず

空想お散歩紀行 未来に与える影響は計り知れず

今からおよそ2000年前。キラドアエ地方には、古代マロエ帝国という巨大な帝国があった。
周辺諸国を統合し、巨大化の一途を辿った帝国だったが、ある時を境にそれまでの隆盛が嘘のように帝国は滅びの道を辿ることになる。
なぜ帝国は滅んだのか、いまだ諸説にいとまはない。
内乱、疫病、自然災害。数々の説が挙がっては研究者たちの間で日々論戦が繰り広げられている。
そんな中、先日古代マロエ帝国領内だったとある島で

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空想お散歩紀行 カタツムリ族

空想お散歩紀行 カタツムリ族

街を歩く人々。老いも若きも、男も女も皆一様に同じ物を背負っていた。
それは、肩から腰下くらいにかけての大きさの長方形の箱のような物。
最初にこれを背負っていたのは一人の魔法使いだった。
魔法の腕はそれなりのあったのだが、彼女は極度の心配性で、常に不安がその心から離れることは無かった。彼女にとっては外を歩く、それだけでもかなりのプレッシャーだった。
人や音、彼女の周りの世界は、彼女にとって刺激があま

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空想お散歩紀行 トンネルの国

空想お散歩紀行 トンネルの国

そこに空は無かった。いや、空という概念さえ、そこに住む人々にあるのかすら分からない。
地面も壁も天井も、同じような灰色に包まれた空間。
トンネルの国。そこは狭く、しかしどこまで続いているか分からない長い長い空間がずっと続いている。
そのトンネルは分岐し、その先でさらに分岐を繰り返し、地面の中を複雑に絡み合うように領域を展開している。
しかしどれだけ地中を進もうが、分かっていることが一つ。
いまだ、

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空想お散歩紀行 魔王様休職中

空想お散歩紀行 魔王様休職中

日が暮れる。窓から見える夕日を眺めて、彼女は何を思うのか。
少し前までは、今日も一日何もできなかったと、自分のふがいなさを感じながら、夕日と共に気を沈めていただろう。
でも今は少し違う。相変わらず無力感からくる自己嫌悪は大きい。でも、今日は少し散歩のために外出できた。花壇に水をやることができた。おやつを食べることができた。
どれも大したことではない。でも今の彼女にとってはその大したことではないこと

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空想お散歩紀行 忘れ物博物館

空想お散歩紀行 忘れ物博物館

とある街の中にその建物はあった。
決して目立つような外観はしていないが、どこか不思議な魅力を感じる洋館だ。
それは大昔、ちょっとした貴族の邸宅だったらしい。そして今では改装され、博物館として使われている。
展示されるものは、その時々で変わる。
この博物館のオーナーの趣味のようなものだった。
白髪でメガネを掛けた老人。それなりの歳のはずだが背中はまっすぐに伸びており、見方によっては若者より健康そうに

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空想お散歩紀行 あの世の今を伝えます。

空想お散歩紀行 あの世の今を伝えます。

常識、風習、慣習、掟に文化。一度その場所に定着してしまったものを別の色に塗り替えるのは難しい。
新しいものが入ってくると、元々あったものとの衝突は避けられない。
新しいものが取れる手段は限られている。
古いものを潰すか、共存していくか、もしくは撤退していくかだ。
俺には撤退という選択肢はなかった。どんなものでもその価値を広げてきた。マーケティングのプロとして。
俺に流行らせることのできない商品や企

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空想お散歩紀行 何もしたく無い日もある

空想お散歩紀行 何もしたく無い日もある

街の中の何てことの無いマンションにその部屋はあった。
そこは現代の社会の中で頑張りながらも、上手く行かなかったり、周りに認めてもらえなかったり、無理して普通に合わせ、常識に合わせ生きてきて、顔に笑顔を貼り付けたまま疲れてしまった人が辿り着く場所。
今日は何もしないための部屋。
そこには簡単な備え付けの家具があるだけで、他にこれといった特徴は無い。
ただ、何もしないための部屋なのだから。
テレビを見

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空想お散歩紀行 最も手ごわい相手

空想お散歩紀行 最も手ごわい相手

とある所に一人の侍がいた。
男は剣を取れば敵は無く、今まで一度も負けたことがない。
その名は国中に轟き、およそ彼に剣の勝負を挑むものなど、今や一人もいなくなってしまった。
それでも男は強さを求めた。このままではつまらない。どこかに自分の力を試し、そして勝つための相手がいないかどうか。
だが誰に聞いてもそんな相手は分からないと返ってくる。
そんな時、一人の僧侶と男は出会った。
男はダメ元で僧侶に聞い

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空想お散歩紀行 心静かに不安の中に

空想お散歩紀行 心静かに不安の中に

青年は一人で旅をしていた。
彼が今歩いているのは、『巨人の箱庭』と呼ばれる場所だった。
森林や、川や池が見事に調和しているその一帯は、まるで人間以外の、それこそ巨人の手によって意図的に作られたのではないかと思われるような完璧な作りだった。
その自然の中を歩いていると、あらゆることがちっぽけに思えてくる。
自然の偉大さ、人間以上の存在を思わせる何かが、青年の心に流れ込んでくるようだ。
そしてそれは不

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空想お散歩紀行 昨日が無くとも

空想お散歩紀行 昨日が無くとも

毎日記憶を失う男がいた。
朝目覚めると、昨日自分が何をしたのか、どこへ行ったのか、全て忘れてしまうのだ。
ただ自分がそういう特性を備えているということだけはなぜかずっと覚えていた。
男は、常に不安に駆られていた。
過去のことを何一つ覚えていない自分は、この先どうなってしまうのか。
過去を積み上げられない自分は、未来もないのではないのかと心配でたまらなかった。
だが、今では彼は毎日を幸せに過ごしてい

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空想お散歩紀行 雨の中のタクシー

空想お散歩紀行 雨の中のタクシー

静かな夜だった。雨の雫が空気を切る音だけが聞こえてくる、静かで少し冷たい夜だ。
一台のタクシーに客が乗り込んできた。
スーツを着た、若い男だ。
男は後部座席に座ると同時に行き先を運転手に伝えようとするが、上手く言葉が出てこない。
行くべき場所は分かっているのに、そこの場所のことをどう伝えればいいか分からない、そんな感じだ。
困っている様子に気付いたのか、運転手は後ろを振り返ることなく、バックミラー

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