空想お散歩紀行 未来に与える影響は計り知れず
今からおよそ2000年前。キラドアエ地方には、古代マロエ帝国という巨大な帝国があった。
周辺諸国を統合し、巨大化の一途を辿った帝国だったが、ある時を境にそれまでの隆盛が嘘のように帝国は滅びの道を辿ることになる。
なぜ帝国は滅んだのか、いまだ諸説にいとまはない。
内乱、疫病、自然災害。数々の説が挙がっては研究者たちの間で日々論戦が繰り広げられている。
そんな中、先日古代マロエ帝国領内だったとある島で大量の銀貨が発見された。
遺物が発掘されること自体はそれほど珍しいことではない。何しろ帝国領土は広大だったのだから。
今回話題になっているのは、その発見された銀貨のデザインがこれまで帝国内で使われていた通貨とは明らかに違うということだ。
しかも何十種類という違うデザインの銀貨が一度に発見された。
これには研究者は喜びと困惑を同時に現すことになった。
通貨のデザインはその当時の力の象徴でもある。人々が何に権力や影響力を感じていたかを考察するのに重要な手がかりだ。
研究者たちは考えた。これだけ大量に様々なデザインのお金が出てくるということは、それだけ帝国内で崇められていた力の象徴がたくさんあったのではないか。
つまりそれは、盤石と思われていた帝国内部の闘争を意味し、ひいては帝国滅亡の原因を解き明かす鍵になるかもしれないと。
当時の痕跡から、今は亡き時間の事実を掘り起こす。歴史の探究とはまさにどんな宝探しよりもエキサイティングなのかもしれない。
「お、これはなかなか斬新な絵ですな」
「そうでしょ?いやあ、これを作るにはかなり苦労があってですな・・・」
普段人があまり近寄らないとある島で、十数人の人々が何やら話をしている。そこには男も女も老いも若きもいた。
「これなんか我ながら過去最高の傑作だと思っていますよ」
「確かに、何かこう魂のようなものを感じる」
彼らが話しているのは、掌の上の銀貨についてだった。
「それにしても、最初は僕たちたった二人で始めたこの『銀貨同好会』もそれなりの人数になりましたな」
「そうですね。やはり同好の士というのは思いのほかいるものです」
ここにいるのは皆、銀貨が好きな者たちだ。
それは貨幣としての価値が好きなのではなく、デザインとしての銀貨の魅力に引き込まれた人たちだ。
「好きが高じて、こうして自分オリジナルの銀貨まで作るところまで行くとはね」
「ただ、いくら街とかで使うつもりが無いと言っても、勝手な銀貨造りは罪だから、こうして隠れながら楽しんでるわけですが・・・」
「この背徳感がまた、何とも言えない隠し味みたいになっているというか」
「何だか秘密結社みたいですね」
世の中には様々な趣味を持っている人たちがいる。
そして彼らの多くは今を楽しむことを是としている。
自分たちの行動が遥か遠い未来で、人々に大きな影響を与えているとは欠片も想像することなく。
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