空想お散歩紀行 カタツムリ族
街を歩く人々。老いも若きも、男も女も皆一様に同じ物を背負っていた。
それは、肩から腰下くらいにかけての大きさの長方形の箱のような物。
最初にこれを背負っていたのは一人の魔法使いだった。
魔法の腕はそれなりのあったのだが、彼女は極度の心配性で、常に不安がその心から離れることは無かった。彼女にとっては外を歩く、それだけでもかなりのプレッシャーだった。
人や音、彼女の周りの世界は、彼女にとって刺激があまりにも強すぎた。
だから彼女が自分の魔法の技術を応用して作ったのが、背負うことのできる個室だった。
何か自分の心に強い負担がかかったとき、そこに入ることができる。
吸い込まれるように中に入った後は、外から見ると単なる箱がそこに置かれているようにしか見えないが、中は魔術によって自分にとって快適な空間となっている。
その中は外界からの音も軽減され、街の中であっても一人の時間を確保できる。
いつでも自分の空間に逃げることが可能になった彼女はこれで生きやすくなった。
そして、もしかしたらと思い、自分の作った物を世の中に問うてみたところ、思いのほか同じ考えを持っている人が大勢いた。
そして現在、ほとんどの人がこの個室を携帯し生活をしている。
公園や休憩スペースには箱がいくつも置いてあった。その一つ一つで人がくつろいでいた。
個室を背負うその姿は、カタツムリのような感覚を人に覚えさせた。
人々は大勢の中で生きながらも、一人の、孤独な時間と空間を常に欲していたのだ。
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