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空想お散歩紀行 魔王様休職中

日が暮れる。窓から見える夕日を眺めて、彼女は何を思うのか。
少し前までは、今日も一日何もできなかったと、自分のふがいなさを感じながら、夕日と共に気を沈めていただろう。
でも今は少し違う。相変わらず無力感からくる自己嫌悪は大きい。でも、今日は少し散歩のために外出できた。花壇に水をやることができた。おやつを食べることができた。
どれも大したことではない。でも今の彼女にとってはその大したことではないことが、小さくとも希望なのだ。
心を壊して半年。魔王と言えども心はある。
彼女は現在休職中の魔王様だった。
世界を闇に覆うという使命のもとに頑張ってきたが、人間たちの抵抗で思うように進まない計画。部下たちの統率。なかなか取れない休み。いくつもの要因が重なってついに魔王様は伝説の勇者と対峙する前に倒れてしまった。
心を壊してしまったと言っても魔王である。その身には強大な魔力が以前と変わらずあるはずなのだが、それを操る気力が今の彼女にはない。かつては山を一つ吹き飛ばすほどの炎を出すこともできた魔術は、今やマッチ程度の火を出すことも彼女にとっては疲れる作業である。
今は何よりも休養をということで、彼女は静かな日々を送っている。
不安や焦燥、今の彼女は心のほとんどを消極的な感情が占めているが、この経験は彼女にとって重要なものになる。
「魔族のとっての本当に良い世界とは何なんだろう・・・魔王の生き方って一つしかないのだろうか・・・」
自分を見つめなおす魔王様の休職生活はまだしばらく続いていく。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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