空想お散歩紀行 過去は変えられる
過去は変えられないけど変えられる。
彼は自分の魔法の力を人々のために使っていた。
彼はこの社会の中で、自分が魔法使いの末裔であることを隠しながら生きていた。
彼は心理カウンセラーとして、日々心に重い何かを縛り付けた人たちに対して、治療を施している。
彼の使う魔法は、時間移動に関するものだ。
大昔、彼の先祖の中にはその肉体ごと、自由に過去や未来に行くことができたほどの大魔法使いもいたそうだが、魔法の力が世の中の人々の中から薄まってしまった現代において、彼にそこまでの力はない。
彼ができるのは、患者の記憶をもとに、その患者の意識だけを過去の世界に短時間だけ飛ばすことだけだ。
そしてそれでも十分な効果があった。
人は過去によって苦しめられていることが多い。
怒り、悲しみ、傷つけられた過去は、現在になってもその痛みは続く。そしてその痛みの発生源は他でもない自分なのだ。
だから、自分の過去に戻り、もう一度その場面を見ることが大切になる。
それは本人にとっては再び傷をえぐられるような苦しみだろう。
だが、過去に飛ばされた意識は、その傷となった場面を少し上の視点から眺めるように見ることになる。
そうすることで、自分の傷を少し客観的に観察できるようになるのだ。
距離を取ることで、違う見方が生まれてくる。
悲しみや怒りに、別の解釈ができるようになるのだ。
自分は悪くなかった。相手にも理由があった。たまたまそうなっただけだった。
新たな解釈は、心に絡みついていた鎖をほどくきっかけになる。
過去に起こった事実は変えられないが、過去の解釈は変えることができるのだ。
彼の魔法が解け、過去から戻ってきた患者たちは、不思議な体験に戸惑いを覚えつつも、明らかに彼のもとに来る前とは違った何かをその心に得ていた。
現代の魔法使いは、人々の心に優しく寄り添っている。
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