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Tale_Laboratory
2021年4月30日 11:22
「さて、今日の授業を始めるぞ」「はい、師匠!」口ひげをたくわえた60歳くらいの見た目の男が、目の前の机に座るたった一人の弟子の女の子に語りかける。まだ幼さの残る少女は元気に返事をして、真剣な表情で師匠に向き合う。二人はこの世界における魔法使いの師と弟子だった。「今日は空間転移、分かりやすく言えば瞬間移動、ワープだな。それについて教える」「おお、魔法っぽい」空間転移、離れた場所に移動す
2021年4月29日 11:10
「ちくしょう!アタイをどうしようってんだ!コノヤロー!!」激しい言葉を大声で叫んでいるのは見た目だけなら普通の女の子のようだが、改めて見てみると人間とは違う。とがった耳。小さな二本の角。コウモリを思わせる黒い羽根。彼女は悪魔の少女だった。彼女は今、魔法陣が書かれた床の上にあぐらをかいて座っている。特に拘束されているようには見えないが、床の魔法陣は悪魔封じの魔術であり、彼女はそこから出ること
2021年4月28日 10:25
ある日突然世界がゲームに強制参加させられた。老若男女全ての人間が当たり前にネットに接続し、生活のあらゆる面でネットが欠かせなくなった時代。当然それぞれが持っている財産もネットで管理されていた。そしてある時、世界中のほとんどの人間の財産が「半分」持っていかれた。金持ちも貧乏人も例外なく、半分。そしてすぐにそれを行った犯人の声明が発表された。世界中から金を盗んだのは、「フリーエン」と名乗る者
2021年4月27日 10:12
降り注ぐ雨の中を傘を差した一つの影が歩いていた。その影は手にいくつもの瓦礫とも言えるような金属製の何かを抱えている。そしてそれらを抱える手もまた同じように金属の光を薄暗い雨の中でも鈍く反射していた。それは手だけでなく、全身が金属の部品で構成されたロボットだった。山のように積み重なっている金属の瓦礫とその間からたくましく生えている植物の道を彼は歩いていた。しばらく歩いた後到着したのは、かな
2021年4月26日 09:49
夜は魔法の時間である。魔法使いたちは主に夜、地上に現れて活動をする。特に若い魔法使いたちにそれは顕著だ。昼間に彼らの姿はほとんど見かけることは無い。夜の帳の中こそ彼ら彼女らと邂逅する時であるから気を付けねばならない。そもそもなぜ夜が魔法使いの時間なのかと言うと―――「猟犬は?」「大丈夫。この時間なら別の場所を回ってる」「最近結界が新しく変わったんだろ?大丈夫なのか?」「視界探索型だか
2021年4月25日 09:42
墓とは何か。死んだ人間が天国なり地獄なり、あの世と呼ばれる所なりに行くのなら、墓とは一体何のためにあるのか。とある男は生前そんなことを考え、そして墓とは死後の家であると答えを出した。だから彼は死後、自分が暮らす家の設計に取り掛かった。家と言っても小さな小屋のようなもので、それでも墓としては十分大きなものなのだが。彼はそこをとにかく自分好みに彩った。日当たりと風通しの良い場所に家を建て、
2021年4月24日 10:51
安楽椅子探偵という言葉がある。自分自身は現場に赴かず、外から与えられる情報だけを頼りに推理をし、事件を解決に導く探偵のことだ。アタシも言うなれば、その安楽椅子探偵に含まれるのかもしれないが、アタシはそもそも現場に行く必要すらない。なぜならアタシはネット上で起こっている事件のみを取り扱っている探偵だからだ。ネットの広大な海が活動場所であり、そういう意味ではこの世界よりも広いかもしれない。「
2021年4月23日 11:13
不老不死というのも考えものだ。100年も生きられない人間と違って、私は既に500年以上生きている。もはや何年生きているとかそんなことに何の価値もない。ただ、不老不死だろうと、寿命が1日だろうと、流れる時間のスピードは平等なわけで。簡単に言ってしまえばヒマなのだ。だから趣味を始めることにした。屋敷の敷地を利用してガーデニングをすることにしたのだ。最初は小さな花から始めた。植物はいい。季
2021年4月22日 11:20
今日が今日であることは間違いない。でも、昨日が昨日であること、明日が明日であることは果たして誰が保障してくれるのだろうか。~~~~~どうやら、眠ることがスイッチになっているようだ。私はある日突然あることに気づいた。目覚める度に人生を乗り換えている。昨日は私は普通のサラリーマンだった。だが一昨日はそこそこ売れているミュージシャンだった。そして、今日は女子高生になっている。毎朝起きる
2021年4月21日 10:58
この国には夜しかなかった。かつては逆に昼しかなかった。一日中沈まない太陽が国を照らし続けた。そこでこの国の魔法使いが巨大な布を作り出し、それで国全体の空を覆うことで夜を作った。一日の半分をその布を使うことで、この国は昼夜を手に入れた。しかしある時、その魔法使いが不慮の事故で死んでしまう。その時は夜だった。それからというもの、誰も布を取り払う術を知らぬまま150年以上の月日が流れた。今や国の
2021年4月20日 10:59
「すげーッ!!」その日、大学の教室で一人の男の周りに人だかりができていた。人だかりが覗き込んでいるのは彼の持っているスマホの画面。そこに誰もが知っている世界的有名アーティストの名前が載っていた。それは時間取引の履歴画面だった。1時間を1万円で買った履歴が載っている。世界中のほとんどの人間が公的な個人のナンバーを持っていて、それに紐づけられて時間取引の履歴が保存される。つまり彼の時間取
2021年4月19日 09:47
世界には数多くの冒険者がいる。平和のために魔王を倒さんとする者たち。誰も見たことの無い未開の土地や未知の財宝を発見することを夢見る者たち。ただ旅を楽しむ者たち。そんな千差万別の冒険者たちにも共通のことがいくつかある。その一つが旅をする上で欠かせない道具の数々だ。「今日はいい天気で良かった。さあ、今日中に収穫しちまうぞ」とある若者が元気いっぱいに一日の作業を始めようとしていた。ここはとある薬
2021年4月18日 14:21
しとしとと柔らかい雨が降り注いでいる。「今日は穏やかだな」窓の外の景色を眺めてから、男は部屋の中を振り返る。その部屋は中央に6畳間程のスペースがガラスの壁で区切られており、スペースの外はいくつもの機材が所せましと置かれている。そしてスペースの中は、外の無機質な空気とは逆におとぎ話のような淡い色の世界があった。そのスペース、ガラスで仕切られた小部屋の中央にはベッドが一つ。柔らかな布団にくるまれ
2021年4月17日 14:08
列車が出発してから、今日で287日経った。僕は日課の手記をノートに記しながら、自分の部屋の窓の外見た。窓の外に広がるのは青一色の世界。世界は今、水の中にある。終わらない雨。100年前に預言されたそれは、外れることなく的中し、そして言葉の通り全ての水の中に沈めた。かつて人々が天を見上げて、空に一番近い場所だと思っていた標高の高い山々は、今では小島に成り果てている。もちろん世界がそんな状態