空想お散歩紀行 世界が沈んだその後で
列車が出発してから、今日で287日経った。
僕は日課の手記をノートに記しながら、自分の部屋の窓の外見た。
窓の外に広がるのは青一色の世界。
世界は今、水の中にある。
終わらない雨。100年前に預言されたそれは、外れることなく的中し、そして言葉の通り全ての水の中に沈めた。
かつて人々が天を見上げて、空に一番近い場所だと思っていた標高の高い山々は、今では小島に成り果てている。
もちろん世界がそんな状態になっては人々は生きてはいけない。しかし100年前の預言の時点から準備を進めてきた人たちがいた。
その人たちが100年という時間を掛けて作り上げたのが、この水の中を進む列車だった。
一両に数百人が住める空間があり、それが千近く連なった巨大コロニー列車。世界中の水中で数えきれないほどの数が走っている。
僕が乗っているのはEDEN700系ポセイドンの一つ。
水の中を進むこの列車はエネルギーや食料等人が生活するのに必要な機能を全て備えている。
その他にも娯楽施設等もある。ついこの間268号車でいい雰囲気のカフェを見つけた。意外なところに意外なものがあるものだ。
そしてそのカフェで実に綺麗な女性を見かけた。彼女はそこの常連なのだろうか。そしてどの車両で暮らしているのだろうか。今度また見かけたら声を掛けてみようか。
僕はノートを閉じて部屋を出る支度をする。今日は別の車両を散歩してみよう。
預言が正しいとすると水が引いて再び世界が元の姿に戻るまで、また100年は掛かるそうだ。僕が生きているうちにはその時は訪れないだろう。今やこの列車が僕の生きる世界。せっかくだ、ここでしか味わうことができないことを今は楽しむとしよう。
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