空想お散歩紀行 眠り姫の見る夢は
しとしとと柔らかい雨が降り注いでいる。
「今日は穏やかだな」
窓の外の景色を眺めてから、男は部屋の中を振り返る。
その部屋は中央に6畳間程のスペースがガラスの壁で区切られており、スペースの外はいくつもの機材が所せましと置かれている。そしてスペースの中は、外の無機質な空気とは逆におとぎ話のような淡い色の世界があった。そのスペース、ガラスで仕切られた小部屋の中央にはベッドが一つ。柔らかな布団にくるまれて一人の少女が眠っていた。ベッドの周りにはぬいぐるみ等が置かれ、さながらお姫様のようだった。
記録が正しければ、この少女は1000年も前から眠り続けている。そして一切歳を取っていない。
ここはとある小島にある研究所だが、最初はここに一つの石造りの塔が立っていて、そこで彼女は眠った状態で発見されたらしい。そこから一度も目を覚ますことなく、長い年月を経て、塔は最新設備の整った研究所となった。
ただ眠っている。それだけでもすごいことなのに。さらに信じられない秘密が彼女にはあった。
おそらく彼女は夢を見ている。そしてその夢がこの世界に影響を与えている。
長年の研究の成果で彼女は特殊な波長を発していることが分かった。その波長は分析され今では数十種類の色に分けられている。
今日は薄浅葱。とても小さなマイナス。
だから今日は雨が降っている。
彼女の波長とこの世界との間にどのような関係があるのかはまだ分かっていない。
ただ深くつながっているのは確かだ。
十年前、彼女が緋色の波長を出した時に、ある地域で未曾有の大災害が発生し、大勢の死者を出したこともある。
逆に彼女がいい夢を見ると、世界にもいい影響が出るのだ。
研究者たちが明らかにしようとしているのは、彼女の夢と世界との関係、そしていかに彼女にいい夢を見てもらえるかである。部屋の中を飾り付けているのはせめてもの気休めだった。
彼女は世界を救う者なのか、それとも破滅させる者なのか。
過去には彼女のことを知った者たちが、彼女を世界の災厄と捉え、葬り去ろうとした戦いも何度も起こったらしい。
しかし結果として彼女はまだ生きてここで眠り続けている。
彼女を観察し、調べ、見守り続けている者たちは皆同じ思いを抱く。
この世界と彼女が深く繋がっているのだとしたら、彼女が目覚める時がもし来たら世界はどうなってしまうのかと。
彼女が今どんな夢を見ているのかは誰も知らない。それに興味を抱きつつも、決して触れてはならないものを覗き込むかのように、今日も研究者たちは世界の真実に近づこうとしていた。
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