空想お散歩紀行 我が力とくと見るがいい!
「ちくしょう!アタイをどうしようってんだ!コノヤロー!!」
激しい言葉を大声で叫んでいるのは見た目だけなら普通の女の子のようだが、改めて見てみると人間とは違う。
とがった耳。小さな二本の角。コウモリを思わせる黒い羽根。
彼女は悪魔の少女だった。
彼女は今、魔法陣が書かれた床の上にあぐらをかいて座っている。特に拘束されているようには見えないが、床の魔法陣は悪魔封じの魔術であり、彼女はそこから出ることができない。
その魔法陣の小部屋には彼女ともう一人、白を基調とした制服に身を包んだ男が立っていた。
こちらは人間であり、歳は23。彼は悪魔と対立する教会と呼ばれる組織の一員だった。
彼は足元にいるその悪魔の少女を捕まえた張本人であった。
「くそッ!人間ごときに捕まるなんて!アタイをどうする気だ!言っとくがどんな手を使われても人間に屈したりなんかしないからなッ!」
悪魔の少女は相も変わらず大声で叫んでいる。しかし一見人間を罵るようなその言葉の内容とは裏腹に、表情はどことなく嬉しそうというか、期待感がにじみ出ている。
教会の青年、ミロクは正直困っていた。悪魔を捕まえた側が困惑していて、捕まえられた悪魔の方が喜々としている。本来なら逆になっていてもおかしくない状況である。
「さあ来い人間!煮るなり焼くなり好きにしやがれ!」
魔法陣の上に仰向けに倒れる少女悪魔。それを見てもミロクはまだ悩んでいた。
その時部屋の扉が開き、一人の女性が入ってきた。
ミロクと同じ白い制服を来た女性だった。
「先輩。その悪魔の所業の資料まとまりました」
「ああ、ありがとう凛子」
凛子と呼ばれた女性から資料を受け取り、ミロクはその内容に目を通す。
「先輩の言った通りでしたよ。その悪魔がやったことは前例が無い異質なものばかりです」
資料に一通り目を通したミロクは軽く天を仰いだ。できれば自分の思惑と違っていて欲しかったという気持ちが外れたからだ。その資料は彼の予想通りの内容でしかなかった。
「おい、悪魔」
ミロクはしゃがんで少女悪魔に話しかける。
「お前の処遇だがな・・・」
彼の言葉が終わるかどうかの間に、それまで仰向けに寝転がってた悪魔少女は飛び起きで彼のすぐ鼻先まで顔を近づけた。
「おお!それでアタイはどうなる?十字架殴打の刑か?それとも聖水漬けか?どうなんだ!?」
やはりどこか目を輝かせている少女を前にミロクは特に口調を変えずに続けた。
「まず何で俺たち教会が悪魔を捕まえて罰しているかと言うと、単純な話、悪魔が人間に危害を加えるからだ」
「当たり前だ!それが悪魔の存在理由だからな!」
「そう、悪魔は人間に危害を加えるために存在する。だがな・・・」
ミロクはもう一度資料に見ながら、資料と悪魔少女の顔を交互に見た。
「お前がこの人間界でやったことと言えばだ、とある町で地震を起こした」
「ああ。この前のアレだな。うむ、アタイがやったことだ」
「・・・だが、怪我人はゼロ。それどころか地震でできた地割れから温泉が湧き出て、財政破綻寸前だったその町は一気に回復した」
「・・・・・・」
さっきまで大声で話していた悪魔少女が急に黙り込んだ。
「それから新種のウイルスを生成してばら撒いたよな?」
「そ、そうだ。間違いなくアタイがやった!人間どもを恐怖のどん底に落としてやるためにな!」
「お前が作ったウイルスだがな。今この国で流行ってる別のウイルスとどうやら相性が良くてだな。互いにくっつき合って全く無害のウイルスになったみたいだぞ」
「・・・・・・・」
完全に固まってしまった悪魔少女。
「あ、あとお前、魔物召喚しただろ?何か小型のやつ。あれな、今ゆるキャラとして子供たちに大人気になってるぞ」
もはや、何の言葉も出なくなってしまった悪魔少女にミロクは止めの一撃を入れた。
「お前、何しに来たの?」
「人間どもに絶望を与えるために決まっておろうがあああッッッ!!!」
ようやく反論した少女だったが、もはや涙目である。
「この調子だと、他にもいろいろやってんな?」
「まだ未確認の情報ですが、各地で原因不明の『イイこと』が起きています」
凛子の言葉にミロクは頭を掻く。
「大体、悪魔のやつらがこっちに来る時はもっと派手に来るだろ。だから教会も補足できる。だけどお前は俺がたまたま見つけた」
そう、この悪魔少女を捕まえたのはただの偶然だった。
「つまり、正式な形でこっちに来たわけじゃない。こっそり出てきたわけだ。何だ?家出か?」
ミロクは適当に言ったつもりだったが、悪魔少女は顔を真っ赤にしていた。どうやら図星だったようだ。
「分からせてやるんだ!アイツらに!アタイだった立派な悪魔だってことを!」
「詳しいことは分からないが、すっげー内輪のことだってことは分かったよ」
人間に恐怖と不幸を与えるのが悪魔だ。そして彼女もそのつもりで行動してきたのだろうが、それが全て裏目に出てしまっているわけだ。
「さて、どうするかな・・・」
「結果としてはアレですが、自然操作に厄災召喚、能力だけ見れば十分ランクA相当の悪魔ですよ」
凛子の指摘通り、まさにそこが悩みどころなのだ。
「能力だけは一級品か・・・」
とは言え、現状彼女は捕らえられて自由に行動はできない状態にはいる。
「・・・めんどくせ。とりあえず保留」
正直な感想が口から漏れたところで、ミロクは部屋を出ていった。その後を凛子も付いていく。
部屋に一人残された悪魔少女は、ただ驚いていた。
「保留って何だ!?今すぐアタイを拷問に掛けろよ!聖なる力とかぶつけて来いよ!」
部屋からかなり離れても彼女の声は聞こえてきていた。
「どうやら、教会に捕まって罰を受けることで悪魔としての拍が付くと思っているようですね」
「厄介なの連れ込んじまったなあ」
立派な悪魔として認められたい少女と、悪魔を裁くはずの人間たちとの生活はここからしばらく続くことになる。
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