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空想お散歩紀行 魔法使いたちの夜

夜は魔法の時間である。
魔法使いたちは主に夜、地上に現れて活動をする。特に若い魔法使いたちにそれは顕著だ。
昼間に彼らの姿はほとんど見かけることは無い。夜の帳の中こそ彼ら彼女らと邂逅する時であるから気を付けねばならない。
そもそもなぜ夜が魔法使いの時間なのかと言うと―――
「猟犬は?」
「大丈夫。この時間なら別の場所を回ってる」
「最近結界が新しく変わったんだろ?大丈夫なのか?」
「視界探索型だから不可視の術と魔力痕跡消去で抜けられるわ」
夜の闇。月明りも乏しいその空間で、男女二人ずつ4人の若者が声を潜めて話していた。
彼らは魔法学校ルーンの生徒。ほとんどの人間はこの世界に魔法使いがいることを知らない。それは魔法使い側がその存在を秘匿のものとしているからである。
この魔法学校も例外ではない。
結界を張り、外からは見ることができない。さらに遥か上空にこの学校は存在しており、常に世界中をゆっくりと移動し続けている。
絶対安全な空の孤島。
しかし全寮制でもあるこの学校の生徒からしてみれば、ここは空の牢獄でもあった。
遊び盛りの若者が外に出ることもできず、魔法の勉強ばかり。当然息が詰まってくる生徒もいるというもの。
だから彼らの中には時々学校を抜け出す者がいる。
ただ今は学校の現在地の時間で午後9時。
規則の厳しいこの学校では消灯時間になっている。
「この日のためにいろいろ準備したんだから」
一人の少女が実に楽しそうににやけている。
「今夜は三日月。結界も本領発揮できない。さらに今いるのは、ニッポンのトーキョー上空」
「行くっきゃねえわな」
他の3人もこの日を楽しみにしていた。今さら引き返すわけにはいかない。
はやる気持ちを抑え、あくまで慎重に抜け出す。ワクワクと冷静な気持ちが一緒くたになったこのスリルが、もしかしたら一番の楽しみなのかもしれない。
とにかく彼らは静かに暗闇の中を進む。途中校内を巡回しているゴーレムを躱しながら。そして学校の敷地、中と外を隔てる結界の手前までやってきた。
「いい?私のダミー人形がごまかせるのはせいぜい2時間だから、それまでには戻るのよ」
「分かってるよ。せっかくの青春、たっぷり楽しもうぜ」
4人はうなずくと、それぞれが不可視の魔法を使い透明になる。
そして空気だけが小さく流れ、気配が消えた。
~~~~~~
夜の街。太陽は沈んでも人工の灯りはそこに昼間と同じだけの光を生み出し闇を押し出している。
そんな街でも隅々まで光が届いているわけではない。
小さなビルとビルの間の細い路地。そこに4つの影が静かに舞い降りる。
黒のローブを纏っていた4人の姿が変化する。
独特の雰囲気の服装はあっと言う間に、この街にどこでもいるような若者の服装になった。
「さあ、時間は限られてるんだ。さっさと行こうぜ」
「ここに来たら食べたいと思ってたものあるんだよねー。まずはそこ行こ」
「寮のみんなに何かお土産買ってく?」
4人は路地から出て、街へと向かって行く。
夜は魔法使いたちが動く時間。それは日頃の世界から抜け出して、魔法の無い世界を楽しむための時間でもあった。
そして―――
「・・・今、空から人が降りてきたぞ」
魔法使いの4人は気付いていなかった。その路地の影に一人の少年がいたことに。
少年はそっと4人の後をつけていった。
夜は魔法使いたちが動く時間。そして本来交わることが無いはずの世界同士が交わってしまう時間でもある。

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