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長いものに巻かれるエッセイ

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素数のエッセイです。是とするものを中心に。散文に注意。
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なんとなくで買ったホラー小説がすごかった。 "撮ってはいけない家/矢樹純"

なんとなくで買ったホラー小説がすごかった。 "撮ってはいけない家/矢樹純"

なんということなんだ。
結局、極上の書物に出会うには、SNSを参考にするのではなくて、己の感覚にすがる方が良いということなのか。

装丁とタイトルに惹かれて、事前情報0で購入した新書、”撮ってはいけない家”。矢樹純さんという方の作品。恥ずかしながら初めて名前を聞いたのだけど、ミステリーで有名な賞を複数受賞されてる人だった。今度読もうと思う。
で、本作。

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NIGHT CANDYをやってみた雑感。

NIGHT CANDYをやってみた雑感。

なんのことかよくわからない方はTwitterにて、#夜飴 と検索してみよう。

突然シティポップにハマったというイメージがあるかもしれないけれど、僕はもともとCharaや土岐麻子、日暮愛葉が好きだったから、いつかもう一度マイブームとしてシティポップがやってくることは必然であったと思う。
 そしてそんな必然のマイブームがやってきたタイミングで、DJイベントの企画を何かやりたいと思っていたとしたら、「

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俄雨を待ち侘びていた僕へ

俄雨を待ち侘びていた僕へ

雨は嫌いだ。

今となっては。

自転車で東西南北を駆け抜けるライフスタイルなもので、雨は死活問題になりうる。
「ふざけんなクソ雨が!!」と叫びながらなにわ筋を爆漕ぎする三十路過ぎた男がいたら、それは大概僕である。

夏になると、ここ数年はゲリラ豪雨が毎日のようにやってくるから気が滅入る。リッチだからタクシーめちゃくちゃ使っちゃう。

俄雨のことをゲリラ豪雨と言うようになったのはいつからだろう。

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いつまでも記憶からこぼれ落ちないものもある

いつまでも記憶からこぼれ落ちないものもある

そんな話。

僕が大阪で生活を送り始めてから、もうかれこれ15年近くになる。
高校時代までを地元で過ごした訳だから、あと数年で、年数で言えば逆転してしまう訳だ。

僕の地元は、典型的な、観光で成り立っている町だった。
隣町は有名な温泉街。
逆隣は全国的に有名なカニの産地。
その間に挟まれる、僕の町に来るモノ好きな人達の目当ては、海だった。
生まれた時からすぐそこにあったので分からなかったけど、あの

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不要不急の文体

不要不急の文体

小さい頃から、ずっと変わらない人生の目標がある。

それは、「普通に死ぬ」こと。

漫然と抱いている目標なので、何が普通か、とはあまり深く考えていないのだけど、人生の最後の瞬間の事柄を目標にしたら、燃え尽き症候群にもならないし、案外いいじゃないの。なんて思ったりしていた。

そうこうして過ごしてくうちに幾星霜。
昨今のコロナの蔓延のおかけで、「死」がぐっと身近に感じられるようになった。
「死」は、

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京極堂シリーズを20代の間に読み終えられなかった話

京極堂シリーズを20代の間に読み終えられなかった話

こんなタイトルにすると、ぼくが今しがた三十路を迎えたばかりのような捉え方をされるかもしれない。そう捉えて頂いても一向に構わない。
が、残念ながら、こちとら三の者となりて、既に十五ヶ月ほど経過している。

表題の件。

ぼくの十代は江國香織女史の十年だったと言っても過言では無いと思う。
小学四年生の頃だったと記憶しているが、母親が読んでいた「きらきらひかる」を読んだのが始まりだった。はっきり言うが、

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夏フェスに久しぶりに行って思った事

夏フェスに久しぶりに行って思った事

久しぶりに夏フェスなるものに行ってきた。
およそ10年振りとなるSUMMER SONIC OSAKA。
B'zを日本人初のヘッドライナーとして迎える最終日に、出不精を押し殺してのこのこと推参仕った訳である。

快晴すぎる程の快晴となったこの日、最初に観たThe STRUTSからクールダウンしつつゆったりTwo door cinema clubを眺めるまで、身という身をしゃぶり尽くした手羽先の様に余

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オードリーがメディア王に挑んだ日

オードリーがメディア王に挑んだ日

暑い。

それにつけても暑い。梅雨を通り越して、我先にと夏が来てしまった。蝉の音が聞こえないのが不思議なほどである。

どうせ季節を先取りするなら、晩秋まで先取りして欲しかった、などと恨み節をこぼしている三十路男は僕だ。

こんな日は家中の電気を一切消して、ホームランバーを舐めながらラジオを聴くに限る。これは人類が長い年月をかけて発見した自然の摂理なのである。

僕には敬愛する芸人が何組かいる。と

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東の都は春の味

 3月2日。

 新大阪駅を11時50分に発車する新幹線に間に合うように家を出た。
 大阪は晴れていた。とはいえ、向かう先が果たして肌寒いのか、はたまた暖かいのかわからない。
 ならば寒いよりはマシだろう、とダウンジャケットを羽織ってみたのだけど、結果的にこれは正解ではなかった。

 寄り道することなく、まっすぐと僕をそこへ運んでくれた新幹線を降りると、もうそこからジャケットのジップを上げることは

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そうだ、散歩に行こう

 散歩が好きだ。

 こう言うと、やれジジくさいだの、寂しいだの散々な言いようをされることがほとんどだ。しかし僕は言いたい。散歩の楽しさをわからない君たちの方が寂しい人間だと。

 「歩」という漢字を含むものの、僕は散歩は必ずしも歩くものではないと思っている。
 まだ僕が因数分解も解けなかった頃から、一人でふらふらと自転車を漕いで、あてもなく彷徨うのが好きだった。僕が育った町は–––今となってはそ

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