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散文詩

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#場所

青い森 《詩》

青い森 《詩》

「青い森」

僕と君はふたりきりで
限定された場所に居る

といっても僕等は全くの
ふたりきりでは無い

ふたりの間には 

もうひとつの別の世界の存在があり

それは暗闇の中にじっと
身を屈め潜んでいる

その場所では 

ゆっくりと美しさが損なわれていく

そんな世界である事を
僕等は知っていた

人混みの中で 
ふたりは名前すら持たない

唯一 限定された場所でしか

僕と君は細やかな解放感

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奇跡の羽 《詩》

奇跡の羽 《詩》

「奇跡の羽」

僕は意識の中にある
無明の深みに降りていく

其処には檻の中に閉じ込められ

其処から抜け出ようとしている
自由な魂の羽ばたきが聴こえる

鋭い革新性や力強い文体も無い

親密で独特な語り口で
其の羽ばたく音が聴こえる

まるで文章の余白にある
語られざる語りの様に

いつでも無い時代の
何処でも無い場所へと僕を誘う

其れは若き日の僕が
恋人と抱き合って 
美しい宵の時を過ごして

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NO 《詩》

NO 《詩》

「NO」

其の場所で

人々は望みもしない
花輪を首に無理矢理かけられて

天国へ入る為の手続きが
保留無く進められている

もちろん全ての人が

天国に行ける訳では無い

選別、区別が巨大な機械的な
システムにより事務的に遂行される

決して暴力的では無いが
幻想的でも無い 

其処に神は不在だ 

其の場所の壁には

スキャンダラスな落書きが
無数に書き込まれている

其処は約束された場所で

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湾岸都市 《詩》

湾岸都市 《詩》

「湾岸都市」

貨物船が白い航跡を残して
沖へ出て行こうとしている

此の場所には港があって 

其れを取り囲む様に街がある

其処から直ぐに山の斜面が始まり

家々が建ち並び港を見下ろす様に
山の上側まで並んでいる

海と山との距離は決して広くは無い

人々は此処を湾岸都市と呼んだ

僕は部屋で本を読んでいた

冷え過ぎたワインの瓶が汗をかいている

君の好きだったチーズをナイフで切る

クラッ

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不確かな世界の入り江 《詩》

不確かな世界の入り江 《詩》

「不確かな世界の入り江」

僕は長く歩き続けている

そしていつしか時の流れに

取り残されたまま

眠りについた様な

静かな入り江に辿り着いた

海面に小さな波 其れは細々とした
命脈を保っている様に見えた

入り江には白と青の帆を張った
ヨットが停泊し

マストがゆっくりと揺れている 

風は無い

岸壁の陽だまりで
猫が丸くなって眠っていた

ずっと先の岬の先端に

真っ白な灯台が見える

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アフターテイスト 《詩》

アフターテイスト 《詩》

「アフターテイスト」

ウィスキーの染み込んだ様な
彼奴の言葉と声が大好きだった

愛想の無い雑踏に紛れた

街並みを抜け出し横須賀まで

木陰に停めた  

VW タイプ3 ファストバック  

荒涼とした海原が見える場所 

其処には水平線と空が
交わる一本の線と

風にゆっくりと流されて行く雲が居た

祝福の陽射しは例外無く

彼奴の海にも降り注ぐ

海辺のカフェで誰にも邪魔される事無く

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告白に失敗した猫 《詩》

告白に失敗した猫 《詩》

「告白に失敗した猫」

より深く根付いた悪 

堅く地殻的で意図的な塊では無く

流動的で本能的であり 

地表に噴き出す溶岩の様な
致命的な悪を求めている

其れは方向性の違いなど

全く意識しない

選択肢も無く 

まるで我々こそが全ての
正論であるかの如く

存在するものを現存する
全てを飲み込んで行く

突撃と玉砕 

頑なまでの意志と決意すら溶かして行く

悪や溶岩は一種のメタファーに

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箱庭 《詩》

箱庭 《詩》

「箱庭」

自然に流れる思考水路 

幾つかの可能性を示唆し僕自身を導く

焦点をひとつに定め
鋭く意識を其処に集中させる

だからと言って簡潔に

要を得ている物語が降りて来る訳では無い

色々な外部的価値には
たいした意味は無く

想いの全てを言語化する必要も無い

僕は意識と現実の中間にある

箱庭に居る

かつては其処にあった体制に向かい

反体制の旗を掲げる事が出来たが

辿り着いた場所

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選ばれし者の試練 《詩》

選ばれし者の試練 《詩》

「選ばれし者の試練」

好むと好まざるとにかかわらず

何事にも支払うべき代償は付き纏う

いずれにせよ 

負けた人間は多くを語らない

何を言っても泣き事とか
言い訳にしか聞こえない

其の勝負の鉄則を守り僕等は皆 

黙り込む

此の場所は流刑囚により開拓された街だ

凶悪な暴行犯や殺人犯 

何度も犯行を積み重ねた札付きだ

囚人の多くは刑期を終える事無く
此の場所に骨を埋めた

僕等は此

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虚飾に満ちた街の空白 《詩》

虚飾に満ちた街の空白 《詩》

「虚飾に満ちた街の空白」

不調和な思想の中で僕はぼんやりとした
不明確な空白を抱えていた

そしてまた彼女も別の空白の中に居る

薄っぺらな虚飾に満ちた街の中

何処にも居場所を
見つけられないでいる君を見た

なんとなく僕には其れがわかった

僕等は二十一世紀的では無い
まわりくどい会話を交わした

僕等の抱えた空白を静かに

重ね合わせる事が出来たなら

少なくとも僕は其れを望んでいた

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ALL YOU NEED IS LOVE 《詩》

ALL YOU NEED IS LOVE 《詩》

「ALL YOU NEED IS LOVE」

時の海の中にひっそりと漂う

今は無き物質と其の記憶が

長く白い砂浜を音も無く歩き続ける

彼女はまだ僕の中で歩き続けている

確か随分前にも君を見かけたよ

同じ時間に同じ場所で

そう 話しかけたかった

微かな波の音が聴こえた

太陽は動かず時間は止まる

時々僕は彼女に出逢う 

ふとした瞬間に

何処か遠い世界にある場所で僕等は
強く繋が

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車窓 《詩》

車窓 《詩》

「車窓」

限られた目的が
人生を簡潔化して行く

其処には言語化される事の無い

自分自身のルールが存在している

平坦で無個性な街を

行き先表示の無い電車が走る

僕は座席に座り窓の外を見ていた

いったい何処へ行くんだろう

多様な選択肢が目に入り消え去る

時間の進みが早過ぎて 
僕は世界とのバランスを失った

上手く行かないのは

僕のせいじゃ無い

そう 誰にも聞こえない様に呟いた

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正しい場所 《詩》

正しい場所 《詩》

「正しい場所」

日付を持たぬ日々が通り過ぎて行く

僕は自分自身が存在して無い事に
気付いていない

違う 

存在しない者として 
ただ生きていた

其処にある時間軸に従いながらも

生の欠落を感じとっていた

僕は空にある雲に触れた 

其れは 

硬質で鈍色な塊 

其処には

虚無で深い沈黙だけが渦巻いている

聞こえる 

何の意味も持たない音が

大量のウィスキーが眠りに誘う

意識

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静脈 《詩》

静脈 《詩》

「静脈」

時間が不規則に揺らぐ

僕が心の中の牢獄に

閉じ込められている事を

誰も知らない 

其の牢獄を出る事は 簡単だ

自分自身の意志で出てゆけば良い

鍵をかけたのも
鍵を開けるのも全ては自分自身

周りの声達は

もう僕に話しかける事を辞めていた

僕は誰にも

見る事の出来ない風景を睨みつける

其処には枯渇した水脈がある

僕が解き明かすべき暗号を
君は持って居る

現実と仮説

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