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seiji_arita
2025年2月21日 12:37
「昨日の午後に」私達の言葉はだんだんと小さくなっていくふたりの書き残した文章に彼等は何の興味の片鱗も示さなかったからだ世間には噂が流布する 残酷性が強ければ強い程人々は群をなし 汚れた手で指を差すそれは欲するべき特定の悪だ退屈しのぎの悲劇を高架下にぶら下げ嘲笑う私は貴方の書いた詩の一節を読んでいる貴方は私が敬愛する詩人だった私は貴方の幻想の中に居
2025年2月17日 10:49
「立ち入り禁止の其の先で」「立ち入り禁止」という札のかかった金網の下を潜り抜けなだらかな坂を上がった僕は歩を止めてアスファルトの割れ目に咲いている何本かの花を見たそして丘の上に浮かんだ雲を見た 太陽はもう其処に沈みかけていた僕の君を呼ぶ声は希薄な冷たい空気の中で弧を描く風は無く 空気は静止している地上の全ての万物をぐっと押さえつける様に春が芽吹き 寄
2025年2月15日 17:22
「青い森」僕と君はふたりきりで限定された場所に居るといっても僕等は全くのふたりきりでは無いふたりの間には もうひとつの別の世界の存在がありそれは暗闇の中にじっと身を屈め潜んでいるその場所では ゆっくりと美しさが損なわれていくそんな世界である事を僕等は知っていた人混みの中で ふたりは名前すら持たない唯一 限定された場所でしか僕と君は細やかな解放感
2025年2月12日 12:56
「二月の残酷な月」僕等にはロマンスへの回帰が必要とされている二月の残酷な月 愚行の後悔を映し出し人の心を腐敗させてゆくそれはいつ果てるとも知れない無力さとして夜空を覆い尽くしていたその場しのぎの礼儀が愛想笑いをして通り過ぎてゆく独善的で幸運に恵まれた女性ロマンスや想い出をもたらしてくれるかもしれない危険珈琲に砂糖を入れないなんてアナーキストだわそ
2025年2月6日 21:21
「草の葉」僕の手に思考の電撃が走るそれは恋の始まりの様なものだった君は途方に暮れ 向かうべき道を示す常夜灯を探し彷徨っていた それは想像もつかない程の暴力を秘めた夜に似ている巨大にして偉大な静けさをもたらす夜に人々は優しい夢を見るというのに僕は路上で風に吹かれ散っていくラブレターを追いかけている彼女の意識の中にあるうちなる両手が僕を包み込んで離
2025年2月4日 23:08
「火遊び心中」僕の口からいちいち そんな事を言わせないでくれそれこそ表から裏まで 承知していたはずだ君が欲しがるものを誰もが迅速に届けてくれる訳じゃない誰も君にかしずいてはくれないって事さだいたい君が生きよが死のうが そんな事を皆んなが気にするとでも思ってるのかい君はいつか 違う奴と違う詩を歌う事になるだろう白昼の光の中に 夜の闇の静けさの中に
2025年2月3日 12:28
「愛の外郭」波の砕ける音がする あれは海なのか正義の道を踏み外さない様に 真っ直ぐと防波堤は伸びている僕は随分と長い間 彼女の事を描写していたそう 描写と言う言葉が一番的確な表現だ彼女の横顔 仕草 指先の動きまでも克明に彼女の微笑みは僕個人に向けられたものではないその事はわかっていたが僕は彼女の微笑みに合わせる様に微笑んだ世界を終末に導く悪しき事
2025年1月30日 16:30
「愛しき街の愛しき人よ」恋人はやって来て貴女を彼方へと連れて行くそれでも私は何も知らないふりをする貴女は彼の為に詩を唄い私は貴女の為に詩を唄う私的な思考を涵養する為にだけ時を費やし磨き抜かれた個人主義は私自身の世界の歌であり何十万と言う言葉でそれを綴り続ける前衛的ではあるが決して自己本位ではない風が街に吹き付ける表面的な見た目とは裏腹に攻撃的でか
2025年1月29日 14:35
「ドストエフスキーを読みながら」貴方が居なければ 僕の人生と作品はもっと薄っぺらいものになっていただろうその部屋には陽光がたっぷりと差し込み風に揺られる樹々の影がちらついていた馴れ親しんで来た十字架の横に深層意識への入り口を並べる死と同じくらい逆行不可能な幾つかの悲しみについて 僕は考えている意図的に排除されたひとつの事実を貴方と囁き合う神のこだま
2025年1月26日 17:00
「蝶とリヴォルヴァー」一途に恋焦がれた理想郷互いの瞳の瞬きと甘美なせせらぎ三十八口径のリヴォルヴァー弾丸を弾倉から抜き出すまだ終わりを迎える訳にはいかない彼女の暗い涙のあとが残る頬に口づけをした日僕等は未知数をXと置き 其れを解き明かす為の何らかの公式を探していたそう 素敵な公式を何ひとつとして傷つけられず損なわれる事もなく辛い思いも残らない卑怯だ
2025年1月19日 03:45
「風の森と彼方に浮かぶ半月夜」孤独 或いは無口な漆黒を切り裂く半月夜月が遠く彼方に浮かぶ時君は個性と方向性を具えた存在感のある文脈を独り立ち上げて行く僕等は自分自身を守る事に精一杯だったね先ず周りの人達の顔色を伺ってからじゃないと何も出来ない周りを見て 場の空気を読んで無難な事を発言するお前 失礼な奴だ 何様だと思ってるのか とかそんな風に言われたり
2025年1月14日 14:32
「SO WHAT」そろそろ本当の話をしようか…君はそう切り出したいつだってそうだよねだって君は何も知らない 本当の事なんて何ひとつとしてわかってないペラペラの薄っぺらい言葉の羅列の中には何もない強いて言うなら自己顕示欲可哀想だね 格好悪いよ皆んな気付いるって言うのに其れを知らないのは君だけさ小説を書いていたんだプア ボーイがリッチ ガールを殺す物語 君はそんな
2025年1月10日 19:58
「イングリッシュ ローズ ガーデン」長く続いた雨も止んだフロントガラスの枠から雨漏りをしていたバンデンプラス プリンセスコーキング剤で漏れ箇所を塞いだ小さな白い薔薇が 何かを思い出す様に咲いている厚い雲間から太陽の光が溢れる ほんの一瞬の事だわからないものは永遠にわからないまま時は流れいつしか其の事自体も薄れ記憶から消え去って行く簡単に読み飛ばせる文章
2025年1月7日 18:58
「奇跡の羽」僕は意識の中にある無明の深みに降りていく其処には檻の中に閉じ込められ其処から抜け出ようとしている自由な魂の羽ばたきが聴こえる鋭い革新性や力強い文体も無い親密で独特な語り口で其の羽ばたく音が聴こえるまるで文章の余白にある語られざる語りの様にいつでも無い時代の何処でも無い場所へと僕を誘う其れは若き日の僕が恋人と抱き合って 美しい宵の時を過ごして