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「超」スゴイ「腸」」を作る!!!

うつ病や肌荒れ、イライラから癌まで、すべてに腸の健康が関わっているとがわかったのはここ最近のこと。それまでも、「腹がたつ」「腹を決める」「腹に落ちる」など、「腹=腸」と心の繋がりを表す言葉は数多くあった。

英語でもガット・フィーリング (gut feeling)、ゴー・ウィズ・ガット(go with gut)など、欧米人も「心」や「直感」が腸に宿ると気付いていた。

さらに医学の父と呼ばれるヒポクラスも、紀元前に「すべての病は腸から始まると書き残している」。

腸は自律神経を介して脳と密接に関係し、「感情」や「性格」も腸内環境に左右されるということまで最近の医学は証明している。これらは脳と腸の密接な関係、「脳腸相関」 (Brain-Gut Interaction)として深く研究され始めている。

実際に便秘とうつ病は併発しやすく、腸内環境が悪化して便秘が続くとうつ病を発生するだけでなく、うつ病になると自律神経の活動が落ちて腸の働きが低下し、便秘になる傾向があることが知られている。これが「脳腸相関」の関係を具体化した例だといえる。

セロトニンやドーパミンは腸で作られる

前向きな気持ちやゆったりとした気持ちを作ることに深く関係してるセロトニンやドーパミンも、腸(大腸)の中で作られるということがわかってきた。さらに腸内環境のバランスが乱れると感情や性格にまで影響が現れると言うことである。

実際にうつ病や認知症の人の便を調べると、悪玉菌の一種であるウェルシュ菌が多く検出されるという。

つまり腸と脳は密接に関係していて、超環境が乱れるとその影響は脳におよび、さらにその悪影響が腸にかえってくるという悪循環を形成する。そのループを断ち切るためには、まず超環境を整えること。

腸内フローラを乱す抗生物質や食品添加物を摂取しないようにし、食物繊維を多く含む野菜や海藻を摂ること。

全身の免疫細胞の7割が腸に集中


免疫力は病原体やがん細胞を攻撃する免疫細胞の働きによって発揮される。免疫細胞には樹状細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞などがあり、これらはいずれも白血球やリンパ球の仲間だ。通常免疫細胞は血液やリンパ液の流れに乗って体に異常はないかパトロールしているのだが、全身に均等に分泌しているわけではない。免疫細胞の約7割は腸に集中しているのだ。

免疫細胞が集中している省庁には腸管粘膜の表面にバイエル版という免疫機関が多数点在している。腸管粘膜の表面には、栄養を摂取する純毛と言うひだがびっしりとあるが、純毛があまりない平坦なところにバイエル版がいる。

このバイエル版が、病原体やがん細胞をせき止めて退治する役目を果たし、免疫力を発揮する一大拠点となる。一方大町にバイエル版はないが、腸管粘膜の粘膜層に住み着いている腸内細菌が免疫力に影響を与えている。つまり腸内環境を整えることが免疫力の増強につながるのだ。

運動で出るホルモンが大腸がん予防に関与


日本人のがん死亡数の第2位となっている大腸がんについて、国立がん研究センターがまとめたリスク因子によると、飲酒、赤肉や加工肉などが大腸がんのリスクと可能性があるとされている。食物繊維や魚由来の不飽和脂肪酸などがリスクを下げる可能性があることもわかってきた。

 しかしながら、食物繊維や魚油は、あくまでも大腸がんのリスクを下げる「可能性あり」と評価されたに過ぎない。一方、大腸がんリスクを「ほぼ確実に下げる」とされるのが「運動」だ。

大腸がん抑制作用に関する研究を行ってきた京都府立医科大学教授の内藤裕二氏の研究チームによると以下の研究成果が出ている。

 「マウスに大腸がん誘発剤を投与すると、すぐに大腸がんができるのですが、同じマウスを運動させると大腸がんの発症が抑制されます。ここに、運動することで骨格筋から分泌されるSPARC(スパーク、Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine)というマイオカイン(筋肉から分泌されるホルモン)が関与することを突き止めました」

 SPARCを作れないマウスでは、運動しても大腸がん抑制作用がなくなることが確認されたという。「SPARCにはがん細胞をアポトーシス(細胞の自殺)させる働きがあります。でも、本当にそれだけで大腸がんを抑制するのかな、と思い、腸内細菌も関与しているのではと考えるようになりました」

 そこで、運動したマウスの糞便を運動しないマウスに移植してみたところ、糞便移植されたマウスの腸で、運動したマウスの腸内細菌叢に近づくように増減する腸内細菌があることが確認されたという。また、運動したマウスでは、運動しないマウスに比べて糞便中に遊離型の胆汁酸が多く、抱合型の胆汁酸が少ないということも明らかになったという。


万病の原因である腸を活性化する体操


毎朝続けると確実に効果が感じられる体操。肌や爪の色が綺麗に変わってくるのがわかる。

1941年に体系化された足助体操は腸の硬化を和らげる体操で、万病の原因は「退行性変化」にあると考えた関西の治療家・足助次朗先生が考案したものだ。

退行性変化とは、日常生活で動かさなくなった筋肉や筋膜、臓器、血管などが萎縮したり、硬くなったりする現象。老化と間違えられやすいが、若い人にも起こる。

私たちの体は、飲食物を受け入れ(受納)、それをエネルギーに変え(化生)、さらにエネルギーを蓄えながら(貯蔵)、その過程で生じる老廃物を排泄している(排泄)。

この流れが滞ると、生命力の源である、新鮮な血液や筋肉が作れなくなってしまう。一連の流れをストップさせる、大きな原因のひとつが、「老廃物の停滞」であり、漢方の世界では、これらが滞りなく行われることを重視している。

つまり、老廃物の停滞は、血液の汚れ(瘀血)に直結し、血流を悪化させ、その結果、生命を支えるプロセスを滞らせ、万病のもとになりかねない、といのがその根本にある考え方だ。

腸が活発なら生命力も上がる

次朗先生は、「腸が活発に働けば、生命力も増強される」と述べている。
これはまさしく、生命力の鍵を握る器官は、腸だということだ。

次朗先生が考案した約200種類の動きの中でも、足助体操の真髄と言えるのが、「足首回し」だ。

マキノ出版『壮快』より


足首回しを試してみると、ひざ、太もも、骨盤、仙骨が連動し、腸にも伝わるのがわかる。足首を回すだけで、生命力の根源である腸の活性化につながり、老廃物も排泄されやすくなる。

結果、きれいな血液が全身を巡るようになり、結果として、さまざまな不調も改善していくという。

ダイエット効果のある人、ない人


同じダイエットをしても、効果の上がる人とまったく上がらない人がいるのはなぜか。すでに想像されているように、こちらも腸内フローラが関係する。このカラクリを明かす非常に興味深い実験が行われた。


なぜダイエットが効かないのか

 いくら頑張ってダイエットしても、いくら汗水かいてワークアウトしても、痩せない、痩せてもすぐ体重が戻ってしまう、そんな体験は多くの人が経験していること。一生懸命頑張っても、すぐにリバウンドしてしまう人も多いはず。それもそのはずで、痩せるためには「ダイエットと運動」という決まり切った考えから、最近はまた違った要素が考慮されるようになってきている。

 それは人の体の中に生息する微生物叢による考え方。つまり、microbiom マイクロバイオームという体内の細菌叢の役割を研究する医学分野だ。体内細菌の数は100兆以上あり、人の細胞の数よりも多いぐらいで、数にすると東京都の人口の3倍にもなるとか。(1)

 しかもその数の多さだけでなく、その種類は1000種類以上。種類の数やその分布の仕方も一人ひとりユニークで、指紋のようにそれぞれ異なる。それらは単に「悪玉菌」「善玉菌」といった単純な分け方では説明できないほどの深いメカニズムがあると考えられている。


エコシステムのような環境

 これらさまざまな細菌はヒトのカラダの中で、互いに働きながら、まるで森や植物ガーデンのような、エコシステムとしての環境を形作っていることがわかってきている。

 これらの細菌の役割もさまざま。たとえば、ビタミンB2・B6・B12 、パントテン酸、ビオチン、ビタミンK等のビタミンを合成したり、男性ホルモン、女性ホルモン等のホルモンを産生したり、またはインシュリンホルモン様物質を産生して血糖の調整をしたり等々。

 さらにあるものは食べ物を分解し、必要な栄養を取り出し、あるものは食欲を抑制したり刺激したりする役割を果たし、またあるものは脳への刺激を働きかけて気分を沈めたり、興奮させたりと、腸の中にありながら直接脳へと繋がっていることもわかってきた。

 面白いのはこれらの細菌の中には、体重や食欲をコントロールする働きがあるものがあり、その特定の種類の細菌を持っているかいないか、またどれくらいの数持っているかどうかで、ダイエットと体重との関係にも大きく影響を及ぼすことがわかってきたこと。

太るも痩せるも体内細菌で決まる?

 アメリカで行われた実験で、この体内細菌がいかにウェートコントロールに関係するかを調べた面白い調査がある。肥満気味な人から取った体内細菌とスリムな人から取った体内細菌を、細菌フリーの実験動物(ネズミ)にそれぞれ移植したところ、肥満気味な人から取った体内細菌を移植されたネズミはどんどん太っていって、同じものを同じだけ食べていてもとスリムな人から取った体内細菌を移植されたネズミの体重は増えなかった。

 同じものを食べても片方は太る、もう片方は太らない。体内細菌によってその現れ方が明らかに違うことが注目された。(2)

ある種の体内細菌は、食べ物のカロリーを効率よく消費させるのを助け、また別の種類の腸内細菌は病気に対する抵抗力を助ける役割を果たすなど、その働きは実にさまざま。

 さらに腸内にある細菌はベガスナーブという神経回路を通じて、脳の働きとも密接に繋がっていることがわかってきている。

例えば空腹感などについても、腸内最近の種類や多様性に関係して大きく変わってきますし、さらに腸内細菌の状態がうつ病やADDの原因にさえなっていることがわかってきた。(補足:糞便移植の効果と危険性 参照)

腸内細菌の状態で起こる疾患


引用:腸すごい! 医学部教授が教える最高の強化法大全 
引用:腸すごい! 医学部教授が教える最高の強化法大全

 体内細菌の多様性が鍵

 マイクロバイオームの研究はここ10年の間に急速に進んでいるものの、まだまだ謎の部分が多いと言われています。確かに言えることは体内細菌、特に腸の中の細菌の種類が多用的でしかもその数が多いほど、体の免疫力を助けること。

 腸内細菌の種類や数を増やす食べ物としては、やはり発酵食品が一番。納豆やキムチ、味噌などの発酵食品を摂ることの他に、これらの細菌が喜ぶ食べ物:食物繊維の多い野菜や海藻類を多く摂取しすること。"It takes guts"というドキュメンタリー映画によると、毎日の食物繊維摂取量を1グラムごと増やすことで平均して2キロの体重減少に繋がる結果が出ている。

 イギリスの医師、ティム - スペクターが行った実験によると、ファーストフードを数日食べ続けただけでも、腸内の細菌の数や種類が40%も減ってしまうことに。 それによって腸内環境のエコシステムとも言えるバランスが偏り、さまざまな障害の原因となります。つまり毎日の食べ物がいかに大切かということが解明された。

 また精神的なストレスによっても、体内のエコシステムのバランスが大きく変わることや、また赤ちゃんも、生まれてから母乳で育った赤ちゃんと、人工ミルクで育った赤ちゃんでは、体内細菌の状態やバランスが大きく違っていることが明らかになってきている。

 カナダでの研究によると1歳の誕生日までに抗生物質を与えられた赤ちゃんは12歳になった時点で肥満率が2倍にも登ったことが報告されているほど。

 それではこの分野において、今これから私たちに何ができるのか。数々の研究者から推奨されている事柄についてまとめてみた。

1. 抗生物質を乱用しない。抗生物質は体に有益な細菌にも影響を与えてしまう。

2. 発酵商品を多く摂るようにする。 

3. prebiotics (=腸内細菌が喜ぶ食べ物) 特に食物繊維を多く摂る。 

4. バラエティに富んだ食材を食べるよう心がける。

5. 適度な運動やヨガ、瞑想などで心の疲れを取り去るよう心がける

6. 水以外に何も摂取しない時間帯を保つ断食、半断食をして、circadian rhythm (概日リズム)に基づいた食事をする。(これについては後述部分を参照)

7. 規則正しい睡眠時間をまもる。


まとめとしてはカロリー制限だけでは説明できない体のメカニズムについて知ること。体の中に生息する細菌叢、微生物叢全体細菌が、多種多彩で美しくバランスのとれたエコガーデンのような状態になることを目指すことで、免疫性の強い健康な体を作ることができる。


(1)Dr. William Li著 Eat to Healの文献による

(2)"It Takes Guts" Siceinece Researcher Ed Youngによる


腸内フローラのために心がけられること

1.  食物繊維を多く採る

腸内細菌のエサである食物繊維を多く採ること。豆類やナッツ類、玉葱やネギ、にんにくなどには多くの食物繊維が含まれています。キノコ類もまた食物繊維を多く含む食品。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよく採ることも大切。

2. 睡眠の乱れを防ぐ

概日リズムというコンセプトを耳にしたことがあるだろうか。英語でcircadian ehythmと呼ばれるもので、一般的には体内時計と呼ばれるものです。マウスを使う実験で、1週間かけて昼夜逆転するようなプログラムを作り、マウスの腸内環境を調べたところ睡眠リズムが乱れた環境でのマウスの体内では、腸内細菌のバランスが変わってしまうことが証明された。(これについては末尾の筆者のコメントをご参考のこと)

3. 発酵食品を食べる

プロバイティックと呼ばれる発酵食品を毎日採ることで、腸内環境は随分変わる。納豆や、ケフィア、サワークラフト、キムチなどの発酵食品がおすすめ。ヨーグルトは生産工程が問題で、昔ながらの作り方ではない限り、あまり効果は期待できない。

4. 瞑想する

腸内細菌の状態と心のリラックスした状態は、深い関係にあることがわかっている。最近では瞑想の効果が科学的に証明される研究がいくつもなされてきたが、朝の15分を静かに呼吸に心を合わせるだけでも、数週間後には大きな違いが現れると言われている。

5. 抗生物質を避ける

投薬による抗生物質は体内の細菌に大きな影響を及ぼす。抗生物質を体内に入れるときは慎重に。よほどのことがない限り避けるのが懸命。

6. ポリフェノールに注目

緑茶に多く含まれるポリフェノールは腸内細菌の強い味方。ナッツ類やブルーベリー、ブラックベリー、コールドプレスのオリーブ油などにも多く含まれている。


概日リズムについて

ここからは筆者の体験談になる。3年ほど前に疲れていても夜に眠れないことがあって、大阪にある鍼灸院を訪ねた。その先生に「夕食は日没の時刻に食べて、その後は寝るまで何も食べない」ということを教わった。

ちょうどその頃、概日リズムとintermittent fastingという半断食の方法についての関連の記事を読んだ。そこで毎日の食べる時間を1日のうち6~8時間内におさめるという方法を試してみた。

つまりその日の初めての食事を正午にした場合、2回目の食事を夜の6時か8時ごろまでには済ませる。そしてその後は寝るまで何も食べないで夜は夜更かししないでこれまでよりちょっと早めに眠るというもの。

これを3ヶ月くらい続けた頃から、体の変化が起こってきた。肩や腕の筋肉の隆起が顕著になってきて、人から言われて鏡を見ると確かに体がシマってきたようだ。体も軽くて、寝つきもよくなった。

運動量や質、食べ物の「量」に変化はないのに、いつ食べるかという「時間」を変えただけで、変化がみられた

その後も同じようなリズムを続けているが、長期出張や旅行に出て食べるリズムが狂うと体が膨らむような、ぽてっとした感じになる。これは個人的な体感でしかないが、人間は太古の昔、何日も食べるものがないという状態を生きていたので、「いつでも食べている」状態の方がかえって不自然なのかもしればい。

これはこれまでのカロリー計算によるダイエットを覆すものだ。「量を減らす」ダイエットがなぜ効果が薄いかというと、それによって、体の方も、消費エネルギーをセーブするように働くからだと、カナダの医師、ジェイソン・フォングは言っている。

つまり体が小食に慣れてしまい、余計なカロリーを消費しないような節約モードになってしまうのだ。だから小食でダイエットしても、ある程度痩せたあとは、体重が減らなくなるばかりか、リバウンドしてしまう。

オートファジーというノーベル賞を受けたコンセプトがこれに関連するものかと考える。

インシュリンの急上昇を防ぐために、朝食は必ず食べる、1日に何度も小量のスナックを食べて血糖値を安定させる、という方法が提案されているのを聞いたことがあるが、それに対して、「そんなことをするとインシュリンが常に働いていなければならずオーバーワークになる」ということも耳にする。まずは試してみて自分にあった方法を探してみるのがよいかと思う。

最後にひとこと。まずは試してみるということであればスクーンカップ 月経カップをチェックしてみてほしい。生理の不便さ、モレ、ムレ、ニオイなどの悩みを一掃する欧米ではもう常識の生理用品、月経カップ。日本で初めて薬事法をクリアした画期的な製品で、あなたの生理体験が「目からウロコ」になること間違いなし。


(補足)

糞便移植の効果と危険性


これまで、腸内フローラが私たちの健康に思っている以上の影響を与えるということを見て来た。その先にある、究極的な治療法として、最近、「糞便移植」に注目が集まって来ている。

糞便移植とは、健康な人の腸内細菌を、治療目的で患者さんの消化管に移植し、健康効果を期待する治療法。

正式名称はfecal microbiota transplantation (FMT)で、便微生物移植、腸内細菌療法などとも呼ばれる。潰瘍性大腸炎やクローン病などの難病から、アレルギー症状の改善やダイエットまで、広く効果が期待されるとして、日本でも取り入れる医院が増えてきた。

偽膜性腸炎の治療に効果が見られたFMT

アメリカでの、偽膜性腸炎の症例に糞便移植をした報告から抜粋する。

偽膜性腸炎とは、クロストリディウム・ディフィシルという菌が原因で起こる日和見感染症のひとつ。日和見感染症とは、抗生剤の大量、あるいは長期使用により、正常な腸内フローラが撹乱され、もともとは病原性のない菌が原因となり、重篤な症状を起こすケースがみられる病気のこと。

治療としては、原因となる抗生剤をすぐに中止し、重症例ではバンコマイシンという別の種類の抗生剤を投与する。

アメリカでは、この偽膜性腸炎(クロストリディウム・ディフィシル菌感染症)で死亡する人が1万人以上に及び、重症化すると予後は不良とされてきた。それが、糞便移植治療により劇的に予後が改善されたと報告されている。

糞便移植の方法にはいくつかのバリエーションがあるが、健康な人の便中にある正常腸管フローラを溶かした溶液を、経肛門的に注入。これは決して糞便を直接注入するわけではない。

この糞便微生物移植が適応されるようになってから、アメリカでの偽膜性腸炎による死亡率が劇的に下がったと報告されている。マイクロバイオーターの調節で病気改善が見込めるという説が、立証されてきている。

体重増加、感染症、死亡のリスク

しかし、決していいことばかりではないようだ。以下の文献に、この偽膜性腸炎に対して糞便微生物移植を行なった症例が書かれている。

上記のアブストラクトを要約すると、「移植する便を提供した人(ドナー)に肥満傾向があったところ、移植後に移植を受けた人(レシピエント)が、偽膜性腸炎は治ったものの、太り始めた」というものです。

同じ食事を摂っていても太りやすい人と太りにくい人に分かれるのは、マイクロバイオーターの環境の差が大きな要因となっていいる。その太りやすいという「体質」が、糞便微生物移植で移ってしまったということになる。

他にも、アメリカの症例からは、「糞便微生物移植をしてもあまり症状が改善しかなった」「発熱、痛み、むくみなどの副作用が認められた」などの報告があがっている。

糞便移植は、決して、100%安全で、100%効果のある治療法ではない。
糞便移植で多少太った程度であれば、まだ大きな問題はないかもしれないが、死亡例も報告されている。

2019年6月、糞便移植をした後に感染症で死亡した例がアメリカで報告された。米食品医薬品局(FDA)によると、臨床試験で糞便移植を受けた患者のうち2人が、多剤耐性菌に感染し、このうち1人は死亡。これを元に、FDAは糞便移植に対して警告を出している。

参考サイト:「糞便移植で感染症による死亡例、米FDAが警告」

当然、この例がすべて当てはまるわけではない。しかし、より慎重さが求められるようになる。

糞便移植の今後の可能性

糞便移植は、これまで投薬や手術でしか治療できなかった病気の治療を、変える可能性がある医療技術。一方で、予測できない「副作用」が起こるリスクは、まだまだ大きく、未知の感染症にかかる可能性、そして最悪死亡する可能性も否定できない。

さらに、ドナー(便を提供する側)にとっては病原性のないマイクロバイオーターであっても、レシピエント(便の提供を受ける側)では病原性を発現する可能性がある。そういう場合は、単に既知の感染症のチェックだけでは防御しきれないという。

どのような腸内細菌が、どのような人にどのような影響を与えるのかについては、まだまだ未知の部分が多い。FDAが糞便移植に実験薬剤と同様の規制を行い、現時点では適応を偽膜性腸炎だけに限っているのも、そういった理由によるものと思われる。

安易なブームに警鐘

増えてきた症例を見るにつけて、糞便移植は、一種のブームに乗って行うような治療ではないと、強く思う。今後、厳格な臨床研究を積み重ね、慎重に適応症例を決めていかなければ、その技術の可能性までもが失われてしまうだろう。




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