宮田愛萌『きらきらし』をよむ。
今年1月、アイドルグループ日向坂46を卒業した宮田愛萌による初の小説集。
主宰は過去の手痛い教訓からアイドルを「箱推し」すると心に決めている。敢えて明言することを避けてきましたが、今のご時世ならジャニオタ男子を標榜したって何ら後ろめたい気持ちになんてならないないはずですし、ごく自然なこと。それにせよ当時は特別な感情を抱いてしまったものですから、彼の卒業後しばらくグループの出演番組だって一切観なくなっていました。
俗に言う「ロス」というやつだと思います。傍から見ても圧倒的に男性人気の高い方でしたし、同じ気持ちになったファンは多かったのではないかと。それでもやっぱり推しの幸せは願うものだと痛感しましたし、彼が違う世界で大きなタイトルを獲った瞬間の興奮もまた筆舌に尽くし難いものだった。心底、彼を応援し続けていて良かったと思えた瞬間でした。
宮田さんには少なからず、当時の彼の姿と重なる部分があって。
所謂「進学メン」として、学業の合間を縫い時に持病を抱えながらステージに向かい続ける姿は胸打つものがありました。子ども時代とは打って変わりアイドルとの適切な距離を測るということもまた随分と難しくなってきて。なればこそどんどん「推し増し」していきたい所存ですし、たった1冊小説を買ったくらいでそのお手伝いができるのであれば喜んで。
自身がこよなく愛する万葉集に着想を得た5つの短編からなる本作は、実に軽やかな語り口ですらすらと読み進められる。ところが二度、三度読み返すまでもなくそこには坂口安吾や夏目漱石、宮沢賢治といった偉人が確かに顔を覗かせている。半私小説的な作風の中に電車や自転車といったモチーフが織り込まれているのにはどこか、秋元康オマージュすら感じさせる。
アイドル活動を経たからこそ増幅された世界観。
ある種「大喜利」の側面が強い作品だからこそ、もっと自由に書き進めて欲しいと期待させる部分すらあった。「バレエ」のレッスン先で芽生えた恋心にはどこか『源氏物語』が纏う形状の愛の片鱗を感じますし、「坂道」を駆け上がった先に佇む図書館で出会った「朝紀」を対比し描いた作品には『好きになること』と冠してあった。彼女は相当に鳴りを潜めてますよ。
本巻を飾る『つなぐ』には、持病と共に生きる自身の姿が投影されていたようにすら感じさせました。輝く舞台の上で成し遂げられたこと、あるいはこれから先叶えたい夢、あるいは過ぎ去りし日々への後悔。光が影をつくり影があってこそまた光が際立つ、そんな世界線に思いを馳せる逸作です。是非一度お手に取ってみて下さい。