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詩集|歌詞になる前の短編集

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メロディに詩をのせるとき、物語を削っていきます。削られる前の物語を短編集にしてみました。 どんな演奏にのせるかは、ご自由に想像してください。出来上がった歌詞も載せません。曲をど…
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記事一覧

夜明けのリボルバー(詩)

夜明けのリボルバー(詩)

ようこそ、リボルバー
君の輝きはとても静かだ
太陽が昇る直前が
君にはよく似合うようだ

冷たさは優しく体温に馴染む
手のひらに溶けてしまいそうだが
その硬さが存在を
ありありと証明している

未来を吹き飛ばす弾丸を一つ
キャンディみたいなもの

悲しみや痛みに
グッバイ

僕に、安らかな永遠を

アゲハ

別にヒップホップとか興味がない
アゲハみたいな子の物語
あの頃彼女は21
気弱なバーテンと仲睦まじい
寄り添うような二人暮らし
なぜか日陰に隠れるように
男は彼女を愛してた
プッシャーに沈められようが
ギリギリまで救おうとした
アゲハは耐えようとした
月に3回の生理とか
頻繁にやってくるフラッシュバック
二人は抱き合ってた
今じゃ過去のことだろうが
男の笑顔に滲む諦め
アゲハは今もう消息不明

(詩)幸せの鐘を打ち鳴らす時、僕の手はボロボロになっている

(詩)幸せの鐘を打ち鳴らす時、僕の手はボロボロになっている

物語を綴る
何よりも美しい話
そしてそれにすがりつく

失意の底で
幸せをもたらす鐘を打ち鳴らす
手のひらは血まみれなのに
涙は出ない

鐘は響かない
ひどく錆びている
叫んでいたらしい
喉がとても痛い

絶望の色をご存知ですか?

悲しみに暮れた夜に(詩)

悲しみに暮れた夜に(詩)

悲しみに暮れた夜には
チャーリーチャップリンに
会った方が いいぜ
彼は今もビルの陰で
乞食たちとバイオリンを弾いてる

その音を聞けば 君の悲しみを
そっと脱がせてくれるはずさ

君は部屋でうずくまってる
髪をといて早く外に出た方がいいね
耳をすませば聞こえる
街の喧騒にまぎれて

君の悲しみを 全部
僕に押し付けて くれないか
君の痛みを 全部
僕が食べて あげたいと思ってる

夜明けの海を

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オリジナル曲|虚ろな人

あの娘は脚がないから
綺麗な景色を知らない
だから伝えようとした
草原の夜明けを

桃色と紺が滲んで
風が抜けるのを映す
そいつを柵にもたれて
一人眺めてたのさと

あの娘はそれが嘘だと
知りながらキラキラと笑って
だけど本当はあまり
僕に興味はない

あの娘は耳がないから
愛の言葉を知らない
だからあの娘を抱きしめて
好きだよってつぶやく
この胸の震えが少しでも
あの娘に伝わればと
あの娘は僕の
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ベース・ギター(詩)

ベース・ギター(詩)

ミュージックマン・スティングレイ
恋人のセックスフレンドから買った
僕の黒いベース
7万円だった
それを手に入れた夜
悔しくて泣いた
だから今もレッチリが嫌いだ
フリーにもしも会えたなら
彼を殴り殺すんじゃないだろうか
いい迷惑だろうけど

結局僕がパンクバンドを組むことはなかった
今時パンクは流行らないって
その時周りにいた人たちは
ピアスだらけの僕を
指差して笑ってた
家に入り浸っていた売春婦

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独裁者の愛(詩)

独裁者の愛(詩)

ヘイトスピーチを掻き分け
夢に見た公園を目指す
赤いベンチには
幼い頃に恋をした彼女が座っている

罵声の中、僕たちが鐘を鳴らすと
誰もがファック・ユーと叫んだ

君が投げたブーケを手にしたのは
真紅のドレスを着た若い女
百合の花を引き裂き
僕たちに中指を立てている

今日の夕食は何にしようか
できれば君の料理が食べたい
オムレツみたいな簡単なものでいい
とにかく君が作ったものが食べたい

窓の外

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青空と静脈(詩)

青空と静脈(詩)

誰もいない美しい土地へ
いつか二人で行きたいと思ってた
途方に暮れた男と女に
逃げる先はそんな所しかないから

真夜中零時過ぎの並木通りにある宝石店へ
男はバッグにバール一つ入れて出て行った

航空券と小さなバッグを片手に
男と女はいつもの街を飛び出した
青空の下でサトウキビ畑が見たくて
そこで寄り添い二人で死にたくて

トラックの荷台で彼らは手を繋ぎ寝転んだ

僕のそばにいてほしいと泣いた男を

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エレクトリック(詩)

エレクトリック(詩)

ラジオから80年代のハードロックが流れた。
ディストーションはノイズみたいで、向日葵みたいに咲いた暴力。
つまり、どうでもいいんだ。

エレクトリックにしかない華がある。
言葉にするのは難しいから、チェ・ゲバラの写真にキスをしよう。

僕のことを分かってもらいたいかと聞かれたら、そうでもないねと答える。
今、自己愛と世界平和のために文字を書いている。
ジョン・レノンみたいにクソったれで、何がしたい

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二分間(詩)

二分間(詩)

ゴッドファーザーに憧れた男が背中を刺された。
最後の言葉はアイ・ラブ・ユー。
彼には愛する人なんていなかったのに。

刺した男は帰り道に想った。
愛しい売春婦。
今夜、君を助けに行く。

緑色の雨が降り始めた。
アスファルトが優しい色に染まる。
絵になる風景だけど、画家は気にも留めず通り過ぎた。

ライフ・イズ・ビューティフル。
チャップリンが街の片隅でバイオリンをひいている。
乞食たちは聴き入っ

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昼休み(詩)

昼休み(詩)

青空にまっすぐ伸びた飛行機雲をトンビがくぐりぬけた後、公園が爆発した。
ビアホールでラッキーストライクに夢中の人たちの中、髭の男は2杯目のビールを頼んでいる。

港に立った白い波はすぐに消えた。
船をゆったりと揺らして。

こんにちは

初老の紳士が泣いている女の子に声をかける。
女の子は彼に連れ去られた。

青空に流れ星がもう一つ。
さあ、次は君がさらわれる。