独裁者の愛(詩)
ヘイトスピーチを掻き分け
夢に見た公園を目指す
赤いベンチには
幼い頃に恋をした彼女が座っている
罵声の中、僕たちが鐘を鳴らすと
誰もがファック・ユーと叫んだ
君が投げたブーケを手にしたのは
真紅のドレスを着た若い女
百合の花を引き裂き
僕たちに中指を立てている
今日の夕食は何にしようか
できれば君の料理が食べたい
オムレツみたいな簡単なものでいい
とにかく君が作ったものが食べたい
窓の外ではデモが続いている
機動隊は彼らに賛同してるようだ
あまり止める気があるように見えない
一人は暴徒にコーラを渡してた
独裁者だった過去
僕は人種差別にいそしんでいた
今はすっかり落ちぶれて
人間扱いされていない
だから人を愛する権利なんて
与えられていないんだ
彼女と永遠を誓うことも
国を冒涜していると受け取られる
僕の罪だ
仕方ない事だと思うよ
だからこの暴動を
煽動している人を憎まない
だけど僕だってかつては
人を騙す演説ができたんだ
君を守るために声をあげる
このベランダから
暴徒諸君
君たちが私を憎む気持ちは謹んで受け取る
私は諸君を騙した
諸君の家族を、友を、恋人を殺した
そして愛を根絶やしにした
しかし私も人を愛してやっと気がついた
人種、宗教、思想は
愛を打ち壊すものではない
私にも愛する人ができた
諸君にできることがあるなら
それは一つだ
今すぐ私を殺せ
ピストルをこちらへ向けるのだ
私には撃たれる覚悟がある
さあ!撃つんだ!
早く撃て!
誰も撃たないのか!
諸君が私を撃たなかったことは
私たちの愛を認めたと解釈する
諸君たちも人を愛するんだ!
そして独裁者よ!
その権利だけは奪うな!
以上だ
ありがとう
彼女は僕を抱き寄せた
さあ、オムレツを食べよう
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