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2023年8月の記事一覧

『群青』(短編集『常設展示室』より)

『群青』(短編集『常設展示室』より)

『群青』(短編集『常設展示室』より)
原田マハ著

一言で言うと幼少期から、美術に惹かれて、ニューヨークのメトロポリタンミュージアムでの仕事を手にした美青が、緑内障になって、仕事を失ってしまうという話。字面を追えば、暗い話に見えるのだけど、深い切なさと芸術の喜びみたいなものが伝わってなかなか、良い。

①タイトルの「群青」とは?
その深い青色が非常に美しく見えるとされ、多くの文化や哲学で象徴的な色

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『最後の一句』

『最後の一句』

『最後の一句』
森鴎外著

一言で言うと、大阪の船乗り業を営む桂屋太郎兵衛が、従業員の不正に巻き込まれて、死刑を言い渡されるのだけど、自分の父は無実だと信じた長女が、奉行所に「願書」を提出して、父親は、死刑を免れるという話。

キーワード

「お上の事には間違いはございますまいから」
この一句が、「最後の一句」、奉行たちをビクつかせる一言だった。
お役所というところは、間違いのあってはいけないとこ

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【読書ノート】「バビロンの塔」(短編集『あなたの人生の物語』より)

【読書ノート】「バビロンの塔」(短編集『あなたの人生の物語』より)

「バビロンの塔」(短編集『あなたの人生の物語』より)
テッド・チャン著

バビロンの塔の建設に係る物語。主人公ヒラルムは塔の頂上で左官工事を担当する。古代メソポタミア文明、宇宙論、科学、そして人間と神の関係性を加味した壮大なテーマを扱う。

旧約聖書に「バビロンの塔」について、少しおさらいしておく。

バビロンの塔は人々が一つの言語で団結し、神への到達を目指したが、神は言葉を混乱させて人々を分散さ

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『△が降る街』(短編集『△が降る街』より、同名タイトルの一編)

『△が降る街』(短編集『△が降る街』より、同名タイトルの一編)

『△が降る街』(短編集『△が降る街』より、同名タイトルの一編)
村崎 羯諦著

"△が、降る"という珍しい街に住む3人の男女が繰り広げる恋愛物語。

登場人物は、俊介、麻里奈、そして主人公「私」(美樹)

キーワードを挙げておく、

「三角形」とは?
プラトンは三角形を物質世界の基本的な構成要素とみなしました。彼の哲学では、四元素(火、空気、水、土)は異なるタイプの三角形から構成されるとされました

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『非凡なる凡人』

『非凡なる凡人』

『非凡なる凡人』
国木田独歩著

桂正作という特別な才能を持たず、困難に立ち向かう勇気と努力の精神を通じて、優れた電気技師に成長するという物語。。不可能と思うことも努力と計画性と持続力によって達成できるのだという話。

この物語の理想とする人物像たである、桂正作というのは、実在するひとらしい。素直で、努力家で、勤勉で、しかも、虚栄心がない。

桂正作とはどのような人物なのか?:

1. 努力と忍耐

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『身投げ救助業』

『身投げ救助業』

『身投げ救助業』
菊池寛著

川に飛び込んで、自殺を試みる人々を助けて、そのお礼としてお金をもらって生活していた老婆の物語。

人助けのヒーローでいることは、誇り高い仕事でもある。みすぼらしい姿の自殺未遂者を指導者の目線で、憐んでいたのだった。改めて、人を救わなければと思うのだった。

そんな老婆の一人娘が、ロクでもない男ついて、出ていってしまい、その際、老婆が、ヒーロー業で稼いでいた、貯金をすべ

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『アイスクリーム熱』(『愛の夢とか』より)

『アイスクリーム熱』(『愛の夢とか』より)

『アイスクリーム熱』(『愛の夢とか』より)

川上未映子著

一言で言うと、(それだけで、終わってしまう物語なのだけど、)

アイスクリーム店員の<私>は、毎回イタリアンミルクとペパーミントスプラッシュを買う<彼>に恋をした。<私>は一緒に歩くのを提案して、何となく、彼の部屋で、アイスクリームを作ることになった。アイスクリームは、失敗した。それ以降<彼>は店に来なくなって、2か月後、店は閉店した。

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『世界で最も美しい溺死体』

『世界で最も美しい溺死体』

『世界で最も美しい溺死体』
ガルシア・マルケス著

著者ガルシアマルケスはコロンビア出身のノーベル文学賞受賞者で、魔法のリアリズムの代表作『百年の孤独』を生み出した作家。彼の作品は現実と幻想の融合とラテンアメリカの歴史や社会を反映し、多くの言語に翻訳されて世界中で読まれている。(Wikiより、かいつまんで要約)

本作品は、短編小説集『エレンディラ』に収録されている。

一言で言うと、ある小さな漁

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『阪急電車』

『阪急電車』

『阪急電車』
有川浩著

阪急今津線を舞台にした連作短編小説集。

各章は停車駅ごとにタイトルがつけられ、人々の出会いや別れ、その他降りかかってくる様々な問題。

映画は小説の中からいくつかを選んで、映像化している。
また、それぞれ独立したエピソードであった小説の話は、映画では、登場人物の交流があったりして、長編物語の体になっている。

小説と映画、それぞれが独自の魅力を持ちつつ、共に探求するテー

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『わかれ道』

『わかれ道』

『わかれ道』
樋口一葉著

一言で言うと、傘職人で孤児の吉三(16歳)は、近くに住む女性で針仕事をしているお京(20歳以上)を姉のように思い、慕っていた。ある日、お京は、妾になることを決めた。今後は、吉三とも、会うことができなくなることを告げた。そして、吉三は途方に暮れるという話。

お京は、努力して、「出世」することが、できると信じて生きてきたのだと思う。一方の吉三は、自分の生い立ちなどから、人

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「素敵な素材」(『生命式』より)

「素敵な素材」(『生命式』より)

「素敵な素材」(『生命式』より)
村田沙耶香著

短編集「生命式」より、第二弾。

けっこう、文章的には、気味悪い話なのだけどね。

主な登場人物
ナナ:主人公 「私」
ナオキ:ナナの婚約者

物語を一言で言うと、カシミア100%のセーターってみんなが、憧れるセーターだと思うのだけど、まあ、最近は、ユニクロでも、出すようになったから価格破壊は、おこっているかもしれない。この「カシミア」という言葉を

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『ぎょらん』

『ぎょらん』

『ぎょらん』
町田その子著(短編集「ぎょらん」より、同じタイトルの作品)

主人公、華子は、不細工らしいのだけど、美袋(みなぎ)さんという職場の既婚の上司と不倫をしていた。ある日、美袋は、バイクの事故で亡くなってしまった。そのお通夜から、帰宅したところから物語は、始まる。

美袋は、不倫をしていて、どうやら、バイクで、不倫相手に会いに行く途中、事故に遭い、そのまま、帰らぬ人になった。
華子は、特に

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【読書ノート】「女房ども」

【読書ノート】「女房ども」

「女房ども」
チェーホフ著

一言でいうと、主人公のマトヴェイ・サヴィッチが旅先で得意げに語る道徳的な偽善行為と社会的不公正な行為の数々の物語。

マトヴェイ・サヴィッチは、隣人の妻マシェンカと恋に落ちる。マシェンカの夫が帰ってきて二人の関係が発覚するまで、実は、二人は夫婦のように暮らしていた。夫の方は帰ってきて、家族と再会できたことを喜んでいたのだけど、不倫状況を知るとことになる。やがて、マシェ

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『26人の男と一人の女』ゴーリキー著

『26人の男と一人の女』ゴーリキー著

『26人の男と一人の女』
ゴーリキー著

『26人の男と一人の女』という4つの短編小説で構成られる本に収録されている同名タイトルの一編。

半地下の部屋で一日中巻パンを作らされている26人の男たちと、毎朝やってくる美少女のターニャとのやりとりを通して、労働者階級の人間が、どんな生き方をしていたのか、示されている。

ターニャは毎日、男たちに一声掛けてくれているだけなのに、男たちにとって唯一の希望の

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