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【書評】夏目漱石の『行人』はエロティシズムに溢れる作品だった

ロッシーです。
夏目漱石の『行人』を読みました。

弟よ、私の妻と一晩よそで泊まってきてくれないか――。
この世でいちばんわからないのは自分の心ではないだろうか。
繊細ゆえに孤立する主人公。名作『こころ』へと繋がる長編小説。

これはAmazonのページからの引用ですが、非常に良い「つかみ」だと思います。

「え?妻と一晩よそで泊まることを頼む兄って何?」

と気になって仕方ありません(笑)。

ということで、読んでみたのですが、これがまた予想外に面白い!

個人的には、夏目漱石の作品では今のところ一番面白いかもしれません。

『行人』は他の夏目作品と比べてマイナー感があり、あまり読まれていない印象です。しかし、本書を読まないのはもったいないと思います。

この小説、語り手である二郎と、二郎の兄の妻である嫂(あによめ)との関係が妙にエロティックな雰囲気を漂わせていて、読んでいて引き込まれるんですよね。

夏目漱石のことですから、基本的に表現は地味なのですが、そこに隠された艶めかしい感じがなんともいえません。

二郎にとってただの嫂ではない感じが、物語の中でひしひしと伝わってきます。嫂の何気ない仕草や言葉、そして二郎が彼女に向ける視線。これがまた微妙な距離感で描かれているんですよ。直接的な表現はないのに、そこに漂う緊張感と色気が、読者としてたまらなく興味をそそります。

特に印象的だったのは、嫂が二郎に何気なく話しかけるシーン。そこに含まれる言葉の裏側を二郎が敏感に感じ取る描写が、なんとも言えないエロティシズムを醸し出しています。

こういう表現は、やはり漱石だからこそできるのだろうと思います。直接的に書かず、あくまで読者の想像力に委ねる。その「余白」の使い方がこの作品の魅力の一つだと思います。

特に、二郎と嫂が二人きりで和歌山の宿屋に一泊する場面などはいいですね~。

「これは絶対に嫂から誘ってるだろ!」

と思わずにはいられませんでした。

自分が二郎だったら、と妄想するのも楽しいですね。

「もうここまできたら、毒を食らわば皿までなのか?いやいや、嫂だし・・・いや、でも前々から嫂の手や足の白さに目が行くほど興味を持っていたし、なぜか嫂は自分には親しげにふるまうし・・・もう、こうなったら最後まで行くしかないのか?どうする?行くとこまでいってから、二人で兄には黙っておけばいいか?いや、そうはいっても・・・。」

みたいなドキドキ感を味わえます(笑)。

物語では、二郎と嫂は結局何事もなく一夜を明かしたことになっていますが、本当にそうなのでしょうか?

二郎が信頼できない語り手なのであれば、実際には「関係があった」のではないだろうか?いや、そうに違いない・・・。そんな推理小説的な要素も味わえて非常に楽しめる小説です。


と、色々書きましたが、夏目漱石を真面目に研究している方にとっては、大変失礼な内容かもしれませんので前もってお詫び申し上げます。ただ、こんな(低俗な)楽しみ方もあるということでご容赦ください。

とにかく、本書は二郎と嫂の関係だけではなく、登場人物の全てになにやら語られない怪しさがあり、その謎を解明したくなるような仕掛けが随所にあります。

現代では、独身世帯や核家族化が当たり前ですから、この作品に出てくるような濃密な家族関係を味わうことができるのは小説の世界でないと難しいのが現実でしょう。

だからこそ、家族の中で生まれる微妙な感情や、そこに潜む人間の欲望などを味わうのには本書はうってつけだと思います。興味が出た方は、ぜひ一読をおすすめいたします!

最後に、一夜を明かしたときに嫂が二郎に行った一言。

大抵の男は意気地なしね、いざとなると

言葉が刺さります・・・。


最後までお読みいただきありがとうございます。

Thank you for reading!




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