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わたしの愛読書 フランツ・カフカ長編全作品【小説を紹介しまくるシリーズ

 不条理文学の巨匠、カフカの世界へようこそ!

 わたしは文学をジャンル分けすることを好みませんが、とりわけカフカとベケットは「不条理文学」の大家といっていいでしょう。

 もちろんカフカは20世紀を代表する作家です!

 その作品は、理不尽な状況に翻弄される登場人物たちの姿を通して、人間存在の深淵を鋭く照らし出します。

 一度読んだら忘れられないほどの強烈な印象を残します。

 それは、私たちの日常に潜む不安や孤独、そして理不尽さを、まるで鏡のように映し出すからかもしれません。

 本稿では、カフカの代表作である『失踪者』『変身』『審判』『城』の4大作品を取り上げ、その魅力を分かりやすく解説します。

 カフカに触れたことのない方はもちろん、すでに読んだことがある方も、新たな発見があるはずです!

 さあ、あなたもカフカの世界へと足を踏み入れてみませんか?
 そこには、あなたの心を揺さぶる、不思議な魅力が待っています。


『失踪者』

『失踪者』(旧題『アメリカ』)は、カフカ特有の不条理な世界観が色濃く反映された長編小説。

 物語は、16歳の少年カール・ロスマンが、女中を妊娠させてしまったことで両親に勘当され、単身アメリカへと渡るところから始まります。見知らぬ土地で様々な人々との出会いと別れを繰り返しながら、彼は不安定な状況下で懸命に生きていきます。

 この作品の魅力は、なんといってもカフカ特有の不条理な世界観と、それに翻弄されるロスマンの姿でしょう。彼は常に理不尽な状況に直面し、そのたびに不条理な選択を迫られます。しかし、その不条理さの中にこそ、人間存在の本質が浮き彫りになるというカフカ文学の魅力が詰まっています。

 ロスマンの放浪は、そのまま人生の旅路を象徴しているようにも感じられます。彼は様々な職業を転々とし、様々な人々と出会い、そのたびに成長していきます。しかし、彼の旅路は決して平坦なものではなく、常に不安と孤独が付きまといます。それでも彼は前を向き、懸命に生きていくのです。

『失踪者』は、カフカの他の作品と比べて比較的読みやすい文体で書かれており、カフカ文学入門としてもおすすめです。しかし、その内容は決して浅薄なものではなく、読者に深い思索を促す文学的な力を持っています。

 以下に、本作の注目すべき点をいくつか挙げます。

  • カフカ特有の不条理な世界観 理不尽な出来事や不条理な選択が連続する世界で、主人公がどのように生きていくのか。見どころ

  • 放浪する主人公の姿 故郷を追われたロスマンが、見知らぬ土地で様々な経験を積む姿は、人生の旅路を象徴しているかのよう

  • 人間存在の探求 不条理な世界の中で、主人公が自分自身と向き合い、人間存在の本質を探求していく姿が描かれる

『失踪者』は、カフカ文学の奥深さを味わえるとともに、人生についても深く考えさせられる作品です。
 ぜひ一度手に取ってみてください。


『変身』

『変身』は、まさに不条理文学を代表する傑作といえるでしょう!

 主人公グレゴール・ザムザが、ある朝目を覚ますと巨大な毒虫(甲虫とも)に変身しているという衝撃的な場面から始まります。突然の変貌に戸惑いながらも、ザムザは次第に自分の置かれた状況を受け入れようとします。しかし、家族や社会からの拒絶は容赦なく、ザムザは孤独と絶望の淵へと追いやられていきます。

 この作品の魅力は、何といってもその不条理な設定と表裏一体のユーモア、そこから浮かび上がる悲惨な労働者の姿です。ザムザの変身は、外見の変化にとどまらず、内面的な変容をも引き起こします。彼は毒虫としての身体を通して、自己と他者、そして社会との関係を問い直していくのです。

 また、カフカ特有の冷徹な筆致で描かれるグレゴールの孤独と絶望は、時折ユーモラスな語りが混じることにより、一層不気味さを増していきます。特にリンゴを投げつけられてしまう場面は、悲惨すぎてちょっと笑ってしまいました。ただし、シュールな絶望の中にこそ、人間存在の真実が隠されているようにも感じられます。ザムザの苦悩は、そのまま現代社会における疎外感や孤独感を映し出しているようにも思えます。

『変身』は、比較的短い長編でありながら、その内容は非常に濃密です。読み進めるうちに、ザムザの変身が単なる寓話ではなく、人間存在の根源的な問題を提起していることに気づかされるでしょう。

以下に、本作の注目すべき点をいくつか挙げます。

  • 衝撃的な変身 冒頭から読者を惹きつける、不条理な設定

  • 孤独と絶望 変身によって社会から孤立し、絶望する主人公の姿

  • 人間存在の探求 ザムザの苦悩を通して、人間存在の根源的な問題が浮き彫りにされる

  • カフカ特有の文体 冷徹でありながら、どこかブラックユーモアを感じさせる文体

 不条理文学の代表作とも言われますが、「変身譚」の代表作でもあります。変身譚の共通項は、主人公の変身した動物存在に、顕在化した嫌悪というネガティヴな意識と、潜在化した憧憬というポジティヴな意識という両価的な意識が併存していることにあります。

 国語の教科書にも採択されている、超有名な中島敦の『山月記』とも似ていますね。李徴、ザムザ両者におけるネガティヴな意識は家族的責務の放棄に起因する点で、ポジティヴな意識は全一的な自己没入の境地への憧憬に起因する点で、それぞれ通底しているといえます。
 しかし、両者のポジティヴな意識は互いに対照的な性向を示しており、毒虫が体現するのは日常性を遮断し隠遁的な自己に沈潜する受動的性向であるのに対し、虎が体現するのは生命力に溢れ外界と積極的に関わりながら詩的自我に没入する能動的性向といたところでしょうか?

 中島敦の創作に纏わる妻子扶養責務の放棄と父親への依存、創作中のカフカを苦しめた家族的責務の負担増と父親による被虐、両作家の体験に共通する詩的自我と家族的・市民的責務との葛藤が動物変身を発生させる契機となり、作品の持つ寓話的構造の中核を担っていると私は考えています。

『変身』には、色々な解釈が存在しますし、一度読んだら忘れられない、深い余韻を残す作品です。
 カフカの世界に触れたことのない方も、ぜひ一度手に取ってみてください。


『審判』

『審判』もまた、ひたすら不条理です……。

 主人公「ヨーゼフ・K」が、ある朝突然、理由も分からぬまま逮捕される場面に始まります。Kは自らの無実を証明しようと奔走しますが、謎めいた裁判のシステムに翻弄され、次第に精神的に追い詰められていきます。

 この作品の魅力は、何と言ってもその不条理な世界観と、そこから浮かび上がる人間の孤独と不安でしょう。Kは、自らの罪状も裁判の目的も知らされないまま、不可解な裁判に巻き込まれていきます。彼は無実を証明しようとしますが、その努力は全て徒労に終わり、最終的には悲劇的な結末を迎えます。

 ここに描かれるKの孤独と絶望は、読者の心に深く突き刺さります。アクチュアルな視点から読み替えてみても、Kの苦悩は、そのまま現代社会における不安や疎外感を映し出しているようにも思えます。

『審判』は、カフカの他の作品と比べて難解な部分もありますが、その分、読後に得られるものは非常に大きいでしょう。読み進めるうちに、Kの裁判が単なる寓話ではなく、人間存在の根源的な問題を提起していることに気づかされるはずです。

 以下に、本作の注目すべき点をいくつか挙げます。

  • 不条理な裁判 理由も分からぬまま逮捕され、不可解な裁判に巻き込まれる主人公の姿

  • 孤独と不安 裁判のシステムに翻弄され、精神的に追い詰められていくKの苦悩

  • 人間存在の探求 Kの孤独と絶望を通して、人間存在の根源的な問題が浮き彫りにされる

  • 後世への影響 アンドレ・ジイドやサミュエル・ベケットに多大な影響を与えた先駆的テクストとして、今なお読み継がれている

『審判』もまた、一度読んだら忘れられない、深い余韻を残す作品です。
 ぜひ一度手に取ってみてください!


『城』

 フランツ・カフカの未完の遺作『城』は、不条理文学の傑作として名高い作品でしょう!
 難解でありながらも、読者を惹きつけてやまない魅力に溢れています。

 物語は「測量士K」がとある村に到着し、村を支配する「城」に招かれたと主張するところに始まります。しかし、城の存在は謎に包まれており、Kは城へのアクセスを拒まれ続け、村人たちとの奇妙な交流の中で翻弄されていきます。

 Kは、城の存在を証明しようとしますが、その努力は全て徒労に終わり、彼は次第に孤独と絶望の淵へと追いやられていきます。

『城』は、未完の作品でありながらも、その内容は非常に濃密です。読み進めるうちに、Kの城への執着が単なる寓話ではなく、人間存在の根源的な問題を提起していることに気づかされるでしょう。

 永遠にたどり着けない城とは一体何の象徴であるのか?
 読者それぞれの解釈や先行研究であふれており、素晴らしい作品だと思います。

 以下に、本作の注目すべき点をいくつか挙げます。

  • 不条理な世界観 謎に包まれた「城」と、それに翻弄される主人公の姿

  • 孤独と疎外感 城へのアクセスを拒まれ、村人たちとの奇妙な交流の中で孤独を深めていくKの苦悩

  • 人間存在の探求 Kの苦悩を通して、人間存在の根源的な問題が浮き彫りにされる

  • 労働の問題 『変身』が家族扶養の放擲に起因する父権の喪失をテーマにしているなら、こちらは測量士という労働のアイデンティティーや自我喪失を深く問いかける作品と読み替えることが可能

『城』もまた、一度読んだら絶対に忘れられない、深い余韻を残す作品です。
 東電OL事件を描く桐野夏生の『グロテスク』をモチーフにした園子温の映画『恋の罪』や、いま大ヒットしている『ある行旅死亡人の物語』にも、辿り着けない場所の象徴の引用例としてこの作品が出てきます。
 ぜひ手に取ってみてください。

カフカ文学の魅力を再発見する

 カフカの作品は、その不条理な世界観と深い哲学的なテーマが魅力です。

 彼の作品を通して、私たちは人間存在の本質に迫り、人生の意味を考えるきっかけを得ることができます!

 カフカ文学の世界に触れることで、新たな視点で自分自身や世界を見ることができるでしょう。

 カフカが残したこれらの物語は、私たちに多くの問いを投げかけます。

 私たちはどこから来て、どこへ向かうのか。何のために生きるのか。そして、この不条理な世界で、私たちはどう生きるべきなのか。

 カフカの作品は、決して答えを与えてくれるわけではありません。しかし、その問いこそが、私たちを深く思考へと誘い、人生を豊かにする糧となるのではないでしょうか?

 さあ、カフカの不条理な世界を、あなた自身の目で確かめてみてください!
 そこには、きっとあなたの心を揺さぶる何かがあるはずです!

【編集後記】
私たちは「すべての記事を無料で、誰にでも読めるようにすること」をモットーにしています。そのため今後も有料記事は一切公開しません。もし記事に価値を感じていただけたら、サポート(投げ銭)いただくか、リンクから本を購入してみてください。次の記事の書籍代に活用させていただきます。

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