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伊藤鞠
2024年7月23日 15:43
これは創作大賞2024“漫画原作部門”応募作品の第3話です。 第1、2話はコチラから↓ 靴磨きの道具を売って電車賃にし、ジローとマモルは川崎に向かった。 道ゆく人に尋ねながら、ようやくたどり着いたそこには、大きなお屋敷があった。 中から大勢の子供達の声が聞こえた。 2人は、恐る恐る大きな門扉を押し開けて中を覗いた。 「おう!遠慮しないで中に入んな」 チンピラ風の若い男が笑顔で寄っ
2024年7月23日 15:38
創作大賞2024年“漫画原作部門”応募作品 第二話 第一話はこちら↓ 無法地帯と化した上野一帯で、大人に手を貸す浮浪児による犯罪が爆発的に増え、一掃作戦がとり行われるようになった。 それはすなわち狩り込みの強化だった。 皆が寝静まる深夜を狙って警察はやってくるから、ジロー達は安心して眠ることのできない日々を過ごしていた。 辺りを見回しながら夜中じゅう逃げ続けているジロー達は、疲れでフラ
2024年7月23日 15:35
敗戦後の東京。 雨風が凌げる駅構内には、戦争で家も家族も亡くしたボロボロの浮浪者や浮浪児が溢れかえっていた。 そして駅に住む浮浪児が夜見る夢は、常に母親の面影だった。 寝ながら、「母ちゃん…母ちゃん…」と泣く声が、毎夜そこら中で聞こえていた。 10歳のジローは、仲間達と一緒に上野駅前のいつもの場所に陣取り、靴磨きの道具を広げて客を待っていた。 見上げる空は青く、昔と変わらずに大き
2023年7月21日 13:55
TBSテレビの『プレバト』俳句のコーナーが好きで、自分も夏井先生の本を買って、少しずつ俳句を学び始めていたところ、noteでこのような↓記事を目にして、参加させて頂くことにしました。夏っぽい俳句を三句♡白南風や 窓辺で躍る 吾子のシャツかき氷シャクシャク 雨のバルコニー夏夕焼け ビーサン重い 帰り道 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました♡
2023年7月1日 19:32
それから二年後、私と仁美は元気に同じ高校に通っている。 家のリビングには、兄や家族4人で写っている写真がいくつも飾られ、家族4人、いやいや、祖父母の写真も入れて家族6人、賑やかに過ごしている。 そして、兄の部屋のままだった母の部屋は、大人の女性の、ちょっとお洒落な部屋になっている。 それから…、兄の葬儀から半年後、名古屋の叔父が亡くなった。 肺ガンだった。ガンが発見された時は、既にステ
2023年7月1日 19:22
11月3日、気持ち良く晴れ渡った文化の日、あの白い鳥居から3人は出てきた。 まるで、あの頃の3人の少年が、成長して戻ってきたみたいだった。 嗚咽が止まらないリョータさんの肩を抱いた橋本さんも涙を流していた。 「お兄ちゃん!」 仁美が賢吾さんの元へ駆け寄ると、賢吾さんは大きく頷いた。 すぐに両親に伝えて、警察に連絡をしてもらった。 そして掘り起こされた骨は鑑定に送られた。 10年も
2023年7月1日 19:09
リョータさんは、夢の中のイメージと、そんなに変わらなかった。 Twitterの投稿がサーフィンの事ばかりだったように、見るからにサーファーそのもので、もう秋も深まっているのに、肌はかなり日に焼けていて、笑うと白い歯が眩しかった。 一番小さかったハッチの背が伸びて、2人はあまり変わらない身長になっていた。 橋本さんとリョータさんは会うなりグータッチをしたかと思うと、それからしばらくは互いに無
2023年7月1日 19:02
夢の中でおじいちゃんが手に持っていたのは、ウラシマソウの実だとわかった。 ネットで調べたところ、春から初夏にかけて開花したウラシマソウは、秋が深まるとその雌株には果実(偽果)ができて、赤いトウモロコシといった感じになるそうだ。 「もう美月の見る夢の信憑性は証明されたから、きっとこの実を付けたウラシマソウが根元に咲いている大きな楠木の近くにお兄さんはいるんだろうね」 仁美の言葉に異論を唱え
2023年7月1日 18:56
砂浜の流木の上に腰掛けて、私と橋本さんは、サーファー達が波に乗ったりボードから落ちたりする様を、しばらく黙って見ていた。 「春馬はいいヤツだったよ。美月ちゃんの事をからかう事はあったけど、他の子にいじめられたりしたら、絶対に助けてたし…。オレもリョータも春馬が大好きだった」 橋本さんは海を見つめたまま言った。 「なんだか…全然驚かなかったんです。ずーっと夢で見てたから。ああ、やっぱりって
2023年7月1日 18:49
その夜、私はお風呂にも入らず、やっとの思いで着替えて、ベットに倒れ込んだ。 ドッと疲れが出た。 あまりにも多くの情報に触れすぎて、いっぱいいっぱいだった。 何も考えたくない。 もう何も思いたくない。 そう思いながら、私は深い眠りに落ちていった。 朝になって、母が起こしにきたけど、薄目を開けるのがやっとで、母の「今日は学校を休みなさい。学校には連絡しておくから」という言葉に微かに頷い
2023年6月30日 14:48
10年前に起こった事故の話が終わったところで、父が本棚からアルバムを取り出して、美月に差し出した。 「ずっと黙っていて悪かった。ここに、春馬と美月の思い出がある」 私は黙ってそれを受け取った。 赤ん坊の頃からの春馬少年の歴史。 そこには、両親の笑顔以上に、沢山の名古屋の叔父の笑顔があった。 海やプールではしゃいでいる写真、釣りやキャンプの写真、同じような格好で一緒にゲームに熱中してい
2023年6月30日 14:21
緑の弟である名古屋に住む田所明雄は、早くに結婚したものの子宝に恵まれず、姉にできた長男の春馬をこの上なく愛していた。 元々姉を慕っていた事もあり、それはもう尋常じゃない可愛がりようで、春馬が欲しいと言う物は何でも買い与えたし、行きたい所にはどこへでも連れて行った。 緑に「あんまり甘やかさないで」と苦言を呈されても、全くそれは変わらなかった。 そのくせ、5年後に生まれた美月には、なんの関心
2023年6月30日 14:03
ハッチとリョータは丈夫そうな枝を見つけて金網に通し、春馬がそれに掴まれるようにした。 降り出した雨が、急激に強くなってきた。 枝に掴まった春馬を、ハッチとリョータは必死に引きずり上げた。 もうすぐで引き上げられるというところで、「ギャー」と春馬が絶叫した。 それでも、2人は手を止めずに春馬を引き上げた。 息を切らして地面に倒れこんだ少年達の上に、雨は容赦なく降り注いだ。 「早く山を
2023年6月30日 13:53
【10年前の5月末】 その年、美月の母・成瀬緑は、くじ引きにより子供会の会長に選任され、何かと気忙しい日々を送っていた。 その日も、夏祭りのための会合に向かう準備をしていたところ、美月の兄・春馬のクラス担任から電話があり、春馬がこのところ全く宿題をやってこないので、家でちゃんとやってくるように言ってほしいと言われ、急いでいる中、帰ってきた春馬に説教をしなければならなかった。 会合がなけれ