夕暮怪雨@11月29日単著「夕暮怪談」発売
ちょっと依存性の高い女性の怖い話
女性のHは数年前、都内にある駅ビルの書店で働いていた。そこで不思議な体験をしたそうだ。それはHが店の閉店作業をしていた時の事だ。既に店内には客は居らず、締め作業も終え、本人と同僚社員の2人以外は帰っていた。翌日の商品陳列のチェックをするため、退勤前に売り場に向かった。すると急に「ねぇ」と子供の声で呼び止められた。 彼女が後ろを振り向くと、書籍が並べられている棚の横から小さな子供の顔が飛び出してきた。4歳ぐらいの女の子だったそうだ。Hは、その子供を見た瞬間、身体から汗が噴き出
公子さんが大学の女子寮に住んでいた時のこと。一つ上の先輩と同室だった。 特に仲が良い悪いわけでもない。お互い干渉せぬ関係で生活していたそうだ。 そんなある日の晩、眠りについていると、隣のベッドから先輩が珍しく声をかけてきた。「ねぇヘアピン貸して、貸してよ貸してよ」 唐突な強い要望に公子さんは驚く。 ヘアピンぐらいならと、彼女が起きあがろうとすると、また声をかけられる。 「電気はつけないで」これまた困惑する要望だ。まぁ起き上がるのも面倒だ。 公子さんは自分が髪に刺しているヘアピ
辻村さんが仕事で、ある地域へ転勤になった頃の出来事だ。 以前は通勤でよく電車を利用していた。しかし、転勤先は交通の便も悪く、車通勤だ。 辻村さんは優良運転者として自信を持っている。 特に苦も無く、車を運転して勤務先へ向かっていた。 そんなある日、思わぬトラブルが起きた。車でいつもの道を通っていた時。 目の前に何かが飛び込んできたのだ。車体に強くぶつかり、鈍い音がする。 それはカラスだ。勢いよくぶつかったからか、カラスはピクリともせず息絶えている。 「可哀想なことをした」辻村さ
龍樹さんの父は仕事柄、海外出張が多い。 父が土産として買ってくる、海外製の玩具やお菓子、これらを龍樹さんは楽しみで仕方なかった。彼が6歳の頃、父がアメリカ出張で戦車のアンティーク玩具を土産として買ってきてくれた。 木製の古びた戦車。けれど長い主砲が子供ながら、とてもかっこよく感じる。 同居している祖父に他の玩具を持たせ、戦車と対決して戯れる。 戦車の主砲を祖父の胸元に向け「ドカン!」と大きく叫んだ。 すると祖父は急に胸を抑え、苦しみながらバタリと倒れた。 龍樹さんはそれが冗談
小学生時代、男子の一番の罪といえば、トイレで大便をする行為だ。 ひとたび個室トイレに入っているところを見つけられたら、 馬鹿にされ槍玉に挙げられる。 当時小学生だった大輔さんのクラスでも、男子特有の悪ふざけが横行していた。 ある日の昼休み。同じクラスの男子が見当たらない。 悪ガキだった大輔さんはピンときた。ケラケラと笑いながらトイレへ向かう。 すると案の定、奥の個室トイレに鍵がかかっていた。 大輔さん達はゲスな笑い声を上げ、呼びかける。 「おい!何してるんだ!出てこいよ」わざ
勝信さんが実家暮らしだった学生時代。 その日、彼は楽しみにしていた週末の深夜番組を見ていた。 普段は親の監視もあり、視聴することができない。そんな番組だった。 両親が旅行のため、不在の一日。 「思い切り夜更かししてやる」そんな気持ちに溢れ、深夜の自由時間に胸が躍った。 けれど日中の部活動の疲れか、瞼が重くなる。歯を食いしばっても、抗えない。 次第に眠気に引き込まれていったそうだ。 どれくらい経過したのだろう。ふいに意識が呼び戻された。 すぐ側の廊下を大勢が慌ただしく走る音が聞
中学時代、私立校へ通っていた麻美さん。彼女には朋子という同級生がいた。 クラスでも目立つ存在で、常に中心にいた。 中学の入学卒業まで、麻美さんは彼女とクラスが一緒だった。 けれど消極的な麻美さんは、関わりを持たなかったそうだ。 それから数年が経過し、成人式のため中学のクラス会が行われた。 当時の担任やクラスメイトと昔話に花を咲かせる。けれど彼女が見当たらない。 「朋子」だ。こういった場には必ずいるはずの彼女がいない。そんなことに驚いた。 他のクラスメイトも朋子の話題を出す。
ある真夏の夜。司さんは友人を誘い、自宅近くの公園のベンチで酒を飲んでいた。 日頃の鬱憤もあり酒は進み、話は盛り上がる。途中、酒が無くなる。 目の前にコンビニがある。 「酒を買い足してくる」司さんは飲み干した缶ビールを地面に置き、 煌々と光るコンビニへ千鳥足で向かった。 ガラス製の自動扉の方へゆっくりと歩いていくと、天井に何かが吊るされていた。 それが扉の上部を覆ってていることに気づく。 一目でコンビニのユニフォームだと分かった。それは不思議にも激しく揺れ動いている。 そして司
栞里さんが高校へ通っていた時の出来事。クラスに由香里という同級生がいた。 由香里はとても意地の悪い人間だった。クラスメイトを虐めては、目標を変えていく。 由香里の虐めが原因で、不登校になったクラスメイトもいた。 同じクラスの女の子だった。栞里さんもいつ自分が虐めの餌食になるか。 そんな心配をしていたそうだ。けれど由香里は急病で他界してしまう。 内心皆、ほっとしただろう。 クラスメイトのよしみで、彼女の葬儀に参加したある日のこと。 参列者は由香里の親戚と家族。そして数人のクラス
逸人さんは父に溺愛されていた。幼い頃の父に瓜二つだったからだろう。ある夏の夜、父と地元のお祭りへ参加した。買ったばかりのお揃いの甚兵衛を纏う。それが嬉しかった。神社の敷地内に出されていた出店を回る。迷子にならぬよう手を繋ぎ、たこ焼きや綿菓子を催促した。父もはしゃぐ逸人さんの姿を見て、笑顔だ。「金魚救いするか?」「いいの? やった!」2人で祭りを楽しむ。金魚救いを終えた後、連なっている出店を見渡すとお面屋が目に入った。けれどそのお面屋は一風違った。子供心がくすぐられるようなデ
長野さんの親友は町内の神輿行事に情熱を注いでいた。同級生でいつも一緒だったが、祭りや神輿の時は別だ。親友は毎年夏が来ると入念に準備をする。そして神輿を担いで楽しむ。それが親友の生き甲斐だと長野さんは感じていた。神輿に何度か誘われたりもしたが、体力に自信のない長野さんは断っていた。「他の場所以外で担ぐ気はない、神輿の中にいる神様が嫉妬するからな」いつも親友は冗談混じりで笑って話した。それほど町内の神輿を愛していた。そんな親友が結婚をすることになり、渋々地元を離れることになった
美南さんは大の猫好きだ。けれど家族に猫アレルギーがおり、家で飼うことが許されなかった。そのため猫を愛でたい時は、お隣さんの所へ頻繁に遊びに行った。そこに住む夫婦が、猫を飼っていたからだ。 小柄な三毛猫で、とても静かな子だった。いつもお気に入りの座布団で眠っている。それがとても愛くるしく、見惚れるほど美しい。 ただ普段から優しい夫婦も、遊びに来る美南さんに約束事をさせた。「この子に名前を付けてはいけない。誰かのものにはなりたがらないから」何度も念を押す。二人は飼っている三毛猫
涼子さんは数年前、父を亡くした。とても物静かで真面目な性格だった。趣味もなく、唯一の楽しみが、母の作るおはぎだった。彼岸や法事の際に、必ず母が作る。それを父が全てたいらげる。子供を差し置いてだ。普段の父とは思えぬ行動だ。美味しくおはぎを頬張る父を見て、涼子さん達は笑ったそうだ。そんな父が病に倒れた。痩せ細り、最後は食事も出来なかった。何度か母がおはぎを作ったが、意欲はあっても、口に入れられる状態ではない。結局、父は大好物のおはぎを食べることを断念し、亡くなった。涼子さんもそ
沖縄県中部に住んでいる誠さん。彼女には赤ん坊の頃から、姉のように寄り添ってくれた家猫がいた。名はミィという。ミィは雌猫のキジトラだ。活発で気の強い子だった。誠さんが生まれる前から、家で飼われていた。そして彼女から片時も離れなかった。 それには理由がある。彼女は赤ん坊の頃、鼠に唇を齧られた。鼠は蚊帳を擦り抜け、布団に寝ている誠さんの唇を齧り、大きく形を変えてしまった。彼女自身、赤子であったため記憶にない。痛かったのだろう。その時は声を上げ、泣いていたと聞いている。それからミィは
隆也さんは大学時代、下宿先で不思議な体験をした。彼の下宿先の世話人は、岸本という男性だった。 とても優しい人間で、息子と妻を水難事故で亡くした苦労人だ。不幸なことに、息子の亡骸は未だ見つかっていない。 そんな寂しさを埋めるため、彼は猫と同居していると話した。それを聞き、隆也さんは猫に会うことが楽しみになる。 猫は雌で、名を「タマエ」というらしい。 けれど何処を見渡してもタマエの姿はない。 隆也さんが猫の所在について尋ねると、 「あいつは私の部屋から出て来られないから
大学生の上原さんはある地下鉄を利用している。その日は授業が昼過ぎということで、幾分ゆっくりと家を出た。地下鉄の入り口にたどり着き、ホームへ向かう。電車は時刻通りの到着予定。上原さんはホームで待つ。大学の最寄駅まで2駅。時間にして10分ほどだ。ただ電車待ちの中、周囲から何かが聞こえる。それは鈴の音だ。まるで糸に鈴を吊るし、人が手に取り揺らしたような音。(チリン…チリン)何処から聞こえてくるのか?鈴なんて誰が持っているのだ?辺りを見回しても分からない。乗車後、ドアが閉まり電車が