前を走る者達
勝信さんが実家暮らしだった学生時代。
その日、彼は楽しみにしていた週末の深夜番組を見ていた。
普段は親の監視もあり、視聴することができない。そんな番組だった。
両親が旅行のため、不在の一日。
「思い切り夜更かししてやる」そんな気持ちに溢れ、深夜の自由時間に胸が躍った。
けれど日中の部活動の疲れか、瞼が重くなる。歯を食いしばっても、抗えない。
次第に眠気に引き込まれていったそうだ。
どれくらい経過したのだろう。ふいに意識が呼び戻された。
すぐ側の廊下を大勢が慌ただしく走る音が聞こえたからだ。
「泥棒か!?」勝信さんは飛び起きる。外は騒がしい。窓を見ると隣の家に火が出ている。勝信さんの家にもみるみる飛び火して行った。彼は部屋を飛び出した。
すると目の前で、沢山の玄関に向かい走る、後ろ姿が見えた。
「一体誰だ?」驚き、気が動転しながらも、その後ろ姿達を追いかけ外へ脱出する。
野次馬や消防隊員に囲まれると、その一人から「一緒に逃げ出した家族が見当たらないね」と心配そうに言葉をかけられた。
勝信さんと一緒に、人が何人も飛び出してくるところを見た。
皆、代わる代わるそう口を揃えて話したそうだ。
彼は焼け落ちる家を見続け、呆然と立ち尽くした。同居人は両親しかいない。
自分が追いかけた大勢の後ろ姿の正体は、一体何者達だったのだろう。
勝信さんには未だにわからない。
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