沖縄県中部に住んでいる誠さん。彼女には赤ん坊の頃から、姉のように寄り添ってくれた家猫がいた。名はミィという。ミィは雌猫のキジトラだ。活発で気の強い子だった。誠さんが生まれる前から、家で飼われていた。そして彼女から片時も離れなかった。
それには理由がある。彼女は赤ん坊の頃、鼠に唇を齧られた。鼠は蚊帳を擦り抜け、布団に寝ている誠さんの唇を齧り、大きく形を変えてしまった。彼女自身、赤子であったため記憶にない。痛かったのだろう。その時は声を上げ、泣いていたと聞いている。それからミィは、何かから守るよう、彼女に寄り添うようになった。けれど目の前から姿を消すこともいる。
「ミィ! ミィ!」そんな時は、どんなに名を呼んでも現れない。家中を探しても見つからない。(外に出てしまったのか)
そんな心配をしていると、ふらりと突然戻ってくる。ただ、いつもの穏やかなミィではない。鋭い目つきで、千切れた鼠の頭を咥えている。それを見た祖母は、「誠に傷を負わせた鼠たちが憎く、狩っているのだろう」と話した。何とも残酷ではあるが、誠さんには心強かった。記憶にないとは言え、自分に傷を負わせた存在に恐怖していたからだ。けれどミィも年を取り、亡くなってしまう。誠さんは深く悲しんだ。祖母はそんなミィの亡骸を、ある方法で処置しようとする。
誠さんの地域では、死んだ猫を木に吊るす風習があった。
「猫は執念深い。木に吊るさないと化けて出ちまうんだよ」と祖母は話す。
(可愛がっていたミィを木に吊るすなんて……)
「何処もやっていることだ」そう諭されても首を縦に振ることは出来ない。誠さんは強く拒んだ。そして反対を押し切り、ミィを土に埋めたそうだ。
「ミィは成仏出来ない、後悔するなよ」
祖母は強く彼女に忠告した。
ある朝、誠さんが寝室で目を覚ますと、枕元が赤く染まっていた。
起き上がり、そこへ視線を向けると、彼女は驚き叫んでしまう。そこには千切れ、血だらけの鼠の頭が置かれていたからだ。
彼女は動揺するが、すぐにミィのことが頭に浮かんだ。祖母に恐る恐る伝える。すると祖母は「ミィは化け猫になっちまったんだよ」と残念そうに答えた。
(ミィがずっと居てくれるなら良いではないか)
その時は祖母の言葉が理解出来なかった。
現在彼女は嫁ぎ、実家にはいない。
けれど今でもそれは彼女の部屋で続いている。
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