模造クリスタル 『スターイーター 模造クリスタル 作品集』 : 自己憐憫ではなく
書評:模造クリスタル『スターイーター 模造クリスタル作品集』(イースト・プレス)
私は、「弱い」人間が好きではない。泣き言が嫌いだ。自己憐憫ほど嫌いなものはない。
だから、多分に自己を投影したのであろう「悩める主人公」を描く、模造クリスタルの作風が嫌いであってもおかしくない。それなのに、どうして私は、その作品に惹かれるのだろうか。
たぶんそれは、模造クリスタルが、自己の弱さを嘆くのではなく、自分と同じような弱い人たちを励まそうとする、その「強さ」に惹かれるからだろう。
模造クリスタルは、主人公たちの置かれた厳しい孤独をごまかさずに描きつつ、しかしその孤独にどこまでも寄り添っている。これは決して「自己憐憫」などではない。
そうした意味で、模造クリスタルは、弱き者でありながら、弱き者を愛する〈非凡〉という「強さ」を持っていると言えるのであろう。そして、その「強さ」だけが、自身をその「弱さ」から救うのではないだろうか。
一一そしてこれが、本書のメッセージである。
○ ○ ○
「初出」(P255)に、
とあるように、本書には前後10年の幅を持つ4本の短編が収められているが、これまでの公刊書で私の読んだ長編『スペクトラルウィザード』(全2冊)や『ビーンク&ロサ』が、その「孤独」を突き詰めた作品だったのに比べると、いずれもずいぶん救いのある物語で、その意味では読みやすい作品集となっている。
しかし、そこは無論、模造クリスタルの作品であって、単なる「前向き」な作品ではない。
本作品所収の4本には、それぞれ登場人物たちの間での「すれ違い」があり、その意味では、主人公たちの抱える「孤独」や「愛」は、簡単に受け入れられたり達成されたりはしない。
むしろ、そうした期待に裏切られながらも、その中で主人公たちは、「自身の弱さや不幸」を嘆くのではなく、「他者の幸福」を願うことの中に、「救い」を見出していく。
本書末尾の作品「ネムルテインの冒険」は、旅立つ主人公たちの姿に重ねて、次のような詩で締めくくられている。
『わたしたちふたりで』とは、読者である貴方と作者・模造クリスタルの「ふたり」ということだ。
もちろん、困難な旅ではあろうけれど、励ましあいながら「まよえるひとの みちしるべに… 」。
一一作者は、そう呼びけている。
(2022年2月27日)
○ ○ ○
○ ○ ○
○ ○ ○
・
○ ○ ○
○ ○ ○