⬛︎緒言 まず、何よりも先に、2024年10月29日にスペイン東部で発生した記録的豪雨により生じた各種の被害に苦しむ全ての方々にお見舞いを申し上げるとともに、亡くなられた方々への哀悼の意を表する。 この豪雨は、主にバレンシア州で甚大な被害をもたらした。同州の州都バレンシアは、筆者が18年に渡西した際に訪れた街の一つであり、小さからぬ思い入れのある土地である。滞在期間は二泊三日とわずかだったが、温暖な気候と豊かな美味、そして何より、城壁に囲まれた旧市街の景観に心を奪わ
⬛︎いよいよ訪れる「裁き」 TVアニメ「進撃の巨人」には、いくつか、オリジナルである漫画版には無いセリフが含まれているらしい。「らしい」と言うのは、筆者が漫画版を読んでいないため、どのセリフが「無い」セリフなのか判別できないからだが、ともかく、そうらしい。 シーズン6の開幕を飾る第88話「地鳴らし」における、イェーガー夫妻(ジーク・イェーガーの祖父母)のやり取りも、そのひとつのようだ。 主人公エレン・イェーガーが始祖の巨人の力を異母兄ジークを介して掌握することに成功し
⬛︎意義深き5試合。勝点以上の価値ある経験 日本球界が誇る名手鈴木一郎氏の、この名言はよく知られている。彼の言わんとするところが、スポーツの分野のみならず、ビジネスにしろ学問にしろ、人間の営為において普遍的に確かであることは、何らかの形で社会生活を営んでいる人には大なり小なり実感を伴って理解されることだろう。 とは言え、これを続けるのは思いの外難しい。「積」むことは心がけ次第で容易だが、その「積」んだものを「重ね」ていくことに困難が伴うからだ。もう少し踏み込むならば「積」
◼️想像以上だった魔境の深さ 現地時間の8月15日(木)、24-25シーズンのラ・リーガが開幕した。シーズンは早くも4節を消化、国際Aマッチウィークのため1週間の中断期間に入っている。フリック新体制のバルセロナが順調に滑り出し、レアル・マドリーやアトレティコ・デ・マドリー、ビジャレアルが順当に彼らを追走する一方、セビージャやレアル・ソシエダ、ベティスといった第2勢力候補が下位に低迷するなど、少々波乱含みの展開となっている。 筆者がサポートする昇格組のRCDエスパニョー
⬛︎プレーオフ昇格組が辿る困難な道 TVアニメ「進撃の巨人」において、第42話「回答」は、その後のストーリーを大きく左右する分岐点になる回だ。この回では、王政への反逆罪を偽装され、王宮で執政官たちの前に引き立てられた調査兵団長エルヴィン・スミスが、駐屯兵団長ドット・ピクシスと共謀して企てたクーデターをすんでのところで成功させる。 クーデターを成功させ、解放されたエルヴィンを、彼の同期である憲兵団師団長ナイル・ドークが労う。しかし、当のエルヴィンは達成感や安堵感をまるで
⬛︎優秀だった「あなたの甥」 現在はウェブサイトに一本化されているサッカーメディア「フットボリスタ」が、まだ月刊誌を発行していた2019年のことである。その年の9月号の特集は「19−20欧州各国リーグ展望 53人の要注意人物」というものだった。そのシーズンの趨勢を展望するにあたって、組織でなく敢えてキーと目される個人の動向を探ることで、より具体的な考察がなされており、非常に好きな特集であった。 毎シーズン行われていたその特集がクローズアップした「53人」の中に、ドイ
⬛︎「コンサラボ」における問題提起 Xのタイムラインに、ある北海道コンサドーレ札幌のファンによる興味深い情報が流れてきた。 「コンサラボ」とは、フジテレビの系列局である北海道文化放送が手がける、北海道コンサドーレ札幌(以下「札幌」)に関する情報番組である。道内のローカル局はそれぞれ、自局のニュース番組内に札幌に関する特集コーナーを持っていたり、独自の情報番組を持っていたりするのだが、この「コンサラボ」が特殊なのは、札幌の試合の技術/戦術面からの分析に注力しているとこ
◼️4月度の PL月間最優秀監督 少し前の話になるが、エバートンのショーン・ダイチ監督が、4月度のプレミアリーグ月間最優秀監督に選ばれた。 開幕以後、毎月選定されるこの賞は、当然ながら上位クラブの監督に授与されることが多い。シーズン開幕当初、鮮烈な試合内容でリーグを席巻したトッテナム・ホットスパーのアンジェ・ポステコグルーが3回連続で受賞して以降も、ウナイ・エメリ(アストン・ビラ)やユルゲン・クロップ(リバプール)、そしてミケル・アルテタ(アーセナル)ら、CL出場を
⬛︎アタランタの戦術的特徴 試合内容に入る前に、双方の戦術的特徴をざっと示しておこう。 まずアタランタ。前編で述べた通り、彼らの基幹戦術はガスペリーニ監督の就任以降、すっかり旗印となったマンオリエンテッドなプレッシングにある。ただし、「最後尾の数的同数状態」を許容しない点は特徴的だ。ハイプレスの遂行に際して、何らかのギミックが試合ごとにデザインされている。3バックの敵に対しては前線を3名で、2CB+アンカーの敵に対しては前線を2トップ+トップ下にするといったように中央
⬛︎序 中央駅からダラダラと長く続く坂道を登り20分ほど歩くと、中央駅前によくあるファストフード店や小綺麗な宿が姿を消し、朽ちた建物や荒れたままの草木が目に見えて増えてくる。よく言えば生活感のある、悪く言えば裏ぶれた空気を漂わせる住環境のど真ん中に、10日間ほど続けた欧州3カ国の旅の最終目的地が姿を現した。気が引き締まると同時に、中央駅に程近かった公式グッズショップで買い物をしていないことを思い出し、この距離を戻るのか…と、少しウンザリもする。 ゲヴィス・スタジアム。
「そろそろ、覚悟をするときかな、艦長」。 …追加タイムが5分に達する数秒前に、マティアス・イェーレンベック主審が試合終了を告げるホイッスルを鳴らす。ヴォノヴィア・ルールシュタディオンの虚空に響いたその音によって、自分たちがより厳しい状況に追い込まれたことを知ったヤン・ティールマンが、捨て鉢にボールを蹴り出した。彼の背中が物語るフラストレーションを感じながら、咄嗟に思い出されたのが、「機動戦士Vガンダム」の第50話にて、登場人物のひとりであるジン・ジャハナムが、周囲の人間
◼️ブンデスリーガ開幕。首位に立つのは… 8月18日に開幕し、3節を消化した23-24シーズンのブンデスリーガ。先期、辛くも最終節で、しかも他力で優勝を勝ち取った絶対王者バイエルン・ミュンヘン(以下「バイエルン」)が、ドイツのクラブとしては異例の金額で、待望の「9番」としてイングランド代表のエースであるハリー・ケインを迎え入れたことによって、盤面上では万全に構築される一方で、先期の後半にネガティブな内情を露呈したことから、他クラブによるタイトル獲得の機運も例年になく高まっ
■序文:ようやく具現化された新たな「ミシャ式」 2023年のJ1リーグが前半戦の17節を消化した。北海道コンサドーレ札幌は、勝点26を積み上げ、8位で前半戦を終えた。初勝利まで4試合を要したことを踏まえると、この成績は上々だ。あと2勝2分で勝点は34、J1残留の目安となる勝点数に到達する。また、最下位だけがJ2に降格するという今期の特別なレギュレーションと、既に最下位の柏、および同率17位の湘南がいずれも勝点を12しか稼げていないことを踏まえれば、あと1勝1分程度でも十分
■これ以上ない最後の舞台。バイエルン撃破という「タイトル」 VARとの交信を終えたスヴェン・ヤブロンスキ主審の手が長方形を描き、次いでペナルティスポットを指差したとき、ドイツ屈指の熱量を誇るスタジアムは即座に沸騰した。 2番手のキッカーがペナルティスポットに向かう。固唾を飲んで、という使い古された表現が似合いこそすれ、そこにネガティブな重圧はないように見えたところに、現地ででなく、テレビ画面を通して試合を見ていた筆者は、このスタジアムらしさを感じた。大学受験の合格発表
■残留は風前の灯火。苦しむエスパニョール 北海道コンサドーレ札幌以外に、いくつか定点観測するクラブを持っている。何となく思い立ったので、今回はそれらのひとつであるRCDエスパニョール(スペイン語での正式名称:Real Club Deportivo Espanyol de Barcelona)の話をしてみる。 切っ掛けは、18年の渡西時に彼らの試合を観戦したあと、ふらっと立ち寄ったバルで、構ってくれたペリコ(エスパニョールというクラブ、およびファン双方の愛称。純粋な字義
■布陣と試合概略 エンターテインメントとしは評価できる試合だった。アウェイチームが2得点を先取しホームチームが追いつく、という流れそのものもさることながら、過程に確かな戦術面での変化と、それをもたらしたベンチワークがあるからだ。とはいえ、起きていた現象そのものは両陣営の戦術面での未成熟度、あるいは構造的不安定さの裏返しであり、上位陣との力量差を示唆するものでもある。このため「良質」な試合だったかと問われると答えに詰まる。 さて、前節に胸のすく快勝を演じた札幌は、その前