Los pericos bebiendo unas bebidas energéticas
⬛︎プレーオフ昇格組が辿る困難な道
TVアニメ「進撃の巨人」において、第42話「回答」は、その後のストーリーを大きく左右する分岐点になる回だ。この回では、王政への反逆罪を偽装され、王宮で執政官たちの前に引き立てられた調査兵団長エルヴィン・スミスが、駐屯兵団長ドット・ピクシスと共謀して企てたクーデターをすんでのところで成功させる。
クーデターを成功させ、解放されたエルヴィンを、彼の同期である憲兵団師団長ナイル・ドークが労う。しかし、当のエルヴィンは達成感や安堵感をまるで漂わせることなく、ナイルに対して「人類は、より険しい道を歩まざるを得なくなったぞ」と答える。当然だ。確かに彼らは、自分たちの求めていた成果を出した。しかしそれが「始祖の巨人」の能力による記憶改竄の結果だとしても、王政を成立させていたのは他ならぬ民衆の支持である。今度は自分たちが主体となって、混沌の状態から再度新たな体制を築き、しかも安定させるためのコストは甚大だ。成果を自分たちで出したからこそ、今後の責任は自分たちで負わねばならない…それを予測していた聡明な彼の、覚悟を示す重たい言葉であった。
…さて、アニメの世界から離れ、2024年6月25日未明の出来事に話を移す。欧州がドイツで開催されていたEURO2024に沸いていたころ、筆者を含む一部の物好きな日本人たちは、2023-24シーズンの昇格プレーオフを制したRCDエスパニョール(以下"RCDE")の次シーズンのプリメーラ昇格に歓喜していた。
しかし、日が経つにつれ、筆者は前述のエルヴィン・スミスのような心境になっていく。成果は出た。しかし、前途が多難であることがわかってきたからだ。
まず、主力3名が退団した。とりわけ、22得点を挙げリーグ得点王マルティン・ブライトバイテの退団は痛恨であり、一度メディカルチェックを受けた直後の退団表明という、クラブ上層部への当てつけのような去り際も含め、非常に悪い後味を残した。セントラルMFケイディ・バレ、アタッカーのニコ・メラメッはそれぞれオビエド、アルメリアと、何れもセグンダのクラブに移籍している(前者については契約満了によるフリー移籍)。これまた、現行のクラブへの何らかの不満が窺い知れる。
そもそも、4チームからなるトーナメントで、しかも1回戦・2回戦ともしっかりホーム&アウェイで2戦を戦うというプレーオフのレギュレーションによって、レギュラシーズン後に1ヶ月近くを、心身のコンディションを維持し続けねばならなかった選手たちの休暇は短い。さらに、次シーズンへ向けた編成への着手も急ピッチで、しかも既に編成を進めている他クラブよりも遅れて進められることになる。実際のところ、直近10シーズンで見るとプレーオフ昇格組の「残留率」は7割と意外に高いのだが、少なくとも上記の点で苦労が伴うことは確かだろう。
ゆえに、問われるのはひとえにスポーツダイレクターの手腕。この点で、先期から同職に就きチーム編成を司る58歳のバスク人フラン・ガラガルサは非常に評価できる。1シーズンを3人の監督に任せることになったという監督人事上の混乱だけは汚点だが、選手補強に関して言えば、使える金額に非常に大きな制約があることを卒直に認めた(下記リンク先参照)うえで、一定の成果を挙げている。
本稿執筆時点での新加入選手は5名。まず、バックアッパーの退団した右SBにアルバロ・テヘロ(←エイバル)を、元より層の薄かった左SBにカルロス・ロメロ(←ビジャレアル)を迎え入れた。その後少し経ち、前述のように先期の主力が抜けた中盤の中央にアレックス・クラール(←ウニオン・ベルリン)、最前線にアレホ・ベリス(←トッテナム)とイルヴァン・カルドナ(←アウクスブルク)を加えている。5名中4名はローンでの獲得、さらにそのうち2名は買取OPなしのローコスト(かつ、今期だけを見込んだ)補強だ。唯一の完全移籍加入組であるテヘロも、エイバルとの契約満了によるフリー移籍であり、契約期間も1年+1年の延長オプションが付帯するというもの。緊縮ぶりが窺える。
⬛︎今期のキーマンとなるRCDEの注目プレイヤー
選手補強にあからさまな緊縮財政ぶりが顕れているところ、それでもこのチームを信頼できる理由は2つある。ひとつは、前述の通り、ガラガルサSDへの信頼だ。まず、そんな彼の慧眼により組まれた現状の少数精鋭のスカッドを概観しよう。
まずGKは、今夏のパリ五輪の優勝メンバーのひとりであるジョアン・ガルシア。デビュー当初はキャッチングやセービングの不安定さに目を覆うことも屡々だったのだが、ハイラインを敷く現体制下で所謂「スイーパー・キーパー」の役割を担えることから序列を押し上げた。ただ、彼は五輪のためにトレーニングマッチの全てを離脱していたので、2名の第2Gk候補が序列を上げる可能性もある。より長い時間を得たのは、同じくBチーム出身のアンヘル・フォルトゥーノだが、ベテラン、フェルナンド・パチェコも技術的には問題ない。GKのポジション争いは注目できる。
3バックでは、右を担うBチーム出身のモロッコU20代表オマル・エル・ヒラリが注目株だ。先期、東京五輪代表だった同ポジションのオスカル・ヒルを完全にベンチに追いやりスタメンに定着、2027年まで契約を延長した出世頭。純正のSBというよりはオールラウンドな守備者として台頭している。SB出身だが高さもあり、セントラルMFをサポートして攻撃に絡むプレイにも積極的で、3バックシステム採用の恩恵を強く受けている。中央はセルジ・ゴメスとフェルナンド・カレロが争い、左は古参のレアンドロ・カブレラが左利きであることからほぼ一択の扱い。移籍市場が閉じる前までに選手層の拡充が必須だ。
バレの退団により定位置争いが活性化している中盤の中央のひと枠は、ホセ・グラへラのものだろう。3CBの一列前で守備の準備をする位置取りの確かさはオンリーワンで、ボール扱いにもまずまず優れる。問題は彼のパートナーだが、新加入のチェコ代表クラールが、対人強度およびボール奪取後の展開力の双方から有力だ。前所属のウニオン・ベルリンは組織的なプレスに定評のあったチーム。そこでの経験によって、バレの影を消してくれることを期待したい。腰回りがガッチリした体格のアルバロ・アグアドは、走れて捌ける便利屋タイプとして居場所を確保するだろう。いちファンとしてはどうしても贔屓目で見てしまうアカデミー出身の10番ポル・ロサーノは、ボール保持重視の戦い方においては一番手だろうが、後述するように走力とデュエルが求められる現体制下での序列はどうしても下がる。
WBには、早めに加入が発表された2名がすんなりと収まりそうだ。右にはテヘロ、左にはロメロだ。いずれも、前方のプレッシングのハマり具合による高さ位置の選択が絶妙で、必要に応じて絞る判断も優れているなど、プレイに尽く「教養」が溢れる。それぞれマドリー、ビジャレアルの出身で、彼らの育成レベルの高さが窺い知れる。また、ロメロは、トレーニングマッチではカブレラのバックアップも担っていた。
二列目のアタッカー陣は、先期のセグンダで13得点を挙げたアカデミー出身のハビ・プアードを軸に、セカンドストライカー型のペレ・ミジャ、ウィンガー型のサルビ・サンチェスとジョフレ・カレーラスが続く構図だろう。先期の開幕後にエルチェから加入したミジャは、カタルーニャ州リェイダ出身でRCDEのファンだったという過去がファンを大いに喜ばせた。サンチェスも先期の開幕後に加入した見た目の若いベテランで、大外でのランニングとクロスとを売りにする純粋なウィンガータイプ。カレーラスはBチーム出身で、かねてより期待されていたが先期ようやくトップチームの主力となった。この中で、プアードとミジャには、現実的に数字が期待される。ブライトバイテの後継となる9番タイプに不安が残るからだ。
まず、文字通りの「9番」は、トッテナムからローン加入したアルゼンチン人のアレホ・ベリスが背負う。23年のU20W杯に出場し9番を背負った有望株だが、ロサリオ・セントラルから勇躍乗り込んだトッテナムでは8試合1得点、先期後半を同様にローン移籍でプレイしたセビージャでも6試合0得点と、どう贔屓目に見ても「ポテンシャル採用」の枠を出ない。買取OPなしのローンでも9.00m€というコストに見合うか否かの判断は、シビアにならざるを得ないだろう。ただ、Bチーム出身のモロッコ人オマル・サディクとウルグアイ人ガストン・バジェスも必死にアピールしているが、守備時にどうしても動きが止まることがあり、1トップを託すにはかなり心許ないことから、このベリスがすぐに上の序列を確保しそうだ。
このような状況を踏まえると、先期の後半をリーグ・ドゥのサンテティエンヌで過ごし、19試合で8得点とそれなりの数字を出したフランス人、イルヴァン・カルドナへの期待が否応にも高まる。「カルドナ」という名前の響きがスペイン語圏との繋がりを感じさせるが、実際のルーツはスペインでなくマルタ。南部のニームに生まれモナコの育成部門で育ち、実績は北部のブレストで築いたという旅人ぶりも含めて謎が多い。16−17シーズンにモナコBで17試合14得点、20−21シーズンにブレストで36試合8得点を挙げているのが、目立った実績だろうか。CFとして紹介する事例と、セカンドストライカーやウィンガーとして紹介する事例とが入り乱れており、プレイスタイルも定かでないが、後述する理由により、それなりにフィットが計算されている選手と推察される。
以上が、今期を主力として戦うであろうRCDEの顔触れだ。正直、以前に比べるとかなり小粒化している印象は否めない。それでも彼らを信頼できるのは、ガラガルサSD自身が財政面の問題を踏まえて最低限のコストで獲得したという事実を理解したうえで、トレーニングマッチで見える現体制の戦い方へのフィット(の可能性、も含む)ぶり窺えたからだ。
⬛︎トレーニングマッチから見えるゴンサレス監督の指向性
では、その戦い方とはどのようなものか。本節では、現体制を信じるに値する根拠のもう一点として、先期途中にBチームから昇格したマノーロ・ゴンサレス監督が敷く戦術の指向性を簡単に述べる。
16歳のときから指導者キャリアを積み重ねてきた、79年生まれのゴンサレス監督の指向するサッカーは、端的に言えば「プレッシング」を重視するそれである。基本フォーメーションは3-4-2-1で、時折4-4-2も採用されるが、その際も前者への変形がしばしば見られる。これが彼自身の基幹手法なのか、RCDEの戦力に合わせた消極的な選択なのか否かは不明だが、いずれにせよ、前方ユニットの5名のうち4名による精力的なランニングによるスペース封鎖とマン・オリエンテッドなボール狩りとがバランスよく混交されたプレッシングは、24年3月の就任以降、チームの明確なアイデンティティになった。前任のルイス・ミゲル・ラミスの敷く戦術が、後方へのブロック形成を主とした保守的なものだったことも、ゴンサレス監督の手法を鮮やかに輝いて見せるスパイスになっていたかもしれない。
この布陣での一般的なプレッシング手順は"1"によるCBへのカバーシャドウを伴うアプローチと、"2"、日本流に表現すれば「シャドー」のポジションの選手によるCBの正面からのアプローチとを連動させてハーフスペース上での前進を規制し、ボールを大外に誘導したところで、5バックが全体に縦横スライドをかける…というものだ。
ゴンサレス監督の手法の特徴としてまず際立つのは、この"2"に所謂ウィンガーの選手を置くこと。これは"1"の選手に比して"2"の選手の役割が多岐に亘ることから、所謂「二度追い」を頻繁に行うことに起因する。4-3-3のインサイドMFを消すこともあれば、中に入ってきた4-2-3-1のウィンガーの選手へのパスコースを消す場合もある。SBへのスライドもこなす。要するに、方々へ動くのだから、何度もスプリントできる選手を置きたいというシンプルな戦術的要請があるわけだ。この人選は彼の指向性をわかりやすく示すポイントである。以前、RCDEについて触れたテキストで、筆者は、ローブロックを敷くことを前提とした当時のディエゴ・マルティネス監督体制下のRCDEを「時代から取り残された」と評した。その時点に比べると、現状のRCDEは、少なくとも基幹戦術のチョイスの面で時代にキャッチアップはしている。ただ、戦術運用に関するディテールでは、いくつか改善の余地がありそうだ。
まず、これまでのところ、ボール奪取の急先鋒になっているのが、3バックの脇の選手であること。これは、2名のセントラルMFのところでボールを回収できていない、あるいは、その脇を通過されている、ということを示唆する。実際、RCDEの前線の形状は、上記のセオリーと異なり、大体の場合下図のような形(5-1-3-1とでも言うべきか)になっている。敵に中央を使わせないためにセントラルMFの1名を前衛に増員した状態において、"2"の選手がサイドに吐き出させたボールを追い切れていない場合、1枚残った選手の脇は狙われやすい。
もちろん、敢えてそのスペースに敵を誘い込み、エル・ヒラリやカブレラの飛び出しでその敵を狙う、という方法論自体に問題はない。ただし、敵の侵入速度に追いつけない場合に「対ボール」でなく「対人」の守備になってしまい、ファウルが嵩みやすいデメリットがある。そして、そこでボールを引っ掛けられないことは、ショートカウンターの成功率を下げるという点でも問題となる。ブライトバイテ、およびバレの不在を痛感するのは、上記の事象を目にしたときだ。ブライトバイテは運動量こそ少ないものの経験に裏打ちされたポジションニングの抜け目なさで中央をさりげなく塞ぐことが上手かったし、バレには柔よく剛を制すデュエルの巧さと、パスコースの読みの鋭さがあった。
他方、ボール保持を開始するフェイズでも問題はある。先期、ゴンサレス体制に変わった直後のRCDEは、さながらレッドブル・グループのクラブのように、SBはあくまで予備的なボールの預けどころとしてサイドで孤立させ、代わりに中央のエリアに選手を集中配置して、縦パスを差し込みながら最短距離でゴールに向けて前進する方策を採っていた。その中心にいたのもバレだった。広義の対人強度を備えるバレは、多少のパスのズレにより突発的に生じたデュエルも制してしまえるので、脇に敵選手がいても問題なくボールを呼び込めていた。彼に代わってセントラルMFを担うのはグラへラやロサーノらだが、どうしてもこの強度で見劣りする。それゆえと断言は出来かねるうえに、多分に主観的な印象なのだが、CBが彼らに「安心してボールを預けられない」ような素振りが見えるのだ。出し先に迷った結果としてとりあえずボールはサイドに逃され、そして出口を失う…という傾向が見て取れる。
さて、前者の問題点に対する解決策として、ゴンサレス監督は直近のハイデンハイム戦で"2"の人選に変化を加えた。セントラルMF候補のアグアドを、"2"の左側に置いたのだ。彼の初期ポジションは少し低めで、見方によっては5-3-2の"3"のひとりと見做せる。いずれにせよ、このアグアドが、ボールが右側に誘導された際に他のセントラルMFと同じ高さまで下がることで、彼らのボールサイドへの大きなスライドを促した。この仕組みにより、誘導先のサイドからボールを縦に通されにくくすることができる。また、新加入選手のうち、クラールはローブロックでの秩序だった守備が持ち味のウニオン・ベルリンで、カルドナは、現在ザンクト・ガレンで指揮を執るドイツ人エンリコ・マーセン氏の指揮下で、走力と対人強度に全振りした、異彩を放つオールコートでのマンツーマンディフェンスを採用していたアウクスブルクでプレイしていた。フィットに時間は要さないだろうし、そのうえで戦術的要請に対しより高いアウトプットを出してくれるのではなかろうか。
後者の問題点に対しては、選手のクオリティという即時解決が困難な問題を含むため、より解決が困難だ。当面、後方からのロングボールを増やすことをメインのプレス回避手段とすることが有力だ。ただ、この点についても、前述の新加入選手2名が助けになってくれるだろう。ウニオン・ベルリンは、ローブロックを敷くだけでなく、一気呵成に畳み掛けるカウンターも備えていた。アウクスブルクのマンツーマンディフェンスは、高強度での対人守備から即座に速攻に移行することで、敵にプレイをさせないための方法論だ。縦に速い攻撃は、カルドナにとって馴染み深いだろう。
兎にも角にも「時代に取り残され」て見えた哀れなインコたちが、エナジードリンクを飲んだかのように〜一気飲みで咽せているように見えなくもないが〜アグレッシブに走り回り、受動的に敵のミスを待つのではなく、積極的にミスを誘発したうえで、自分たちも迅速に攻める方向に転換している。戦術運用上の細部の問題点はあるとしても、その姿勢自体には好感が持てる。そして「敵が使おうとするスペースを狭めていくこと」にフォーカスしているゴンサレス麾下のRCDEは、自陣でのブロック形成時の横スライドのばらつきのなさについては十分なクオリティを発揮できているように映る。
⬛︎残酷な世界で生き残るために
以上のように、RCDEの選手と、戦術上のあり方を概観してきた。
改めて言うまでもないことだが、プロサッカーの世界は激烈な競争社会である。ほんの数年前まで、ラ・リーガでは中堅と言える立場にあったRCDEは、筆者が定点観測を始めた18−19シーズン以降、急激な下降線を辿り始め、2度の降格を経験している。ラウル・デ・トマスのような大物獲得も難しい立場になった。何かの間違いで降格してしまった中堅クラブではなく、現実的な降格候補のひとつという立場が実相だ。
ただ、どういうわけか不安があまりなく、期待感が現状では上回る。背景として2つの要素がある。まず、ガラガルサSDが、財政上の問題を率直に認め、オープンにしていること。そしてもうひとつは、繰り返しになるが、ゴンサレス監督への信頼だ。
18−19シーズンにEL出場権をもたらしたルビ氏以降、RCDEの監督は明確な戦術面のアイデンティティの確立と結果との両立に苦しんできた。ビセンテ・モレノ氏は結果は出したが戦い方は全体的に受動的だったし、ルイス・ガルシア氏はビルドアップの設計図を瞬く間に書き換えることにこそ成功したものの、自陣での守備の堅牢性を構築できなかった(負けが込むタイミングを測っていたかのような彼の解任劇は、ガラガルサSDの仕事のうち唯一評価できないポイントだ)。RCDEの戦力は、相手にボールを長時間渡してしまう専守防衛型とするには守備陣の高さや強さが足りず、攻撃陣の単独での打開力にも欠けている。さりとて、ボールをしっかりと繋ぐための必須要素だったセルジ・ダルデルももういない。RBの匂いがするハイプレスは、通底する原則の共通性によってローブロックの守備にも応用が利くという観点から見ても、非常に有効なオプションと見做すことができるし、実際に、ローブロック形成時のポジショニングのばらつきの無さは、本来それに強みのあるはずだったディエゴ・マルティネス体制下のそれを上回る印象がある。
要するに、納得できるのだ。財政面での問題を素直に認め、その中で出来ることをやる必要がある、と端的に説明するSDと、誰かが抜けたら途端に破綻するような仕組みを作っていない監督。目に見える構成要素が、少なくとも自分の理解に
おいては落ち着くべきところに落ち着いており、明らかな不足や過剰さを感じさせない。そのようなチームには、安心して自分の気持ちを預けることができる(ゆえに怖いのは、チェン会長を含む経営サイドのボーンヘッドである)。
もちろん、この段落の冒頭で述べたように、厳しい戦いになることは間違いない。首都の白い巨人には、各種の縛りから解放された世界最高のフットボーラーが自由の翼を伴って降り立った。始祖の巨人を掌握したエレン・イェーガーよろしく自由を手にした彼を止めることは困難だ。お隣の青赤の巨人は、ナイナイと騒ぎつつ、いつものようにどこからかお金を持ってきて、大物選手を買ってきた。調査兵団の飛行船に、殺した調査兵団の立体機動装置で飛び乗ったガビ・ブラウンの所業のごとき離れ業に羨望は感じることはなく、単純に不思議である(そういえば、このクラブにはガビという選手がいる)。首都のベッド職人は、大枚叩いて英国から大物選手を買い、超大型とは言わないまでも巨人らしい振る舞いが板についてきた。自陣でのローブロック形成には持続性が第一だから、車力の巨人だろうか。そして、かつては下に見ていたはずのカタルーニャの北側のチームは、先期目覚ましいプレイをした末に欧州に進出した。そのうえ、彼らと対戦したトレーニングマッチでは散々ボールを回された。立体起動で夜の闇を飛び交う「島の悪魔」たちに翻弄された顎の巨人の心境だった。彼ら以外のチームも、皆強い。
それらを全て呑み込んだうえで、でも、このチームには信じるに足る何かがある、と思えている。今のところは。
「進撃の巨人」の主要登場人物のひとり、ベルトルト・フーバーは、こう言葉を紡ぎながら立体起動装置で空高く飛び上がり巨人化、超大型巨人の発火能力を活かして調査兵団の大半を死に至らしめる。調査兵団に身柄を確保されたアニ・レオンハートの行方は知れないうえ、「本当に仲間だと思ってた」かつての仲間たちと、再度刃を交える覚悟も固まりきっていなかった彼は、上官であるジーク・イェーガー、盟友ライナー・ブラウン、そして敵方のキーマンとなったアルミン・アルレルトとのやり取りを経て迷いを払拭する。それを象徴するような広い空に向けて飛び上がり、語られる上記の台詞は、本作屈指の名台詞だ。
大袈裟だが、筆者はこのような心持ちである。そして、他ならぬRCDEも、当然誰も殺しはしないが、それでも、飛び上がる準備はできているはずだ。きっと、ベルトルトのような決然とした心持ちで。少なからぬ選手が、プリメーラの洗礼を受けるだろう。それでも、この道30年のベテラン指導者が持ち込んだモダンな手法に導かれた彼らは、真っ直ぐな気持ちで戦い、現実と格闘し、勝っても負けても、輝ける未来へ繋がる種を、どでかいショッピングセンターの隣の如何にも郊外然とした土地に建てられたピッチに、撒いてくれることだろう。
開幕戦の相手は、昇格組のバジャドリー。早速、負けられない相手との対戦だ。「お前たちは仲間だよ!」などと言って、涙を流してはいられない。自分たちの自由のために、彼らから自由を奪う。それだけだ。そしてその手段は、立体機動のごとく高速で、エナジードリンクの香りがする、マノーロ・ゴンサレス仕込むのハイプレスである。