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創作ものがたり

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2021年6月の記事一覧

そこにいる人いない人

そこにいる人いない人

嫌なことがあった日、私はこの公園のベンチで空を見上げるようにしている。木々の間から見える空から、大好きだった祖母が見ていてくれているような気がして。

今日は会社で嫌味な上司に怒られた。
嫌味な、と言うほどだからお分かりになると思うが、理不尽なことで怒ってきたり、前の失敗をネチネチと掘り返し続けたりする嫌~な男上司だ。
別に怒られること自体は嫌だとは思わない。私にも非があるわけだし、何も無いなら怒

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虫除け

虫除け

東京都内、とあるオフィスに清涼感のある匂いが漂った。

『虫に刺された。
虫に食われた。
そんな時にはこれ1本。

塗ればスーッと心地よいひんやり感が
あなたの痒みをストップする。
ムヒ!
持ち運びやすい小さいムヒも!』

刺された箇所に、その清涼感のある匂いがするこの薬を塗った瞬間、頭の中でCMのような言葉が流れて、強烈な痒みが治まった。
いよいよ来てしまったか、この季節が。私は腕を見ながらため

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頼まれた絵

頼まれた絵

都内マンションの一室、
机を前に座る1人の女性。
机の上には沢山の筆と絵の具。
入ってくる男性。

ここは、とある美術家のアトリエ。

「こんにちは」
「こんにちは、ご要件は」

立ち上がる女性。
向かいのソファに座る男性。

「いや、これに絵を描いて頂きたくてね」

男性、カバンの中から紙が入った額縁を出す。
不思議そうに見る女性。

「えらく小さいですね」
「ええ、亡くなった妻がくれたもので」

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何かがおかしいエレベーター

何かがおかしいエレベーター

1階。ドアが閉まり上がるエレベーターを眺める
その瞬間黙る2人
私も黙る

2階に着いて喋りながら入ってきた3人
ドアが閉まったら黙った

沈黙を連れてエレベーターは上がる
全員が見つめる1点の数字は増える

私はふふっと笑う
周りも何故か笑う

4階で入ってきた人達が驚く
そして乗らなかった

5階は止まらなかった

6階は2人降りていった
8階で3人降りていった

誰もいなくなりまた沈黙

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味のする球を売る店

味のする球を売る店

季節は11月になり、外はすっかり秋。
俺は秋が一番好きだ。
寒くもなく、暑くもなく、ちょうどいい季節。
妻が出ていったのも、ちょうど昨年のこれくらいだったか。

別れてから俺はいつも、会社に米だけ持っていくようになった。おかずは無い。
食べたいものが気分によって変わるからだ。

近くの定食屋のおかずのみを買って、持ってきた白米と共に胃にかき込む。

いつからか自炊もしなくなった。するのは米研ぎだけ

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どこかへ消えたおじいさん

どこかへ消えたおじいさん

明日世界が爆発すればいいのに
とか
今日このまま消えれたらいいのに
とか
そう考える君の思想は
何も間違ってない

大丈夫、間違ってないんだよ

本当に爆発したら恐ろしいし
消えたら消えたで多分虚しい

でも考えたって間違いじゃない
変なんかじゃない

裏返して考えてみたらいい
普通を考えて生きることこそが
この世で1番変な事だと

普通に生きているやつらに天才はいない

いつか自分を変だと言うや

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女子達は明日を知らない

女子達は明日を知らない

「これのことなんて言う?」
「リモコン」
「だよねぇ」
「なんで?」
「いやさ、職場で、これのことを変な風に呼んでる人がいてさ」
「へぇ、なんて?」
「えっとね…あれ、何だったかな」
「え、そこが論点なのにそこ忘れたの?」
「いやー、そう、あまりにも不思議すぎて」
「なんだろう」
「えっとーカタカナだった」
「リモートコントローラー」
「それは正式名称だよね。そうじゃなくて」
「モーコン」
「変な

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音楽を作りたかった女

音楽を作りたかった女

大好きな音楽を作るあの人に憧れて
私も音楽を作ることにしましたが
いかんせん初めてなもので
何も勝手が分かりません

周りでやっている人もいないので
誰かには聞くことも叶いません

インターネットに聞いてみました
それでもよく分からなかったので
とりあえず書いてあったものを全部
買ってみることにしました

説明書がついていたので読んでみました
少しいじることが出来たので
1歩前進した気がしました

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僕たちの嘘ゲーム

僕たちの嘘ゲーム

「ナスカの地上絵描いたん俺やでー!」
6年1組の教室内窓際。
クラス内で1番のお調子者、ユウタが大声で叫んだ。

「いやどう描いたんあれ」
「ヘリから小便撒いたねん」
「いや汚っ!そんなんが世界の謎とか絶対嫌やー!!」
すかさず僕、マヒロがツッコミを入れると、
「まさかの世界規模やん、これは今日もユウタ優勝やなー」
ユウタの前にいた、アユキとハヤテが笑った。

「強すぎひんか、ユウター」
僕はその

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とある奇人の指針#2「スマホと傀儡」

とある奇人の指針#2「スマホと傀儡」

あるサラリーマン様は帰宅中にふと思いました。

「あ、そういえばワイシャツ欲しいんだった。
明日の出先付近にユニクロ、あるかな」

ある学生様は電車の中で通学中にふと思いました。

「しまった、今日はあのゲームのイベントの日だ。ログインしないと」

ある主婦様は昼間にテレビを見ながらふと思いました。

「あ、この前やってた通販の圧力鍋買おうと思ってたんだ」

あるお金持ち様は家のジャグジーバスに入

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私は彼女の眼鏡である

私は彼女の眼鏡である

今日も置いていかれた。
外の世界を見れなくなって、もう何年が経っただろう。
彼女が中学生までは、毎日外に連れて行って貰えたのに。
高校生になって、彼女は我が宿敵「コンタクトレンズ」と手を組んだ。
私も彼女の目に入り込むくらいのサイズなら、連れて行って貰えたのだろうか?

彼女は今年27。ということは私が常用でなくなって11年くらい経つということだ。
時の経過は早い。
彼女もあっという間に大きくなっ

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駅員の思惑

駅員の思惑

最近、子どもをロッカーに置いていくという事件が多発していた。
置いていった母親の供述を聞くと、決まってみんなその時の記憶が無いらしい。
ただ、置いていってもいいかなと、そう思ってしまった何かがあったと言っていた。

不思議な事件のニュースを見た後、私は出かける予定があったので、子どもを抱いて最寄りの駅までやってきた。
階段を降りてすぐ、コインロッカーが見えた。

…私が今抱いているこの子をロッカー

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猫

吾輩は猫でありたかった。
名前ももうある。
どこで生まれたかも頓と見当がつくし
今もぬくぬくと、一軒家で両親とギャーギャー騒ぐ弟と暮らしている。

唐突に夏目漱石の名作、「吾輩は猫である」を文字って始めた事には意味がある。

吾輩の名は桜木悠太。高校3年生のオス。

吾輩の席は3階の教室の窓際なのだが、
そこから少し下を除くと見える木の上に、1匹の黒猫がよく来るのだ。

いつも思う、お前はどこに行

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絵描きの私と5人の男 #1

絵描きの私と5人の男 #1

とある昼下がり。人里離れた少し寂れた私の家に、知らない女の子が飛び込んできた。
どうやら売れない絵描きの私の家に住む男、木山と知り合いらしい。
その木山も数カ月前突然家にやってきて、
「家なくなったから一緒に住んでいい?」と言ってきた。
まぁ知らない人では無かったし、いいよと答えたのだ。
まずは人を信じることが大切、と、昔から教わってきたし。

突如来た彼女は、家に入ってきて早々、急に携帯を鳴らし

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