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私は彼女の眼鏡である

今日も置いていかれた。
外の世界を見れなくなって、もう何年が経っただろう。
彼女が中学生までは、毎日外に連れて行って貰えたのに。
高校生になって、彼女は我が宿敵「コンタクトレンズ」と手を組んだ。
私も彼女の目に入り込むくらいのサイズなら、連れて行って貰えたのだろうか?

彼女は今年27。ということは私が常用でなくなって11年くらい経つということだ。
時の経過は早い。
彼女もあっという間に大きくなった。
私は彼女の成長を誰よりも長く見ている。
あ、いや私を買ってくれたお母様よりは見ていない、と思う。
毛穴等は誰よりもくっきり見ているがね。
こんなこと年頃の女性に行ったら怒られてしまうね。やめよう。

とにもかくにも、私は外に出たい。
彼女と共に遠い異国の地に出かけていたあの頃に戻りたい。
その願いはもう叶わないがね。
彼女はコンタクトレンズに心底夢中で、
最近は私をケースにすら入れてくれなくなった。
ケース…あいつもどこへ行ったのだろう。
久しく会えていないが元気であろうか。
もしかするとあいつはここ東京にはおらず、
彼女が育った家にいるかもしれないがね。

とりあえず、私は彼女と共に出かける方法を考える。
コンタクトレンズを隠してやろうにも、私には手がないから無理だ。
動くことが出来たならすべてのコンタクトレンズを破壊してやるのに。
何かあいつに勝てることはないかね。
私は必死に考える。

ただ彼女は言う。
メガネをかけない理由として第一に、自分の目が小さくなるから嫌だと。
それは、致し方なし。彼女の目が悪すぎるが故にレンズが厚くなり、どうしても屈折やらなんやらで小さくなってしまうのだ。
その点コンタクトレンズは、小さくならない。
なんなら目をでかく見せるやつもあるらしい。
彼女にとって目はとても大切らしいので、そこはコンタクトレンズに軍杯が上がる。
他にも考えたが、何も無い。

夜、彼女が帰ってきた。
私は問いたい。もう私は不要では無いのかと。
彼女は帰ってきてすぐ、寝巻きに着替えると同時にコンタクトレンズを外した。
そして、捨てる。

「今日も疲れたー」

外の世界に出る前に完璧にしていった彼女は、この瞬間一気に崩れる。

「やっぱりメガネが楽だなー」

不意に吐いた彼女のその一言に、
私の悩みは綺麗さっぱり消えてなくなった。
コンタクトレンズにも良さがあり、私には私の良さがあるのである。

それでも、彼女の目は良くしてあげられんがね。

捨てられて乾くコンタクトレンズに
お疲れ様の言葉を掛けて、私は今日も彼女と共にテレビを観る。

あぁ、今宵もテレビは面白い。

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