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書評まとめ

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いままでnoteに執筆・掲載した書評のまとめ
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書評:プラトン『ゴルギアス』ーー正しすぎた道化・ソクラテス

書評:プラトン『ゴルギアス』ーー正しすぎた道化・ソクラテス

プラトンの『ゴルギアス』を再読した。実際、最初に読んだ内容はすっかり忘れてしまっていた。それを思い出して理解するために読み返したと言ってよい。初読ではなにがなんだかわからないのが普通である。もしあなたがそれを読んでほとんど理解できなくても気落ちする必要はない、と私の大学時代の哲学の恩師も助言してくれたほどだ。どうやら哲学書は折に触れて読み返すたびに面白くなるらしい。忘れること・思い出すことを繰り返

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書評:小倉孝誠『〈女らしさ〉の文化史』

書評:小倉孝誠『〈女らしさ〉の文化史』

女性の精神疾患をめぐる語り方には、多くの点で、19世紀の転換期と21世紀の現代とで共通点がある。わたしたちは新しい時代を生きているわけではない。無自覚であるがゆえに、かえって同じ状況を反復しているように思われる。ここでは、女性にまつわる言説がいかに時代を超えて類似しているか、小倉孝誠『〈女らしさ〉の文化史』を読みながら、ヒステリーという病気の観点から簡単に書き留めておきたい。

前提:性別の科学的

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書評:森銑三、柴田宵曲『書物』

書評:森銑三、柴田宵曲『書物』

愛書家の思いは時代を越えて共通である

『書物』とぶっきらぼうに題されたこの随想集は、近世の書物研究に打ち込んだ二人の碩学の手による共作である。前半を森が、後半を柴田が執筆している。

読書行為から出版市場に至るまで、「書物」から連想される主題を、紙幅の限り縦横無尽に説き明かしている。戦中の執筆だが、現代と相通ずる部分も多い。愛書家の本質は、いつまでも不易ということだろう。蔵書が家を圧迫し、本の貸

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書評:論理的思考は複数あることを示すスリリングで「哲学」的な論考ーー渡邉雅子『論理的思考とは何か』

書評:論理的思考は複数あることを示すスリリングで「哲学」的な論考ーー渡邉雅子『論理的思考とは何か』

渡邉雅子『論理的思考とは何か』は、優れた哲学書である。哲学についての言及があるからではない。留学した時の強烈な異文化体験が、著者に、そもそも知的で論理的な文章とは何か、根底から問い直すことを強いているからである。

その構成は大きく分けて2つの部分からなる。ひとつは論理的思考が、西洋においても「論理学、レトリック、科学、哲学」の4つの「基本パターン」が多様にあるとする前半部分である。もうひとつは、

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書評:中川右介『クラシック音楽の歴史』についての走り書的覚え書

書評:中川右介『クラシック音楽の歴史』についての走り書的覚え書

※2024年9月24日のAmazonレヴューから転載。

いつの間にか勉強になっている面白い読み物

中川右介『クラシック音楽の歴史』を読了しました。この本は西洋音楽史ではなく、あくまでクラシック音楽の歴史と銘打たれています。

つまり、西洋の古典音楽の歴史を一から十まで通覧したい人のための本ではありません。なんとなく日本語で「クラシック音楽」と呼ばれているものに興味をもっているけれど、基本的な知

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書評:柴崎友香『あらゆることは今起こる』(シリーズ ケアをひらく)についての走り書的覚え書

書評:柴崎友香『あらゆることは今起こる』(シリーズ ケアをひらく)についての走り書的覚え書

※2024年10月5日にAmazonへ投稿したレヴューから転載。

私自身、コンサータを処方してもらった経験があります。なので、ADHDやASDについての経験を具体的に述べている前半部分には、共感するエピソードは多く、面白く読めました。ただ、その後のいくつかの内容に違和感をもち、読み進めることができなくなりました。本文から2つ引用します。

この2つの文章が一冊の同じ本の中にに印刷されていることは

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書評:ティモシー・ウィリアムソン『哲学がわかる 哲学の方法』についての走り書的覚え書

書評:ティモシー・ウィリアムソン『哲学がわかる 哲学の方法』についての走り書的覚え書

ティモシー・ウィリアムソン『哲学がわかる 哲学の方法』(岩波書店、広瀬覚 訳、2023年)(Philosophical Method: A Very Short Introduction, Timothy Williamson, Oxford: Oxford University Press, 2020) 読了

著者は哲学の出発点に「常識」を据える。その仮想敵はデカルトの追従者たち、つまり懐疑論

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