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#読書

酩酊の文体――吉田健一『酒宴/残光』

酩酊感を引き起こす文章というのがあり、実際に酩酊するとか、知覚に負荷をかけて読むといっそ…

無造作に扉を開くように~中沢けい「入江を越えて」

 自分の話からアプローチするほかないような仕方で小説を読んでいいだろうか。  この人と上…

山口尚『幸福と人生の意味の哲学』

「いや~~~~~生きるってのはつらいですね!!!!!!」  っていう、そう言っている自分…

永井均『遺稿焼却問題:哲学日記2014-2021』

別のしかた? タイトル通り、永井均の2014年から2021年までのツイートを編集した本。もう1冊…

鴇田智哉『凧と円柱』の空間――提喩の方法

 空間を知覚する方法にはいくつもある。 梨を剝くひびきは部屋を剝く響き と言われたときに…

林芙美子のケアと気遣い(とオースティン)

 初めてケアと文学についての議論を読んだのは富山太佳夫の『英文学への挑戦』だったと思う。…

劣等感と自己啓発の本、『愛と幻想のファシズム』(あとハーヴェイ)

 加藤諦三『劣等感がなくなる方法』を読んで、スクショを上げたら村上龍の大ファンに「村上龍のエッセイですか?」と聞かれて、その後か間かに龍の『愛と幻想のファシズム』のファシズムを読んでいたらたしかに、と思った。  先に『劣等感が~』のことを言っておくと、これは別に心理学とか精神医学とか哲学とかの本ではなく(もちろんそういう体裁ではあるけど)自己啓発本であって、学術的なところはあんまりない(アドラーとかにそれを認めるならそうなのでしょうが)。とは言え個々の人々が生きていくために

バンジャマン・ペレ『サン=ジェルマン大通り一二五番地で』

 「ペレのテクストは常に、それが持っている形式の必然性を奪われ続けなくてはならないのであ…

内堀弘『ボン書店の幻』

 うちには山中散生の第一詩集、『火串戯』の復刻版がある。函には塵入り和紙が貼られ、本文は…

『エクリヲ13 鬱の時代・ポストクリティークⅡ』

 抑うつだかBPDだか社交不安だかなんだか分からないものに苛まれていた時期、結局医療や制度…

たとえ世界貧乏だとしても〜生き物たちのご機嫌な世界 Pleasurable Kingdom: Animals…

 人間以外の生き物には感覚も感情もない、刺激に対して機械的に反応しているだけだと考える人…

藤田一照・永井均・山下良道『〈仏教3.0〉を哲学する』

 信仰と崇拝は別のことで、その区別はときどき難しい。信仰とは超越的なものとつながる場所を…

インターネットのおかげです🌈~Gretchen McCulloch _Because Internet: Understandi…

 著者の姿勢はちょっとクサいけど次の一節に要約されている。 私にとってこのような変化は素…

フラナリー・オコナー『すべて上昇するものは一点に集まる』~親がネトウヨの私たちのために

 絶対望ましい受け取り方じゃないんだけど、体の半分が抱腹絶倒してもう半分が強めのマッサージを受けているときみたいにアー、アー、って感じになる。抑圧されたものの回帰やダブル/分身の恐怖を扱う正当派ゴシック小説であり、どちらかといえば三文ホラーに近いびっくり恐怖おぞまし暴力シーンは21世紀の読者にとって笑い抜きで読みづらいところがある。  一方でそこに描かれる社会状況や人物像は今の日本で生まれ育った私たちにとっても極めてアクチュアルなものとして読める。とりわけ世代間での価値観の