インターネットのおかげです🌈~Gretchen McCulloch _Because Internet: Understanding the New Rules of Language

 著者の姿勢はちょっとクサいけど次の一節に要約されている。

私にとってこのような変化は素晴らしいものだ。文字で声のトーンを表す人が増えて標準的な句読法が衰退するとしても、人間同士の繋がりを深めるためなら喜んで受け入れる。標準なんてものはそもそも恣意的でエリート主義だから。なにせ赤ペンは私に愛を返してくれない。句読法の一連のルールに完璧に従えばある種の権力が得られるけれど、それは愛ではない。愛は規則のリストからは生まれない――人と人の間で、互いに関心を抱き、相手への影響を気遣いあうときに生まれるものだ。規則に通じていることだけでなく、声のトーンが伝わる書き方を身につけるとき、書くことは知的な優位性を示すものではなく、互いの声をもっとよく聞くための方法だと考えるようになる。私たちは力のためでなく、愛するために書くことを学ぶ。
(p.153-54、拙訳)

 ネット上に書き込まれる言葉は、声のトーンや表情といった身体的な非言語情報を欠いている。それを補うために人々はどのように文字のコミュニケーションを進化させていったか、そしてそのような個々の変化、スタイルが―フェイストゥフェイスのコミュニケーションと同様に―いかにある世代や集団への帰属意識の醸成に役立っているかということが、インターネットの歴史とともに語られる。

 2章は社会言語学の知識を導入しつつ、言語の変化がどのような人口集団でどんな風に起こるか、あるいは規範を言いたい側がどんな変なことをしてきたかが、3章ではいつ頃どんな風にネット上のコミュニティに参入したかに応じてコホートに分ける。その後は文字で伝える声のトーン、絵文字、会話のあり方、ネットミームのそれぞれに1章が割かれている。

 分析としてエキサイティングなのは絵文字の章で、絵文字は対面会話におけるジェスチャーに対応するのではないかという仮説が立てられる。ジェスチャーにはemblemと呼ばれる名前が付けられる動作(ハイ・ファイブやサムズ・アップなど)と、beatと呼ばれる発話のリズムに合わせて繰り返し行われる動作(ろくろ回しなど、人によって違う)があり、そのどちらの用法も、文字の上では絵文字を使って行われているのだという。

 私たちは特に言うべきことはないけど親愛を伝えたり関心を求めたりしたいときがある。絵文字にせよ顔文字にせよgifにせよLike👍にせよ、そのような会話のための会話をファシリテートできたとき、ソーシャルなツールは人気を博すというわけだ。

 以下、面白かったトピックをいくつか紹介する💡✨

- SNSに書き込まれる膨大な言葉がインフォーマルな発話の既に書かれた記録として有用な言語資料を提供する。位置情報がタグ付けされたツイートから、ある言い方がどの地域で優勢なのか分かったり、発音になぞらえた綴り直し(creative respelling)から人が実際どのようにある言葉を発音しているか知れる、など。

- PCに組み込まれたスペルチェック機能は1990年代にイギリス英語の綴りに変化をもたらすほど強力な規範であった。

- 日本語圏でナスビでちんちんを表すなんて古色蒼然という感じだが、英語圏では現役で、ナスビの絵文字🍆を離れ、eggplantという単語だけでちんちんを言う例まで見つかったらしい。a singer "Mistakenly Shared Photo Of His Eggplant On Instagram"という見出し。

- 人は"人生"の最初の3分の1の期間に新しい言い方を取り入れやすく、それ以後はあまり変化しないが、この"人生"は文字通りの意味だけでなく、あるコミュニティで過ごす期間のこと。新しい趣味を始めたら、最初の数年間でそこの新しい言葉を身につけ、それ以後は保守化する。

- 英語だと"period"とか"quote-unquote"とか句読記号を声に出すやり方が昔からあるけれど、最近は"hashtag"とかも声で言われる。文末に"hashtag awkward!"って言うみたいな。

-「ふこうの手紙」系のとチェーンメールの間の時期には、オフィスのコピー機とかを使ったfaxlore, Xeroxloreと呼ばれる似たようなものがあった。

- オンライン空間でまともにサポートされていない数多くの言語の話者とか、識字じゃない人たちは、ボイスチャットやオーディオクリップをより多く使っている。

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↑ウケた

Gretchen McCulloch, _Because Internet: Understanding the New Rules of Language_. Riverhead Books, 2019. Kindle ed.
一般向けでちょっと参照しにくいけど、きちんと文献がついている本です。

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