お茶の稽古は、想像力の遊び(新宿御苑「あのん」へ)
お茶の稽古へ。
空手道場へ行く長男と共に、少し早起きして電車に乗り込みます。
余計なものが何も置かれていない静かな空間で、お湯が沸く音に耳を澄ませ、お茶の香りを吸い込む贅沢なひととき。
少しでも先生に近づきたくて、家でも教室と同じ銘柄の抹茶を使っているのですが、先生がお茶室で点ててくださるのと、私が自服のために家で点てるのとでは、まったく別の飲み物みたいに味が違うのです。
今日の掛け軸は「百花」
茶花は「甘茶」
甘茶は紫陽花の仲間で、小さく控えめな花です。
たった1輪の花ですが、掛け軸との相乗効果で、まぶたの奥に百の花が咲き乱れるお花畑が広がります。
抹茶の粉を入れる「棗(なつめ)」の柄は「高台寺蒔絵」。
豊臣秀吉の家紋である桐と、天皇家の菊の紋が並んでいます。
昨年末、高台寺を訪ねたときに歩いた苔庭の散りもみじや、にわか雨にふられながら眺めたお茶室「時雨亭」のしっとりした風情が思い出されました。
お茶室で出会う道具と、実際に見てきた景色が脳内でつながるのは、とても愉しい経験。
先生が点ててくださった一服を飲み干し、お茶碗を拝見していたら、見覚えのある「双葉葵」の紋様が。
「あ、上賀茂神社のフタバアオイ」とつぶやいたら、先生がにっこり笑って頷いてくださいました。
双葉葵は古来、神様と人のご縁を結ぶとされてきた植物。
京都にある上賀茂神社と下鴨神社の「神紋」は、この双葉葵なのです。
上賀茂神社の荘厳な本殿の様子や、下鴨神社の境内を流れる清らかな水音が一瞬にしてよみがえります。
関西へ旅立つ前、稽古に通っていたときにも、確かに同じ棗や茶碗を使っていた記憶はあるのです。
でも、紋を見ただけでこんなふうに鮮やかな記憶がよみがえり、イメージが広がることはありませんでした。
関西で過ごした1年間、とりつかれたように(笑)神社仏閣を巡って歩いたおかげで、お稽古がますます楽しくなりました。
お茶の稽古は、4畳半の茶室から想像力を羽ばたかせる、究極の遊びでもあると思うのです。
お茶室を出た後、空手の稽古を終えた長男と合流。
長男は今、週のうち6日を道場で過ごしています。
幸い、今住んでいる家の近くに、以前東京で通っていたのと同じ系列の道場があり、平日はそこへ通っているのですが。
休日は「小さい頃育ててくれた先輩たちと組手がしたい!」と大きな荷物を抱え、出張稽古?しているのです。
「今日もきつかった〜」とうれしそうな長男の話を聞きながら、新宿御苑でおにぎりをいただきます。
汗だくで全身運動するので、電車に乗って家に着くまで、空腹をがまんできないのだそう。
朝握ってきた特大のおにぎり、私が1つ食べる間に息子は4つ頬張り、まだ「お腹が空いて我慢できない」と。
陽ざしを楽しむ人々で混雑した園内を散歩しつつ、デザートを求め、京都祇園「あのん」の新宿御苑店へ。
あっという間に私より背が高くなり、12歳の誕生日には夫の身長も追い越してしまいそうな息子。
2人で散歩したりお茶を飲んだりする機会もだんだん減っていくんだろうなと思いつつ、極上のあんこと抹茶アイスをはさんだ最中を噛みしめました。