マガジンのカバー画像

#読書感想文

113
文芸書から自己啓発書まで、読書感想文として書き留めています。ご参考になれば幸いです。
運営しているクリエイター

#新潮文庫

安部公房(1962)『砂の女』再読の感想

安部公房(1962)『砂の女』再読の感想

安部公房の『砂の女』を再読した。

昭和37年(1962年)に新潮社より出版され、昭和56年(1981年)に文庫化されたものを読んだ。新潮文庫の解説は、ドナルド・キーンである。

はじめて読んだときの印象とそう大きくは変わらなかった。結末のおかしみ、何とも言えぬ脱力感がある。

ただ、主人公の男が、思ったより、アグレッシブで、いやったらしいインテリ風で、翻弄されるという感じに欠けていて、あまり同情

もっとみる
向田邦子(1985)『男どき女どき』の読書感想文

向田邦子(1985)『男どき女どき』の読書感想文

向田邦子の『男どき女どき』を再読した。1985年に新潮文庫から出された短編小説とエッセイの本だ。

十代の頃、向田邦子の技巧性(うまさ)に恍惚を覚えた記憶がある。なんて、天才なのだろう、と。

今回、再読して、彼女が天才であることは間違いがないと思われた。しかし、彼女の限界もおぼろげながら見えた。

向田邦子はフェミニズムを超越したものを書いている、などという賛辞を聞いたことがある。家族の尊さは思

もっとみる

#読書感想文 角田光代(2009)『しあわせのねだん』

角田光代のエッセイ『しあわせのねだん』を読んだ。

2009年に新潮文庫、初出の単行本は2005年に晶文社から出されている。30代半ばの著者の日々が、お金という観点から綴られている。

読んでいて、刺さったのは、20代のお金の使い方がその後の人生を決める、というものだった。p.169からの「一日」の章に書かれている。

20代のわたしは、ほとんど可処分所得がなかった。ゆえに自分自身を形成するほどの

もっとみる
安部公房(1991)『カンガルー・ノート』の読書感想文

安部公房(1991)『カンガルー・ノート』の読書感想文

大学時代、安部公房の『壁』と『砂の女』を読んで、うわさどおり、予想どおり「ああ、天才だな」と生意気にも思った記憶がある。

その勢いで、ほかの作品もどんどん読んでいけばいいのに、その当時の私は「天才であることはわかった。放っておこう!」と安部公房から離れてしまった。なぜ、そう考えたのかは、はっきりとは覚えていないのだが、心残りではあった。安部公房の天才ぶりを確かめずに、死ぬのはよくない。

という

もっとみる
川上弘美(2006)『ざらざら』の読書感想文

川上弘美(2006)『ざらざら』の読書感想文

川上弘美の『ざらざら』を新潮文庫で読んだ。2006年にマガジンハウスから出版され、2011年に文庫化されている。もとは、「Ku:nel(クウネル)」で連載されていた短編集だという。解説は吉本由美である。

川上弘美の文体はなめらかである。決してその巧みさを強調したりはしない。描かれる世界も特別ではないように思わせるが、特別な世界を描いている。

この『ざらざら』の登場人物たちは、当たり前のように恋

もっとみる
安部公房(1967)『人間そっくり』の読書感想文

安部公房(1967)『人間そっくり』の読書感想文

安部公房の『人間そっくり』を新潮文庫で読んだ。文庫版の初版は1976年である。福島正実の解説によれば、もとは早川書房から1967年に日本のSFシリーズの一冊として出版されたものだという。

というわけで、この作品は、SFではあるが、決して奇想天外な展開はない。

主人公は『こんにちは火星人』という週6日の帯番組の脚本家(構成作家)の男性である。そこに火星人を名乗る男がやってくる。禅問答のようなやり

もっとみる
安部公房(1975)『笑う月』の読書感想文

安部公房(1975)『笑う月』の読書感想文

安部公房のエッセイ『笑う月』を読んだ。単行本は1975年発行で、1984年に文庫化された作品である。

夢にまつわる17編のエッセイが収められている。ただ、エッセイといっても、夢の話であるため、ショートショート、短編小説だと思って読んだほうが、すんなり飲み込める。

印象深かったのは、終戦後、中国の瀋陽で、チフスが流行しており、医師免許はなかったが診療した経験があるとか、奉天市で育ったことなどが、

もっとみる
川上弘美(2003)『ニシノユキヒコの恋と冒険』の感想

川上弘美(2003)『ニシノユキヒコの恋と冒険』の感想

川上弘美の『ニシノユキヒコの恋と冒険』を新潮文庫で読んだ。単行本が2003年に出版され、2006年に文庫化されている。

読了して、まず思ったことは、なぜわたしの人生にニシノユキヒコは現れないのだろう、ということであった。

ニシノくんは、色男である。川上弘美は、現代の光源氏として、『源氏物語』の翻案として、『ニシノユキヒコの恋と冒険』を創造したのだと思われる。

十人の女性の目を通して、読者はニ

もっとみる
『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』の読書感想文

『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』の読書感想文

1998年に新潮文庫から出版された『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』を読んだ。単行本は1996年に岩波書店から出されている。

わたしはフロイトやユングといった精神分析医をオカルトめいた自説を唱えている人たちだと敬遠していた。理由は二つある。フロイトのエディプス・コンプレックスやリビドーの考え方に対して、まったく納得できなかった。おじさんの男根主義にはうんざりしていた。もう一つは、わたしの物心つい

もっとみる