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#読書感想文

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文芸書から自己啓発書まで、読書感想文として書き留めています。ご参考になれば幸いです。
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#読書感想文 角田光代(2016)『坂の途中の家』

#読書感想文 角田光代(2016)『坂の途中の家』

角田光代の『坂の途中の家』(2016年,朝日文庫)を読んだ。

里沙子は三歳になる娘の文香を持つ、三十三歳の専業主婦。夫の山咲陽一郎は会社員。里沙子は子育てと仕事が両立できないのではないか、という不安から会社員を辞め、家事と子育てに専念している。そんな彼女のもとに裁判員の候補者になったという通知が届く。候補者になっただけだと安堵したのも束の間、裁判員の補充裁判員として、裁判を傍聴することになってし

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#読書感想文 エドワード・アシュトン(2023)『ミッキー7』

#読書感想文 エドワード・アシュトン(2023)『ミッキー7』

エドワード・アシュトン、大谷真弓翻訳の『ミッキー7』(2023年、ハヤカワ文庫)を読んだ。

地球に住めなくなった人類は、散り散りに宇宙の惑星を開拓しながら生きている。ミッキーは歴史が好きで、歴史学者になりたかったが、そんな職業はすでにこの世に存在していない。歴史は検索すればわかることだから、学問として取り扱われなくなったらしい。物理学や宇宙工学、農学、植物学などを専門としている人は重宝されている

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クーリエ・ジャポン おすすめ記事 ベスト3

クーリエ・ジャポン おすすめ記事 ベスト3

2024年はクーリエ・ジャポンを定期購読してきた。年末に解約するにあたり、おすすめ記事をメモとして残しておこうと思う。これから、会員になる人にはぜひ読んでみてほしい。

(ただ、クーリエ・ジャポンの面白い記事は、Yahoo!ニュースに転載されることも多いので無理して入らなくても大丈夫)

■「デブのカップル」と思われることが恥ずかしすぎて耐えられなかった

ニューヨーク・タイムズのコラム「モダン・

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#読書感想文『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』

#読書感想文『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』

漫画『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』を読んだ。原案が下駄華緒、漫画が 蓮古田二郎。

火葬とは現代日本人にとって最も馴染み深い埋葬方法である。「荼毘に付す」に対して「野辺送り」がある。今では火葬が一般的で、土葬は集落の慣習として一部の地域に残っている。

滝田洋二郎監督の映画『おくりびと』(2008)で納棺師、湯灌師という、死の周辺にある職業が注目されるようになったと思う。今回、読んだ『

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#読書感想文 柚木麻子(2020)『BUTTER』

#読書感想文 柚木麻子(2020)『BUTTER』

柚木麻子の『BUTTER』、2020年の新潮文庫版を読んだ。単行本は2017年4月に出版されている。

韓国の翻訳家であるクォン・ナミのエッセイ『ひとりだから楽しい仕事』の中で、『BUTTER』を読み、日本に来た際、わざわざ娘さんと東京駅のエシレに行き、マドレーヌがすごくおいしかったというエピソードが書かれており、そこまで人を動かす小説なのかと興味を持ち、読み始めた。(話題作であることは知っていた

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#読書感想文 益田ミリ(2023)『ツユクサナツコの一生』

#読書感想文 益田ミリ(2023)『ツユクサナツコの一生』

益田ミリの『ツユクサナツコの一生』を読んだ。新潮社から2023年6月に発売された単行本である。

どこかで話題になっていたし、(ネットやSNSを何の気なしに見ていて出会う本は情報源を忘れてしまうことが多い。まずいと思っている)それにわたしは益田ミリさんが以前から好きだったので、軽い気持ちで読め始めた。

すると、一読して号泣。自分が泣いた理由がよくわからなくて、もう一度読んでみたが、また号泣してし

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『進撃の巨人』のミカサとエレンについてずっと考えて気付いたこと

『進撃の巨人』のミカサとエレンについてずっと考えて気付いたこと

2023年11月に『進撃の巨人』のアニメーションが完結した。それを機に何度か通しで見直した。そこで『進撃の巨人』ってライナーの物語だったのではないかと思ったりした。マーレ編のおかげで、単なるダークファンタジーではなく、人類とは何か、という一大叙事詩になったことは間違いない。それに「少年よ、神話になれ」と言われていた碇シンジ君より、エレンの方が神話的な人物になったことも興味深い。

というわけで、こ

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#読書感想文 猿渡由紀(2021)『ウディ・アレン追放』

#読書感想文 猿渡由紀(2021)『ウディ・アレン追放』

猿渡由紀さんの『ウディ・アレン追放』を読んだ。2021年6月に文藝春秋より出版された本である。

最近、ウディ・アレンの作品がAmazon Primeで再び見られるようになってきた。2024年1月19日には最新作『サン・セバスチャンへ、ようこそ』が劇場公開される。

ウディ・アレンは、恋人であったミア・ファローの養女であるディランに性的虐待をしたとして、1992年に裁判が起こされ、その当時は無罪に

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#読書感想文 山本文緒(2021)『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』

#読書感想文 山本文緒(2021)『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』

山本文緒の『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』を読んだ。2021年10月に新潮社より出版された本である。

山本文緒さんの訃報を耳にしたとき、大きなショックを受けた。享年58歳は若すぎる。

10代の頃は書店通いをして、毎月、文庫本コーナーをしげしげと眺めていた。当時は、江國香織、唯川恵、山本文緒が女性作家の御三家であったと思う。江國香織は七光りなので、ブランド物のように扱われており

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#読書感想文 太田愛(2017)『犯罪者』

#読書感想文 太田愛(2017)『犯罪者』

太田愛の『犯罪者』(上下巻)の角川文庫を読んだ。

10代後半の若者である修司は、渋谷のクラブで出会った女の子に深大寺駅前の噴水広場に呼び出される。彼が女の子を待っていると、真昼にダースベーダーのような出で立ちの男が現れ、その場にいる4人が刺殺される。唯一、応戦できた修司だけが生き残り、病院に搬送される。命に別条はなかったものの、病院に青ざめた中年の男がやって来て、修司にあることを告げる。「逃げろ

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#読書感想文 岸本聡子(2022)『私がつかんだコモンと民主主義 日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』

#読書感想文 岸本聡子(2022)『私がつかんだコモンと民主主義 日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』

東京都の杉並区長である岸本聡子の『私がつかんだコモンと民主主義 日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』 を読んだ。

2022年7月に晶文社から出された単行本である。

本書では、岸本聡子が政治家になる前の活動家時代のことを知ることができる。彼女は1974年生まれの、いわゆるロスジェネ。彼女の5人きょうだいはみなロスジェネで、正社員になれたのは弟さん一人だけだと言う(p.72)。何とも過酷だが

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#読書感想文 柳美里(2017)『JR上野駅公園口』

#読書感想文 柳美里(2017)『JR上野駅公園口』

柳美里の『JR上野駅公園口』を読んだ。

わたしが読んだのは2017年出版の河出文庫版で、単行本は2014年に出版されている。

2020年にアメリカの全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞したことは記憶に新しい。

正直に言うと、わたしは柳美里が苦手だった。赤ん坊を抱く自分を単行本の表紙にしてしまう豪胆さに面を食らって以来、勝手に距離を置いていた。ただ、彼女は演劇出身であり、パフォーマンスをして、観衆

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#読書感想文 遠藤周作(2021)『深い河』

#読書感想文 遠藤周作(2021)『深い河』

遠藤周作の『深い河(ディープ・リバー)』を読んだ。2021年に出された改訂版の講談社文庫である。解説は研究者の金承哲。

『深い河』は1993年6月、遠藤が70歳のときに出版されている。彼は1996年に73歳で逝去してしているため、晩年の作品と言えるだろう。

深い河とは、ガンジス河を指す。妻を亡くした磯辺は妻に生まれ変わると告げら、日本人の生まれ変わりだと話す少女のいるインドに向かう。

磯辺、

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#読書感想文 遠藤周作(1988)『私にとって神とは』

#読書感想文 遠藤周作(1988)『私にとって神とは』

遠藤周作の『私にとって神とは』を読んだ。1988年に光文社文庫より出版されたものである。

遠藤周作は文学史的に言えば、第三の新人である。1923年生まれで戦中と戦後を生きた作家でクリスチャンとして知られている。

本作は、これまで人に質問されてきたことを遠藤周作自身がまとめて、質問と回答を構成している。自作自演の、ちょっと変わった趣向のインタビュー本である。

遠藤周作は母親が離婚をして、母親の

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