話題の『ポリヴェーガル理論』の本を読んで自分なりにまとめてみました。
私がスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーで学校での支援を行う場合に、『ポリヴェーガル理論(検証可能な仮説)』を踏まえて、トラウマやストレス反応を捉えられると、説明しやすかったり具体的な支援をイメージしやすいと感じています。
ストレスに対する身体反応を抑制するには、他者との「安全な」つながりが必要になる点や、トラウマなどで起こる身体反応は身を守るための適切な反応である点が共有できたり、本人に無理なくできそうな他者との協働調整には何があるのかなどを話し合えるといいなと思っています。
ということで、私は「ポリヴェーガル理論入門 ステファン・W・ポージェス 春秋社」 を読みながら、当事者の児童生徒の方や養育者、先生方にもうまく伝わるように図式化してみました。本に出ている言葉を使っているので、もう少し要約が必要な気もしております。
図で言いたいのは、学校や家庭環境で起こることの具体的な身体反応のイメージや、身体反応を抑制する社会交流にはどういったものがあるのかのイメージです。
『ポリヴェーガル理論入門』を読んで、改めて私が意識したいのは、まず自分がクライアント(当事者児童生徒、その養育者、先生など)と関わる時は、腹側迷走神経が機能している状態、つまり自分がその場に安全を感じている状態でいることだと思います。話すときは、ゆっくり抑揚をつけて話したり、よく相手の話を聴く姿勢が必要だと思います。
それから、本人が「他者との協働調整で安全を感じる」には、適切な身体的反応を本人がポジティブなものとして認識することが重要になってくると思います。
また、養育者や学校の先生の接し方や態度が大切だと思います。評価や批判も身体反応を惹起することになるので、極力コントロール性を排した「安全」を目的とした普段のコミュニケーションが当事者の周りに必要になると思います。
たまにあるのは、自分を含めた支援者や保護者、学校の先生の交感神経が過活動しているのに無自覚で、闘争/逃走状態であると、うまくいかなくなるということです。
改めて専門家の役割を考えると、まず自分が落ち着いていること、次に、当事者の周りの環境を「トラウマインフォームド」にすること(周りの関係者の身体的な安心と認知的な理解の促進)、そして本人に対しては、まず身体反応をポジティブに受け止めてもらうこと、次に、本人の「安全」に照らし合わせながら、具体的な他者との協働調整の仕方や環境づくりを一緒に考えること、そして「自己調整」の仕方を提案することかなと思います。
以下には、本の内容を項目ごとに整理しながら、自分の視点もいれてみました。★は自分の視点で追加したものです。
◇ポリヴェーガル理論の特徴(あくまでも私の捉え方です。)
・副交感神経を進化の過程から二つに分けた。腹側迷走神経と背側迷走神経。
・神経系の生理学的反応からトラウマ、ストレス反応を説明している
・脳と身体が神経系を媒介に相互交流していると捉える
・人は他者との協働調整で安全と信頼を感じている
・問題行動は、自分では制御できない身体反応であり、自分を守るための適正な行動である。
・社会交流システムが機能しないと、闘争/逃走状態やシャットダウンという防衛反応が発動しやすくなる
・治療ではなく、生きやすい環境を作る
・精神疾患、発達障害などに起こる症状を神経系の生理学的反応から説明している。
などと私は捉えています。
◇ストレスによる身体反応が起こる原因
命を脅かす出来事、トラウマ(狭義、広義)、各種虐待、長期の虐待、★小児期の逆境体験(家庭内暴力、養育者の薬物乱用や精神疾患、両親の離婚や別居)、世代間伝播による不適切な療育、人間関係で心を傷つけられる、評価や批判をされる、プレッシャー、恐怖を感じたり、危険な状態、孤立と拘束、深刻な病気の告知、かつてのトラウマ体験により、交感神経が高度に活性化(闘争/逃走状態、ストレス反応)している状態が続いている。など。
※何が本人にとってストレスとなるかはひとそれぞれ、出来事に対する身体的反応には個人差がある。
◇目指す状態
・他者の存在の助けをかり「安全である」と感じること。社会交流システムを機能させること。安全な環境づくり…雑音や低周波音がない状況等
・支援者…社会交流システムを通して、防衛戦略を抑制する能力をクライアントに提供する
◇避けた方がいいこと
・評価や批判をする…防衛反応を引き起こす生理学的状態を作り出してしまう。
・無理な提案(提案に対しても身体反応が出た場合は、いったん取りやめる)。
・一人でやるゲーム…闘争/逃走行動を支持する生理学的状態を作り出してしまう。
★顔や声のやり取りの無いSNSでのコミュニケーション。
他にもいろいろ
◇認知機能による回復
・「あなたはなにも間違っていない。身体はなんとかあなたが生き延びることがでるように適切な反応をしている」と伝える。「今のままではだめだ」ではない。
・心理教育…本人だけでなく、周りの関係者(養育者、先生、支援者等)が本人の防衛反応を理解する。…★「トラウマインフォームドケア」など
◇社会交流システムを活用した回復方法
・韻律に満ち抑揚のある声で話しかける、ゆっくりと話しかける。
・自分の身体の声を聴く…カウンセリングによる感情や身体反応の言語化
・各種セラピー
・ソマティックなセラピー
★リフレクティングの活用(複数の関係者で、視点を合わせないで対話するというやり方が協働調整のスモールステップになる気がします。)
★オープンダイアローグ(当事者が所属するコミュニティの関係者(養育者、学校の先生等)が相互に安全を感じる対話になると思います。)
◇自己調整方法
・韻律に満ちた声の音楽を聴かせる。1日1時間、5日間。音楽を聴く(クラシック、子守唄、第一楽章)。
・呼吸法(心拍数の調整)、歌う、マインドフルネス、ヨガ、ゆれる(ブランコ、ロッキングチェア、バランスボール)。
★タッピング(TFT)。
◇疑問点
・自己調整と社会交流システムの境界線がわからない。例えば、ヨガはどの点が、社会交流システムで、どの点が自己調整となるのか。
・入門書なので、実際の回復に向けた具体的な取り組みや、どれくらいの期間で回復するかの目安が知りたい。
ということで、ポリヴェーガル理論についてはもっと勉強した方がよさそうです。