#271「ビジネス頭の体操」 今週前半のケーススタディ(4月12日〜4月14日分)
はたらくおとな向け。普段の仕事と無関係なケーススタティで頭の体操。
その日にちなんだ過去の事象をビジネス視点で掘り下げています。
普段の仕事を超えて、視野を広げ、ビジネスの頭の体操をするのにぴったり。
考えるための豊富な一次情報やデータもご紹介。
→部分は、頭の体操する上での自分に対する質問例、です。
4月12日(月) パン市場は伸びている?縮小している?
東京都中央区日本橋兜町に事務局を置き、パン食の普及宣伝活動などを行うパン食普及協議会が1983年(昭和58年)3月に制定した「パンの記念日」です。
1842年(天保13年)のこの日、軍用携帯食糧として「兵糧パン」と呼ばれる「乾パン」が焼かれたのが日本で初めて作られた「パン」と言われ、これを記念した日だそうです。
パン。
米と並ぶ主食の1つです。
まず、市場規模ですが、矢野経済研究所の「国内のパン市場規模推移」によれば、2017年で1兆5,582億円の市場規模があるとされています(下図)。
また、米との市場規模比較ですが、同じく矢野経済研究所の「米飯市場の市場規模推移」によれば、2017年で2兆4,490億円となっています(下図)。
同社の数値で直近までのものがないのですが、富士経済の「国内パン市場調査」によると、2019年見込みで2兆7,804億円となっています。
数字が大きく異なりますが、富士経済の方は業務用(チルドパン等)も含むことが理由と考えられます。
富士経済のデータでは、品目別の市場規模もわかります(下表)。実は菓子パンが最も市場が大きく、次が惣菜パン、という順番であることが分かります。
また、最近話題の高級食パン専門店の市場規模は2019年見込で209億円、2020年予測では255億円と2割を超える成長が見込まれています。
もう少し長期のデータを見てみましょう。
一般社団法人日本パン工業会の「パンの年別生産量」(昭和40年〜令和元年)をによると、食パンの生産量は昭和56年頃にピークとなりそれ以降は横ばい。
一方で、菓子パンが伸びましたがそれも横ばい、と全体で見ても平成13年ごろから横ばいであることがわかります。
また、学校給食パンもご飯食優先と少子化から長期的に減少していることがわかります(下図)。
同工業会では、「一人当たり生産量」、というデータも公表しており(下図)、そちらを見ても横ばいが続いていることがわかります。
パン、なんとなく伸びているイメージがあったのですが、単純な量、という面では横ばいなのですね。金額ベースで市場が伸びているのは、高級化、高付加価値化による単価の上昇によるものであることが分かります。
このようなパン業界ですが、最後に日本の食品製造業の中での位置付けを見て見ましょう。
食品製造業は、「素材型」「加工型」「飲料」「酒類」「その他」の5つに大別されます。実は、従業員数、出荷額ともに最も規模が大きいのが「加工型」であり、中でも「パン・菓子製造業」なのです。
農林水産省の「食品産業動態調査」によると、「パン・菓子製造業」に従事する従業員数は25.7万人で全食品製造業従事者の20.8%を占めています。
また、製品出荷額は5兆4,431億円と全体の15.0%を占めます。
(菓子も一緒となっているため数字が大きくなっています)
パン、完全に成熟した市場で大きな成長は見込めない市場であるものの、その中でも高級食パンなどの成長市場は生まれている、というところでしょうか。
→高級化以外に、パン市場で伸びるとしたらどのような方向性が考えられるだろうか?
4月13日(火) 大手カフェチェーン、店舗数TOP 3は?
1888年(明治21年)のこの日、東京・上野(下谷上野西黒門町)に日本初の本格的なコーヒー喫茶店「可否茶館(かひいさかん)」が開店したことを記念した「喫茶店の日」です。
喫茶店。
大手カフェチェーンの店は増えているような気がする一方、街の喫茶店まで含めると増えているのでしょうか?減っているのでしょうか?
喫茶店の数については複数のデータがあるのですが、ここでは全日本コーヒー協会の「喫茶店の事業所数及び従業員数」をご紹介します。喫茶店の数は1981年の15.4万箇所をピークに2016年には6.7万箇所まで減少しています(下表)。
一方で、店舗数を増やしているのが、店舗数1位のスターバックスと3位のコメダ珈琲店です(下図:出典東洋経済)。
現在の店舗数は(各社HPより)
☑️ スターバックス 1,601店舗(2020年9月末)
☑️ ドトール 1,081店舗(2021年2月末)
☑️ コメダ珈琲店 873店舗(2021年2月末)
となっています。
3社それぞれコンセプトが明確に違い、感染症の影響も異なります。
決算期が異なりますが、3社の直近の決算を見てみましょう。
☑️ スターバックスは2019年10月〜2020年9月の売上が1,738億円。これは昨年の2,011億円から13.5%のマイナスです。
☑️ ドトールはドトール・日レスのものですのであくまで参考ですが、2019年3月〜2020年11月の3四半期分の売上が715億円。前年同期比28.2%のマイナスです。
☑️ コメダ珈琲店は、2019年3月〜2020年11月の3四半期分の売上が212億円。前年同期比8.2%のマイナスです。
こうしてみると、感染症の影響は、ドトール>スターバックス>コメダ珈琲店の順で大きかったようです。
他の業界でも店舗立地が郊外であるほど影響が少なかった、と言われますのでコーヒーチェーンでも同じ傾向が出ていると思われます。
なお、コメダ珈琲店の売上が店舗数比少なく感じるのですが、フランチャイズの割合が大きいことが影響しています(計上されているのはロイヤリティで店の売上ではない)。
この3社の店舗数がTOP3と言っても、全体で6万ある中の1割にも満たないことからも、1店舗だけの事業者が圧倒的に多い市場だと言えるでしょう。
それでは、喫茶店全体の市場規模はどの程度なのでしょうか?
一般社団法人日本フードサービス協会「外食産業市場規模推計(令和元年)」によれば、喫茶店の市場規模は1兆1,780億円となっています(下図)。
外食産業全体では26兆439億円と推計されていますから、喫茶店は4.5%を占め、そば・うどん店(1兆3,133億円)と居酒屋・ビアホール等(1兆114億円)の間、という規模です。
最後に東洋経済の記事の「カフェ業界地図」が売上も入ってわかりやすかったのでご紹介します。
→スターバックスとコメダ珈琲店、全く戦略が異なるように見えるが、ともに積極出店を継続しているのにはどのような思惑があるのだろうか?
4月14日(水) 超安定企業をどう経営するか?
大阪市中央区玉造に本社を置き、医薬品製造企業である森下仁丹株式会社が制定した「良い年の日」です。
日付は「よ(4)い(1)とし(4)」(良い年)と読む語呂合わせから。高齢者の健康で生き生きとした生活を応援する日。
良い年の日。
いろいろな記念日がありますが、こういうのは珍しいですね。
ということで、森下仁丹株式会社について調べてみました。
(ちょっと狭い感じしますが…)
仁丹の会社、というイメージしかなかったのですが、実は包むための独自の技術も保有する会社でした。
創業は1893(明治26)年という大変歴史のある会社です。
2020年3月期の売上高は97億円、経常利益は5億円です。
特徴的なのが自己資本比率、なんと69.6%(2020年3月時点)あります。
堅実な経営を積み重ね、資本金(35億円)を超える利益剰余金(46億円)を持っています。
主な事業は2つ。
1つは売上で75%を占めるヘルスケア事業。
祖業でもある仁丹に加え、各種健康食品を扱っています。
最終商品だけでなく、素材として他社に販売する商品も取扱っています。
もう1つが残り25%の売上を占めるカプセル受託事業。
これが独自の技術のようで、粉末、液体、微生物などを皮膜で包むことができる技術です。最も分かりやすいのは、「生きて腸まで届く」なんていうのがありますが、生きた微生物を包み、途中の唾液、胃酸で溶けずに腸で溶けるようにコントロールできる技術です。また、噛むと中から液体が出るようなお菓子にも使われている技術です。
その製造工程を説明したHPがこちら。
このように特徴ある技術を持つ同社ですが、気になるのがその業績です。
10年前、2012年の売上は96億円。経常利益4億円とほとんど変化がありません。安定していると言えばそうなのですが、長年100億円前後で横ばいです。
個人的には、リテール向け、ホールセール向けのチャネルと商品を持ち、包むとう独自技術で受託生産もする、とバランスの良い事業構成の企業だと思います。事実、感染症下でも売上の落ち込みはさほどでも無く利益も計上しています。
加えて厚い自己資本もある。
さて、それを踏まえて「頭の体操」です。
→ちょっといつもの頭の体操と異なりますが、この超安定企業、皆様でしたらどう経営されますか?伸ばすことはできるでしょうか?
最後までお読みいただきありがとうございました。
パン市場は成熟した市場でどう成長機会を見つけるかが興味深い市場でした。
喫茶店市場も上位 3社をとっても戦略がさまざまでこれまた今後が興味深い。
最後は規模は小さい(売上100億、東証2部上場ですから小さくはないのですが)が、しっかりとした企業を取り上げ頭の体操をするものでした。
昨年7月から続けております。溜まってきました。
以下のマガジンにまとめてありますのでよろしければ。