#293 「日本人の知的好奇心は20歳ですでに老いている」(OECD国際成人力調査より)
ちょっと古い調査なのですが、OECDが行った「国際成人力調査」の、あんまり報道されなかったデータについて、メモ。
1、「国際成人力調査」って?
以下、文部科学省のHPの説明の要約です。
国際成人力調査(PIACC:Programme for the International Assessment of Adult Competencies)とは、経済のグローバル化や知識基盤社会への移行に伴い、OECDに加盟する先進国では、 雇用を確保し経済成長を促すため、国民のスキルを高める必要があるとの認識が広まっています。このような中、OECDでは、加盟24ヵ国・地域の16歳~65歳までの男女個人を対象として、「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」及び調査対象者の背景(年齢、性別、学歴、職歴など)について調査しました。
かなり以前になりますが、この調査結果が公表された際、日本は「読解力」「数学的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3つの調査いずれにおいても最も平均点が高い、という点が報道されたことが記憶にある方もいるかもしれません。
今回は、この時にはほとんど触れられることがなかった、この調査と同時に行われていたアンケートがあったことを、たまたま知る機会がありましたので、ご紹介します。
2、どんなアンケート?
先ほどの3つの成人スキル習熟度を評価することがPIACCの直接的な目的です。
一方で、こうしたスキルに差が生じる背景を分析する目的で様々なアンケートを行なっていたのです。
OECDの報告書では、「対人信頼感」「政治的自己効力感」「ボランティア活動」「健康」の4つを社会的アウトカムとして取り上げています(文部科学省が公表した報告書には記載がなかったためか、全くと言って良いほど報道されていませんでしたが)。
ところが、翌年、国立教育政策研究所の小桐間徳 国際研究協力部長が「国際成人力調査が示す日本及び諸外国の社会的アウトカムの特徴」という論文を発表しています。
その論文の中では、前述の4つに加えて、「知的好奇心」という項目も取り上げ、各国との比較を行なっています。
3、日本の「知的好奇心」は?強い?弱い?
この項目は、「私は新しいことを学ぶのが好きだ」というステートメントが自分にどの程度当てはまるかどうかを聞いており、「非常に当てはまる」から「全く当てはまらない」までの5選択肢で回答を求めています。
その結果は以下の通り。
また、回答について、「全く当てはまらない」0から、「非常に当てはまる」4まで割り振りその平均を算出したのが以下の表です。
いずれも23ヵ国中22番目、という結果です。
論文でも日本人は「ある程度当てはまる」という中間的な選択肢に集まる傾向がある点を考慮すべき、と指摘していますが、それでも「ほとんど当てはまらない」「全く当てはまらない」の合計は2番目に多いことに変わりはありません。
さらにニューズウィーク誌の記事でこちらの結果を年齢別にグラフ化してくれたものを見つけました(下図)。
記事の題名は「日本人の知的好奇心は20歳ですでに老いている」…
日本の20歳の知的好奇心は、スウェーデンの65歳とほぼ同じだ
2つのグラフは、まるでつながっているように見える。日本人はスウェーデン人の老後の世界を生きているかのようだ。
と、なかなか辛辣です。
でも、確かに連続しているように見えて、なるほど、と思っちゃいます…
4、まとめ(所感)
いかがでしたでしょうか?
日本人の「実用的な能力」はその教育制度によって高いことが分かるものの、一方で、本来の意味で学びの原動力となるはずの「知的好奇心」(新しいことを学ぶことが好き)では、他国に比べて低いレベルに留まる、というデータのご紹介でした。
VUCAの時代は正解がない、だから、自ら課題を見つけ、問いを設定し、問い続ける力が必要とされていると言われます。
でも、与えられた問題をいかに早く解くか、という教育に軸足があった教育制度を経てきたことで、「問題は出されれば解くけどさ、解けるけどさ、新しいことをわざわざ勉強しようなんてメンドクサイなぁ」という思考回路になっていやしないか、という問いを投げかけるデータ、だったのではないでしょうか?
ゴールデンウィークに何か新しいこと、に手を伸ばしてみてもいいかもしれないな、と思いました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
古いデータのご紹介で恐縮でしたが何か参考になるところがあれば嬉しいです。