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mofi|映画・答え合わせ

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ハリウッド映画を中心に、新旧の映画の構造や効果を「答え合わせ」します。
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#コンテンツ会議

『リプリー』:古典原作の新解釈が不気味で笑えてオススメな件

『リプリー』:古典原作の新解釈が不気味で笑えてオススメな件

『Ripley』第1-8話(2024年)★★★★。

Netflixで4月4日から配信開始されたドラマ『リプリー』がイイ。

このご時世に白黒だし、アクション性もないので一見とっつきにくいかもしれない。でも近年でも出色のサスペンス・スリラーで、噛むほどに味わい深いスルメドラマ。原作や過去の映像化作品を知る者も、そうでない人も、一見の価値あり。

原作と映像化の背景

もともとはShowtime(パ

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『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』:23年の隠れた名作アニメ

『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』:23年の隠れた名作アニメ

『Teenage Mutant Ninja Turtles: Mutant Mayhem』(2023年)★★★☆。

見る気にならなければ、見ない理由はいくらでも並べられる。が、見たら驚かされる。23年の隠れた良作。

先入観

絵作りは『スパイダーバース』の後追いや二番煎じと言う者もいるだろう。「ニンジャタートルズはいろんなシリーズ作りすぎ」と、ニコロデオンの節操のなさをなじる者もいていい。どれ

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『ロキ』シーズン2:苦戦中のMCUに輝く白星

『ロキ』シーズン2:苦戦中のMCUに輝く白星

『ロキ:シーズン2』★★★☆。

その名を言うべからざる者・カーンの登場とともに、広げきった風呂敷をくしゃくしゃに捨てて完結した『ロキ』シーズン1。

シーズン2は、そんな前6話を要所で拾い直して、第6話で回収と飛躍と昇華を実現する。言ってみれば、第6話のために作ったようなシーズンだ。逆に言うと、1話から4話あたりまではほぼ意味を成しておらず、キャラクターにもついていけず、展開にも忸怩たる思いを待

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『ホーンテッドマンション』商売っ気と茶目っ気のあいだ

『ホーンテッドマンション』商売っ気と茶目っ気のあいだ

『Disney's Haunted Mansion』★★・・。

南部プランテーション式マンションを舞台とする物語は、奴隷制抜きに語れない。建築洋式や文化のすべてが使役者とそうでない者との関係を浮き彫りにするからだ。語るとなると、どこかで重さをオフセットする必要が生じる。

そんな事情と、ディズニーランドのアトラクションらしい娯楽性を両立させること。1995年にロブ・ミンコフ監督、エディ・マーフィ

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『グリーン・ナイト』:夢と現実を彷徨う神話

『グリーン・ナイト』:夢と現実を彷徨う神話

『The Green Knight』(2022)★★★★。

詩的で奇怪で強烈。アーサー王伝説のうちの一遍を、文字面の顛末を真水で辿りながら意味を持たせていくような構成。騎士見習いで王の甥っ子、ガウェインの成長を見届ける数章仕立ての物語。

まず最初のカットから技術面が目に飛び込んでくる。じっくりと引いていく窓からの眺めを、恐れずたっぷりと見せてからのテロップが大胆。撮影、美術、衣装の印象深さがい

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『ミッション:インポッシブル デッド・レコニング パート1』走りながらの原点回帰

『ミッション:インポッシブル デッド・レコニング パート1』走りながらの原点回帰

『Mission Impossible Dead Reckogning』★★★・。

最終2作へきて、第1作のブライアン・デ・パルマ節を色濃く反映させる原点回帰。

変装マスク使用後の種明かしの演出、プロットのセットアップの長台詞、寄りで頻発する下からの煽りのフレーミング。傾きのある不安定なダッチ・アングルのコンポジションもデ・パルマを彷彿とさせる。

ヘンリー・ツェニー演じるキトリッジを物語に再

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『聖闘士星矢:The Beginning』がはじまらなかった理由

『聖闘士星矢:The Beginning』がはじまらなかった理由

『Knights of the Zodiac』★・・・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

これは…脚色と脚本に罪がある。演出も、結果的にその尾を引いている。つまりは、それらを束ねるプロデュース面の欠損が決定的。

実のところ、主要なキャスティング、CG全般、そしてアクションはそれほど見劣りしない。真剣佑は、ともすればロロノア・ゾロ役よりもサマになっているし、

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『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』アメリカの血塗られた歴史を描く3時間26分

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』アメリカの血塗られた歴史を描く3時間26分

『Killers of the Flower Moon』★★★★。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

傑作。人の罪深さを問う、実話に基づく深遠な闇を見る。

これはFBIの創設秘話であり、アメリカ白人による人種差別と迫害の記録だ。組織的犯罪の原典的なストーリーでもあり、欲と無教養と倫理感の欠如がもたらす罪の濃淡を塗り分ける地獄絵だ。

語るのは、愚者、悪人、詐

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『ザ・クリエイター/創造者』は撮影の舞台裏が真の主役

『ザ・クリエイター/創造者』は撮影の舞台裏が真の主役

『The Creator』★★・・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

作品的には長短入り混じる一本。というより、撮影の舞台裏の方が、ともすれば作品そのよりも興味深い一作かもしれない。

ハリウッド大作としては破格に安い制作費で、これだけの絵作りを実現したのは制作面の革命だ。8600万ドル(=現為替で130億円弱)は、アメリカであれば中堅のロマコメやドラマ映画

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『アソーカ』フランチャイズが患う病

『アソーカ』フランチャイズが患う病

『Asoka(シーズン1 / 全8話)』(2023)★・・・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

フランチャイズ作品には、2種類ある。

すなわち、ファンが抱く愛情の「預け入れ型」と「引き落し型」だ。前者は、単体の作品で楽しませることを通して、フランチャイズ全体への愛情をさらに深める効果がある。一方、後者は文字通り、溜め込まれた愛着を引き出して「消費」を促すに

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『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』嗜好品の重要文化財

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』嗜好品の重要文化財

『Guilermo Del Toro’s Pinocchio』(2022)★★★・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

技術的にも演出的にも高い精度に心打たれつつも、ギレルモ・デル・トロらしい、のしかかるような物語の薄暗さにはやはり項垂れる。それでも、その暗鬱とした2時間の中で輝くのは冒頭の涙ぐましいミュージカル・シーンと、ビタースイートな締めくくりだろう。独

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完成型の進化形態『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』ほか3遍

完成型の進化形態『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』ほか3遍

『The Wonderful Life of Henry Sugar』(2023) ★★★★。

「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」を皮切りに、ウェス・アンダーソンがロアルド・ダールの原作児童書を映像化。4日にわたって4本の短編が『白鳥』『ネズミ獲り男』『毒』の順にNetflixにて配信されており、視聴の順番もこの並びでいくのがトーンを鑑みるに順当だろう。「ヘンリー・シュガー〜」が39分とも

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『イニシェリン島の精霊』恐るべき究極の絶縁

『イニシェリン島の精霊』恐るべき究極の絶縁

『The Banshees of Inisherin』(2022年)★★★★。
Imdb | Wikipedia | Rotten Tomatoes

知りもしない片田舎で暮らす男2人の交友関係が絶縁したところからはじまる突然な冒頭なのに、なぜ絶縁したのか、それまでに何があって、それから何が起こるのか。両キャラクターの行動や思考が終始気になる。

走り出しの数シーンから、間もダイアローグ自体も気持

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『アーノルド』:つべこべ言わずに夢を追え

『アーノルド』:つべこべ言わずに夢を追え

『Arnold』(2023) ★★☆・。

ボディ・ビルダーであり、スター俳優であり、政治家となったオーストリア出身のアメリカ人、アーノルド・シュワルツェネッガーの人生を3部構成で辿るNetflixのドキュメンタリー。75歳を迎えた彼のこれまでのキャリアを、それぞれ「Athlete」「Actor」「American」と題して1時間ずつにまとめている。

文字通り、肉味のあるハイライトをアップビート

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