![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/118761638/rectangle_large_type_2_79b6645efe033a9a394021cf2e1945c3.jpg?width=1200)
『イニシェリン島の精霊』恐るべき究極の絶縁
『The Banshees of Inisherin』(2022年)★★★★。
Imdb | Wikipedia | Rotten Tomatoes
知りもしない片田舎で暮らす男2人の交友関係が絶縁したところからはじまる突然な冒頭なのに、なぜ絶縁したのか、それまでに何があって、それから何が起こるのか。両キャラクターの行動や思考が終始気になる。
走り出しの数シーンから、間もダイアローグ自体も気持ち良い。アイルランド訛りの地元感が都度都度差し込まれては、つい口角の上がるような、何も起きない海町の日常がよくわかる。特に、町の誰もが同類であるかのようなセリフのシークエンスが繰り返し展開する脚本の妙。「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナーらしい描き込みだ。監督の地元感がある分だけ、「スリー・ビルボード」よりも馴染んでいる印象がある。
徐々に身の危険を感じはじめるシーン運びも出色。主演陣と、コリン・ファレルの妹役を演じるケリー・コンドンが特に見物。
いる、いる。ある日を境にパタリと連絡したくなくなるような、そんな人間関係はある。そんな時は、ブレーカーを突然落とすようにして切るのが自分へのケジメになるから、ブレンダン・グリーソン演じるコルムは極端な行動に出た。付き合いを続けてきた自分に責があることも認めなければならないから。
現実には、誰もが縁切りを徹底できるわけでもない。ましてや絶妙に直線的な人間が相手だったり、住んでいる世界が極端に狭かったりすると、なし崩し的に折れる以外になくなったりもする。そんな可能性を十分に残した狭苦しいコミュニティに、興味深いキャラクターを2名突っ込んだ時にどうなるか。そんな実験的な印象をすら受ける、静かな秀作。
22年のアカデミー賞ではノミネートされた全9部門で受賞を逃したが、BAFTAでの各賞受賞は力強い評価。批評家には強い好感を示す者もいる。
(鑑賞日:2023年8月31日@機内)