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『ザ・クリエイター/創造者』は撮影の舞台裏が真の主役
『The Creator』★★・・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes
作品的には長短入り混じる一本。というより、撮影の舞台裏の方が、ともすれば作品そのよりも興味深い一作かもしれない。
ハリウッド大作としては破格に安い制作費で、これだけの絵作りを実現したのは制作面の革命だ。8600万ドル(=現為替で130億円弱)は、アメリカであれば中堅のロマコメやドラマ映画にかける金額に毛が生えたような金額だからだ。この規模のSF大作なら、倍はあてがうのが通例。
ポイントは、経済的かつシネマティックな撮影の両立。一般向けの機材を使ったり、1種類のレンズを使い倒したり、タイや日本を含む80ヶ所以上でロケ撮影をしたり、CG作業を簡略化したり。工数を減らしつつ、制作費を大幅に抑えるワークフローは業界インパクト大だ。
実際、デザイン面でもワールドビルディング=世界観構築に圧倒される。超高空爆撃機の視覚効果や効果音ひとつにはじまり、都市、車両、航空機、船舶、その他のすべてが架空の世界を多様に彩る。ロケーション撮影にこだわったこともあって、数も膨大。「セットをひとつひとつ組むよりも、安い航空券を買って世界中の景色を少人数で撮影してきた方が割りが良い」と言う監督の考えに、なるほど、と頷くしかない。このスケールでSFロードムービーを作れることが、何よりも驚異的だ。
詳細は以下を参照。いずれも英語だが、Digital Cinema Reportの記事は特に参考になる。:
さて。物語は玉石混淆。冒頭はスムーズでインパクトがある。プレミスも飲み込みやすい。サスペンスもシーンごとに見れば十分だし、設定を活かしたアクションが、全編、常に目を楽しませる。
一方、2幕目以降の展開には難がある。主人公の感情面とプロット上の展開が十分に噛み合わないため、AI少女に対する主人公の言動にも反感を覚える。シーンの噛み合わせが悪い箇所もあり、幕間で何かを見逃した気分になる。旧友を訪問することにするくだりや、その彼の恋人との関係や行動原理、その後の展開などがその一例。
主人公を囲むキャラクターたちは魅力的だが、少し平坦でもある。妻のマヤ、連れ添う少女ロボット、途中で合流する旧友、追跡役の隊長(アリソン・ジャネイが好演)なども差はあれど、キャラクター基点でなくプロットありきで行動しているシーンが目立つ。
終盤を迎えると時系列に複雑さが増す分、疑問が増える。爆撃機の破壊は戦争の終結と同義なのか?AI少女に力を宿すことに、実際どんな実益があるのか?大問題として、脳をチップにスキャンできる技術の方が、人型EMP兵器を作るよりもよほど世界をひっくり返せるように思える。AIとの戦争に意味はなく「人間の敵は人間」なのだとすれば、それはもっともなのだけれど。アクションのスペクタクルが物語の中軸と噛み合っているかどうかは疑問だ。
とはいえ。驚異的なヴィジュアルに浸れれば十分に価値ある観賞だ。値札や制作の哲学や方針を知ると、作り手への尊敬の念も強まる。
余談だが作中、不思議にも題字やクレジットを含むデザインに日本語が至るところに配されている。日本語も大概、間違っている。特に、あの歌舞伎の「勘亭流」のようなフォントを使用しているのには首を傾げるのだが…それも古典作品たちへのオマージュのひとつだと思っておけば良いのだろう。
そう言う意味ではむしろ、80年代SF作品たちへの愛とオマージュに溢れた「インディ的ゲリラ撮影スタイルを大作映画に持ち込んだ実験映画」だと言った方が的確なのかもしれない。短所はあれど、実験はきっと成功だ。
(鑑賞日:2023年10月19日@Regal Cinemas Irvine Spectrum)