マガジンのカバー画像

短編小説

14
運営しているクリエイター

記事一覧

短編小説/ドナドナDO

短編小説/ドナドナDO

「返せんなら風呂沈めたるからな」

 借金の保証人をしてあげた彼氏が行方不明になり
 怖い人たちが家に押し掛けてきて言った。

 「風呂に沈める」は風俗に売るという意味らしい。
 膨れ上がった借金は1000万円。
 一介のOLが返せる額ではなかった。
 お金持ちの知り合いもおらず
 実家にも迷惑を掛けたくないので
 私は黙って彼らに従うことにした。

 紹介されたのはいわゆる石鹸の国。
 当然抵抗

もっとみる
短編小説/フードコート

短編小説/フードコート

日曜日のショッピングモールは人だらけ。
螺旋状の真っ白な館内には200店舗以上が連なっている。
ほとんどが若者向けの雑貨屋かアパレルショップ。
綺麗な女性店員がこぞってタイムセールの呼び込みをしていた。

本当は中を覗きたい。
そろそろ秋冬物も揃ってきてるし。
あっあのワインカラーのカーディガン可愛い。

「ねえお腹空いたあ」

そちらに顔を付き出していた時に聞こえた。
五歳になる娘の花乃がショッ

もっとみる
秋ピリカグランプリ応募作/短編小説/「紙」

秋ピリカグランプリ応募作/短編小説/「紙」

小学生を中心に「紙」という都市伝説が話題になっていた。
妖怪。幽霊。宇宙人。はたまた人間か。
その正体は分からないが特性は詳細に知られていた。

「紙」が現れるのは夜7時から深夜12時の人通りのない道。
気配はなく背後から声を掛けてくる。
ぼっちゃん。ぼっちゃん。とゆっくりした口調で二度。
降り向くと「紙」が立っている。大きさはおよそ2メートル。
鍔の広い黒い帽子を被っており
笑ってる口元だけが見

もっとみる
短編小説/Sweet Quiet Forest

短編小説/Sweet Quiet Forest

心臓をテーマにした短編集です。

①【プレゼント】

「パパ、届いたわよ。私の欲しかったもの」
 
 大きな箱を抱えたアネットは早速リボンをほどいた。

「ほう。例のあれかい?」

「そうよ。ネットにあった『黒いサンタクロース』にお願いしたの。
 ふーん。悪いことする奴でも形はみんな同じなのね。ほら見てパパ。
 去年学校の帰りに車に私を押し込めて服を脱がそうとした男の心臓よ」

 赤い塊を持ち上げ

もっとみる
短編小説/駆け込み乗車はお止め下さい

短編小説/駆け込み乗車はお止め下さい

こちらは恋をテーマにした企画の規格外作品です。
知った当日が締切日だったのと
規定の文字数を大幅に越えてしまったので出せませんでした。
けど書きたくなって書いてしまいました。
お断りなくお題をお借りして申し訳ございません🙏🙏🙏

①【駆け込み乗車はお止め下さい】

 私が走ってるのは遅刻しそうだからではない。7時47分発の電車に乗ればあの人に会えるからだ。
 階段を上がって二つ目の柱。6号車

もっとみる
短編小説/マイネームイズ 宇宙くん

短編小説/マイネームイズ 宇宙くん

 宇宙くんが転校してきて二ヶ月が経った。どうやら学校に馴染んできているようだ。見たことのない六角形のランドセルは体の小さい宇宙くんには大きすぎて、後ろからだとでっかい亀が歩いてるみたいだった。同じ四年生や
五、六年生にからかわれても、宇宙くんはメソメソしたり、先生に言いつけたりしない。

「ノー、プログレム。君は友達だ」

 謎の言葉だけを言い返す。「コイツ何言ってんの?」とはじめはみんな笑う。ケ

もっとみる
夏なので短編怪談/あけない

夏なので短編怪談/あけない

 日曜日の夜だから早く寝るつもりだったのに、また一時を過ぎてしまった。明日から一週間が始まる。仕事もあるし、早く床に就こうと思っていたはずが、スマホを手にすると、面白そうな記事や動画につい目が止まってしまい、気が付けば深夜を回っていた。
 とうとうスマホの充電も残り3%と表示された。さっきから電池マークが赤くなってるのに気付いてたけれど、寝る前に充電するしとギリギリまでいじっていたが、もう終わりに

もっとみる
電車の中/あるエピソードとそこから生まれた物語

電車の中/あるエピソードとそこから生まれた物語

 今でもずっと羨ましいエピソードがある。
 十年以上前だが、新聞で読んだ読者からのエッセイを掲載する投稿で、と 
 ても印象深く残っているものがある。
 あるご婦人がご主人とのエピソードを綴ったお話なのだが、こんなことあ
 るんだと笑ってしまうと同時に、人間的で「なんだかいいなあ」と思わず
 呟いてしまいました。全文は記憶していませんが、大まかに説明するとこ
 んなお話です。
 ご夫婦の姪っ子さん

もっとみる
短編小説/昼下がりの男たち 

短編小説/昼下がりの男たち 

 
 6月の土曜日の昼前のことだった。
 妻が突然「お腹が痛い」と訴え、ダイニングテーブルに掴まりながらしゃがみこみ、唸り声を漏らすと、しまいに蹲ってしまった。救急車は近所に迷惑掛けるから嫌だと言うので、僕の車で一番近い総合病院に連れていった。
 痛みが強いので救急で診てもらった。血液検査のあとにCTも撮ったりと、検査結果が分かるまで3時間以上掛かった。痛みの原因は胆管に石が詰まっていた胆嚢炎だっ

もっとみる
短編小説/カジイさん

短編小説/カジイさん

「あのね、今日からしばらく知り合いの人が一緒に住むことになったから。カジイさんっていうの。いい人だから祐介も仲良くしてね」
 
 学童に迎えに来たママが車の中で言った。初めて聞く名前だった。
「誰それ」
「お友達よ。男の人」

 運転する横顔が綻ぶ。僕はママの機嫌のバロメーターを計るプロだから、今日はかなりいいとすぐ分かる。ただのお迎えなのに花柄のワンピースなんか着ているのがその証拠だ。
 家に帰

もっとみる
短編小説/王冠

短編小説/王冠

ここは風見鶏王国。王様の風見鶏は今日も国民を集めて演説していました。
みな眩しそうに王様を見上げています。
王様はおしゃべりが大好き。聞き惚れてる群衆を前に舌が回ります。
この国が他と比べてどんなにいい国なのかとさんざん言い聞かせたあとは
王様が作ったお話もしてくれます。
いつも拍手喝采。みんなも王様も満足して集会が終わりました。
すると「やあ王様」と一羽のカモメが屋根に止まりました。
黄色い嘴に

もっとみる
短編小説/目撃者

短編小説/目撃者

 木野和也は恋人の理央と先月開店したばかりの大型ディスカウントストアに来ていた。全部を見て回ったら、おそらく一日がかりになるだろう広い店内は、食料品から日用品、寝具や家電まで何でも揃っていて、おまけに安い。婚約中で、新しい物件を探していた二人にとって、生活必需品が一ヶ所で手に入るこの店はこの上なく魅力的だった。
「近くにこんな所があったら便利だわ。何でもあるし、夜の九時まで営業してるから、仕事終わ

もっとみる
短編小説/昆虫学級

短編小説/昆虫学級

 さわやかな朝。6年4組の教室は今日も賑やか。生徒の昆虫たちはお喋りに夢中です。
 羽をぱたぱた動かしたり、お尻をぷいぷい振ったり、触覚をくるくる巻いたりしながら、楽しそうにお友達と遊んでいます。
 
クワガタの男の子たちは自慢のクワを使ってプロレスごっこ。体の小さいクワ町君が、大将のクワ山君に「どりゃー」と持ち上げられて投げられています。周りはみんな大盛り上がり。クワ町君は仰向けに倒れて足をバタ

もっとみる
短編小説/初夏

短編小説/初夏

「カッツン」
 声を掛けると、カッツンはギターを爪弾く手を止めて、のそりとこちらを振り向いた。
「いいのかよ。出棺しちゃったぜ。今から急げばまだ親父さんと最後の対面できるぞ」
 しかしカッツンは顔を元に戻すと「いいんだよ」と、またギターを鳴らした。カーキ色のジャケットを羽織る角張った背中。
 村外れの高台にある岩山はカッツンのお気に入りスポット。昔もよくここでギターを弾いていた。以前はもう少し草に

もっとみる