わたりどり通信

形式にこだわらずなんでも書きます。 猫とジェンツーペンギンをこよなく愛す。 南極に住みたい。創作する全ての人に敬意を。

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最近の記事

短編小説/噛まれても好きな人

「いたっ!」    里緒はビクッと肩を強張らせた。 「あ ごめん」  彼女に重なっていた巧也は慌てて里緒の首筋から口唇を離した。 「もう。噛まないでって言ってるじゃない。どうしていつも噛むのよ。  こんな所に跡が付いたら目立って困るのよ」    里緒は巧也が今しがた歯を立てた鎖骨の少し上を隠すように手で擦った。  「…ごめん。興奮するとなんだか噛みたくなるんだよ。  自分でもどうしてか分からないけど…。ごめんな。痛かった?」    巧也はすまなそうに眉を下げた。そのちょっ

    • シロクマ文芸部/コードネームはミスティ

      『霧の朝 ボストンへ  12歳ビアンカ・ブライトを永遠の夢の世界へ』  コードネーム : ミスティ氏の所に仕事が来た。  今回のターゲットは12歳の少女。  送られてきたメールにはある記事も添付されていた。  四ヶ月前ミシガン州に住むブライト家で家族三人が射殺。  幸い末っ子のビアンカは命を取り留めた。  組織化された連続殺人強盗の犯人は現在も逃走中。  ボストン空港に降り立ったミスティ氏は  メールの主からあらかじめ指定されたタクシーに乗った。  運転手はすいと封筒を

      • シロクマ文芸部/本日も積もるなり

        紅葉から怒りを抱くのはおそらく私だけだろう。 私は秋が嫌いだ。いや。嫌いではなくうんざりするが正しい。 あの暑すぎる夏が過ぎ去って涼しくなるのはもちろん嬉しいしほっとする。 だが紅葉が進むに伴って私の憤懣はふつふつと積み上がる。 そう。ちょうど今足元を覆い尽くす落ち葉のように。 この汚ならしくとっ散らかった枯れ葉を前に怒りが溜まってくるのだ。 家の駐車場は秋になると落ち葉の巣窟になる。 三台分のスペースのある駐車場なので広い分余計に集まってくる。 ゴロゴロしてばかりのアホの

        • 何も生まれなかった瞬間に何かが生まれる

           公募に応募して落ちまくると落選に慣れてくる。  もちろんがっかりするし溜め息も止まんない。  本屋で結果を見て名前がないと  行き場のないうさうさした負の気持ちをなんとか発散するために  欲しい本もないのに本屋を一時間以上もうろついては  疲れでもってエネルギーを消費して落胆を軽減させたりする。  本格的に小説を書き出したのは四年前。  ネットの短編の公募から地方文学、大手出版社の新人賞に至るまで  多分60回以上は出していて書いた作品数は100をゆうに越えている。  

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        • 書いてみりゃわかるさ
          6本
        • 6本
        • 短編小説
          20本
        • 20字小説
          5本
        • 恋愛小説
          6本
        • いいかげんで偽りのない僕のすべて
          0本

        記事

          プーカプーカ

             女王様が寝入ると 太鼓持ちも休むから 静かだね

          シロクマ文芸部/初恋

          『秋と本』というタイトルの本が非常階段の脇のベンチに置き忘れていた。  こんな場所に忘れ物なんて珍しい。滅多に人が来る場所ではないのに。  未波はその本を手に取った。コーデュロイのような手触りの深紅の表紙。  『秋と本  ジェフ・ベケット』  筆者の名前も初めて聞く。有名なのかもしれないが知らない。  そもそもそれほど読書家ではない。  17歳の未波は小説より漫画が好き。  入院生活が長いので時々図書室で本を借りたりするが  文学というより中高生向けの少女小説が主だった。  

          シロクマ文芸部/初恋

          シロクマ文芸部/文豪

           爽やかな秋空だってのに私の胸は淀んだブルーだった。  気の重い仕事を任されたからだ。  担当を言い渡された日からずっと憂鬱である。 「清野、お前来週から諏訪に行ってこい」    先週の金曜日突然編集長から命じられた。  いきなりのことに戸惑い「はい?」と変な声が出た。 「諏訪って長野県の諏訪ですか?取材か何かですか?」 「城戸崎先生の原稿が遅れてるんだよ。  あの人小説書く時は物語の舞台になる場所で執筆するのは知ってるだろ?  それで今は諏訪にある旅館に泊まり込んでる

          シロクマ文芸部/文豪

          短編小説/ドナドナDO

          「返せんなら風呂沈めたるからな」  借金の保証人をしてあげた彼氏が行方不明になり  怖い人たちが家に押し掛けてきて言った。  「風呂に沈める」は風俗に売るという意味らしい。  膨れ上がった借金は1000万円。  一介のOLが返せる額ではなかった。  お金持ちの知り合いもおらず  実家にも迷惑を掛けたくないので  私は黙って彼らに従うことにした。  紹介されたのはいわゆる石鹸の国。  当然抵抗はあったが  店長や先輩嬢は案外丁寧に優しく仕事を教えてくれた。  もうやるしか

          短編小説/ドナドナDO

          シロクマ文芸部/My Little Lover

           木の実と葉が敷き詰められた木々の間を僕らは歩いていた。   「すうと初めて出会ったのもこの森だったね」  恋人のすうは「そうね」と頷いた。とても可愛らしい声で。  踏みしめる枯れ葉がしゃりしゃり鳴る。  森の道は一面落ち葉のじゅうたん。黄色と赤のモザイク模様。  あちこちに転がってる木の実やどんぐり。  暑すぎた夏がやっと去って散歩にちょうどいい深秋の午後。  僕らの服装も落ち着いたテイスト。旬の味覚と同じ色合い。    澄んだ空気に揺らめく柔らかい日射し。優しい葉枝のさ

          シロクマ文芸部/My Little Lover

          短編小説/もえる日

             学校に行こうとスニーカーを履いて外に出たと同時に緊急メールが来た。手に持っていたスマホを見た僕は「うえ?」と声が出て立ち止まった。 『緊急連絡メール:朝7時頃学校宛に爆破予告がありました。  警察消防による安全確認作業を取るため、本日は休校に致します。  生徒の皆さんは自宅待機し、決して学校に近付かないようにして下さい』  直後に友人やクラスメイトが一斉にネットで騒ぎだした。いつもなら嫌々 学校に来てる連中こそが『見に行こうぜ』と張りきっていた。  玄関先でスマホを

          短編小説/もえる日

          短編小説/フードコート

          日曜日のショッピングモールは人だらけ。 螺旋状の真っ白な館内には200店舗以上が連なっている。 ほとんどが若者向けの雑貨屋かアパレルショップ。 綺麗な女性店員がこぞってタイムセールの呼び込みをしていた。 本当は中を覗きたい。 そろそろ秋冬物も揃ってきてるし。 あっあのワインカラーのカーディガン可愛い。 「ねえお腹空いたあ」 そちらに顔を付き出していた時に聞こえた。 五歳になる娘の花乃がショップの少し前でとつんと止まり 繋いでる手をぎゅっぎゅっと握ったり開いたりした。 む

          短編小説/フードコート

          ペンペンペンペンペンペンペン

          昨日は東京駅構内にあるグランスタ東京と 上野駅内にあるエキュート上野の「pensta 」に行ってまいりました。 目的はJR 東日本の交通系ICカードsuica のキャラクターの ペンギングッズを買うためです。 さかざきちはるさんデザインの可愛いペンギンちゃん。 グランスタ東京では期間限定のスイーツやグッズを販売しており 10月14日が最終日だったので行ってきたのですが 三連休ラストの東京駅はものすごい混雑。 おまけにひとつの街ほど広いためほうほうのていで歩き回りました。 方

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          秋ピリカグランプリ応募作/短編小説/「紙」

          小学生を中心に「紙」という都市伝説が話題になっていた。 妖怪。幽霊。宇宙人。はたまた人間か。 その正体は分からないが特性は詳細に知られていた。 「紙」が現れるのは夜7時から深夜12時の人通りのない道。 気配はなく背後から声を掛けてくる。 ぼっちゃん。ぼっちゃん。とゆっくりした口調で二度。 降り向くと「紙」が立っている。大きさはおよそ2メートル。 鍔の広い黒い帽子を被っており 笑ってる口元だけが見える。 そしておもむろに「紙」を差し出してくる。 無地なら回避。しかし言葉が記さ

          秋ピリカグランプリ応募作/短編小説/「紙」

          短編小説/天井にお月様

          子供の頃から暗い部屋が嫌いで寝る時も豆電を点けていた。 実家の私の部屋の照明は半透明のカバーが嵌まった四角形。 豆電にすると丸いぼうっとした山吹色の明かりが灯って まるでお月様みたいだった。 それを見上げてると安心する。 眠れない時は自作のお話を作ったり週刊漫画の続きを考えたりして 毛布にくるまりながら睡魔がやってくるまで過ごす。 いつしか目の前がぼやけてくる。 瞼のカーテンがゆっくり閉じる間際に見えるのは滲むお月様。 おやすみって言ってるみたいにそっと消えてゆく。 そうして

          短編小説/天井にお月様

          短編小説/君のおっぱいが見たい・推し活編④

          2300枚のDVDは入金の5日後にアパートに届いた。 段ボール13箱。六畳一間の部屋は急激に狭くなった。 国崎は同封されている応募シールを毎日ケースから抜いて集めた。 現時点で2466枚。3000枚まであと534枚。 キャンペーン終了まであと一週間。しかしもうどこにも売ってない。 増産しないのかと事務所に尋ねた。 「君、ほんとに買うの?」 冷やかしめいた声がマジのトーンにグラデーションした。 はい。国崎はもっとマジに答えた。 「キャンペーン本気でやるつもりなんだね?」

          短編小説/君のおっぱいが見たい・推し活編④

          普通の日

           今日は仕事のあとに長年親しくしてる人とご飯を食べに行った 「また落選しちゃったよ」と報告 「あれはつまんなかったから仕方ないよ」とひでえ返事  まあ落ちたってことはそういうことだからしょうがない  でもそのあと「まだそんなもんじゃないよね」と言うので  眠れる才能のことかと思いきや 「本当はもっと変人なんだから  まともっぽっくまとめようとしないで  ひんまがったものそのまま書いたら」だってよ  ははっ 笑っちまったぜ  直球ズバンとミットにいい音したな  つまんな