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ショートショート

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ショートショート(200〜4,000字)をまとめてます。 恋愛ものからシリアスなものまで。 チラ見感覚でどうぞいらっしゃいませ☺︎
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#短編小説

ショートショート:僕と彼女と軽トラック

ショートショート:僕と彼女と軽トラック

大学1年の秋。
遂に手に入れた運転免許証。
遂にと言うのは別に何度も試験に落ちたからと言うわけではない。
僕の住む地域は、福岡の中でも群を抜いた田舎なのだ。
一軒家なのは嬉しい。
ただ、スーパーはおろかコンビニさえない。
あるのは海、山、田んぼ、そのくらいだ。
最寄駅だって、歩いて行こうものなら徒歩で2時間はかかる。
自転車でも30分だ。
そんなパスポートが必要なのかと思うほどの秘境に住む僕にとっ

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ショートショート:残り香

ショートショート:残り香

冬。
30歳になった私は、休日に夫と衣替えをしていた。
着れるものは取っておく、着れないものは燃えるゴミ袋に放り込む。
そんな作業を繰り返してそろそろ2時間が経っただろうか。
「ふぅ、それにしてもすごい数の服だな」
「ごめんね、ほとんど私の服なのに手伝ってもらちゃって」
「いいんだよ。どうせ休みなんだし。はい、これ最後の段ボールね」
うんと言って受け取った段ボールには、どこか懐かしさを感じた。

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ショートショート:ただ愛が欲しかった

ショートショート:ただ愛が欲しかった

本作品では一部グロテスクな描写がございます。

「では、次のニュースです。福岡県福岡市の中学校で、今月7日、中学3年生の女子生徒が包丁で刺されて死亡し、1つ下の学年の女子生徒とが殺人の容疑で送検されました。逮捕された女子生徒は『私よりハートをもらっている事が憎かった』などと供述していおり、調べによると、女子生徒はハート依存症の可能性が極めて高いとの事です」

朝、いつものようにスマホをいじりながら

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ショートショート:主人公

ショートショート:主人公

キーンコーンカーンコーン

4限目終了の鐘が鳴り、同時にクラスの至る所で腹減ったと声が聞こえる。
昼休み、母が作ってくれた色とりどりの弁当を広げ、好きなものは後に取っておく派の僕は苦手なプチトマトから手をつけた。
すると、友人の山本がガタガタと音を鳴らして僕の机の正面に椅子を置いた。
「よっ、一緒に飯食おうぜ」
「いいけど」
そっけなく答える僕に冷たいな〜と笑い流す山本。

山本とは高校2年になっ

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ショートショート:相棒との夢

ショートショート:相棒との夢

コンコンコン
「はーい!」
301号室のドアを叩くと、いつも元気のいい返事が返ってくる
「よう、生きてるか?」
「おう、絶好調だぜ」
海斗は白い歯を見せて笑った。
さらさらした春の小川の様な心地良い風が病室のカーテンを優しく揺らし、その隙間から差し込んだ光が海斗の顔を明るく照らす。
「包帯ぐるぐる巻きで何言ってんだか」
僕は荷物を机に置き、鞄から紙を取り出した。
「はいこれ、今日の授業のコピー」

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ショートショート:3人の賢者

ショートショート:3人の賢者

「これでよし!」
クリスマスまで残り1週間を切った。
やっと欲しい物が決まった僕は、サンタさんへ手紙を書いた。

ルンルン気分で玄関に手紙を置くと、同時に父ちゃんが帰ってきた。
「ただいまーっと」
「おかえり父ちゃん!」
「お、なんだこれ?」
「サンタさんへのお手紙だよ!」
「スーパーファミコンとマリオのカセットか。これはちょっと欲張りすぎじゃねぇか?」
「そんな事ないよ!僕、今年いい子にしてたも

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ショートショート:やわらかい釘

ショートショート:やわらかい釘

「ただいまー!」
マンションのドアを開けた僕は無駄に元気よくそう叫んだが、その声は1K7畳の狭い部屋に虚しく吸収されただけだった。
北山慎二、27歳。仕事有りの彼女無し。
真っ暗な部屋からは、当然誰の返事も返ってこない。
田舎から上京して早5年。
恋人どころか友人の1人さえいない。
だが寂しいとは思わない。
元々人付き合いが得意でない僕は、むしろ1人でいる時間の方が好きだった。
しかし、取引先で初

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ショートショート:最初で最後のお願い

ショートショート:最初で最後のお願い

とある日曜日。
僕は今、駅前の柱に寄りかかって人を待っている。
今日は同じ陸上部で1つ年上の先輩とデートをする約束をしているのだ。
既に約束の8時を20分過ぎているが、一向に連絡はつかない。
暇を持て余した僕は、しばらく人間観察でもしながら待つことにした。
スーツ姿のサラリーマンに、部活姿の中高生、酎ハイを片手にベンチでくつろぐ中年の男。
周りを見渡すと色んな種類の人間がいる。
と言っても世間はも

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ショートショート:ブラックタキシード

ショートショート:ブラックタキシード

人間の価値観は、育った環境によって大きく変わる。
逆を言えば、環境が変われば人間の価値観は簡単に変わる。
しかし、人間は自分の慣れ親しんだ環境を簡単に変えようとはしない。
何故なら、そこには拒否感、躊躇、畏怖と言った様々な感情がストッパーとなるからだ。
一方で、そのストッパーを壊し、自分の知らない世界に身を投じる事で、どう変化が起きるのかという興味も併せ持っている。
これは人間の真理である。

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ショートショート:完璧な彼女

ショートショート:完璧な彼女

「今日の天気は、曇りのち雨でしょう。」
きた。
遂に来た。
待ちに待ったこの日がやっと。
今日は傘を持参しない。
目的は勿論、彼女との、あれだ。

彼女と付き合うことになったきっかけは、放課後の居残り勉強だった。
2学期の中間テスト。
生徒の学力向上と称し、クラス対抗で平均点を競う企画が催された。
1位にはご褒美を用意しますと言うもんだから、皆やる気になっていた。
一方で僕は青ざめていた。
なんと

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ショートショート:未来視

ショートショート:未来視

瞼が重い。
体も重い。
それでも必ず行かねばならない。
会社というのはそういう場所だ。

「おはようございます」
挨拶をすると、代わりに部長の怒声が飛んできた。
「おい山田!今月のノルマ、クリア出来てないのお前だけだぞ!」
「すみません」
「謝りゃいいって話じゃないんだよ!5年も営業やってて何やってんだ。お前の代わりなんていくらでもいるんだからな!」
食品メーカーに勤める僕は、小売店へ行き、うちの

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ショートショート:命の連鎖

ショートショート:命の連鎖

雨の中、未亡人が墓場で泣いている。
どうか夫を返してくれと。
ひたすら泣き続ける未亡人。
女の頬を伝うものは、雨か涙か分からない。
ふと、止む雨。
振り返ると、そこには黒い傘を差し出した黒尽くめの男が1人。
「なぜ、泣いているんだ」
「夫が…」
それ以上は声が出ない。
「お前の命と引き換えに、一つ願いを叶えてやろう」と黒尽くめ。
女は命を差し出した。
こうして、夫は再びこの世に生を享けた。
そして

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