ショートショート:主人公
キーンコーンカーンコーン
4限目終了の鐘が鳴り、同時にクラスの至る所で腹減ったと声が聞こえる。
昼休み、母が作ってくれた色とりどりの弁当を広げ、好きなものは後に取っておく派の僕は苦手なプチトマトから手をつけた。
すると、友人の山本がガタガタと音を鳴らして僕の机の正面に椅子を置いた。
「よっ、一緒に飯食おうぜ」
「いいけど」
そっけなく答える僕に冷たいな〜と笑い流す山本。
山本とは高校2年になって初めて出会った。
正確には、1年の頃から顔は知っていたが、話したのは初めてだったという事だ。
そんな山本は体に悪そうな菓子パンにかぶりつきながらブツブツとぼやいている。
「いいよなーあいつ。頭が良くて運動もできて顔まで超絶イケメンって、神様も不公平だよな」
山本の目線の先には女子に囲まれた1人の男子生徒、椎名がいた。
「急にどうしたんだ?」
「単純に羨ましいじゃん?ザ・主人公!みたいな感じで」
「別に」
「格好つけんなよ。俺もあいつみたいになりたかったわ〜」
「お前も一緒だろ?」
「は?俺なんていいとこ村人Bだわ」
「じゃあお前の人生は誰が主人公なんだよ」
「そういう事じゃないんだって。俺の人生は俺が主人公だけど、もっとこう、周りにもチヤホヤされたい人生だったって事だよ」
友人が言うことも分からなくはない、と言うよりすごく良く分かった。
お前の人生は誰が主人公なんだ、と格好つけて言ってはみたものの、そんな聞き飽きたセリフで僕らの承認欲求が埋まるわけではない。
自分という狭い世界の中だけではなく、その外。
多くの人からの人気を集めてみたいと大抵の人間なら思った事があるはずだ。
しかし、平々凡々の僕にそれは不可能だ。
それは自分が理解してしまっているからである。
自分がこの教室でスポットライトを浴びる側ではなく、当てる側だということを。
教室でスポットライトが当たらない人間は、学年全体でも当たらないし、学校全体でも当たることはない。
仮に何かで賞を取り全校集会で表彰されたとしても、そこでは興味関心のない乾いた拍手が飛んできてより惨めな思いをするだけ。
スポットライトを当てられる事は、僕らには許されないのだ。
椎名を見ながらそんな事を考えていると、弁当が半分も食べ終わっていない事に気づいた。
僕が忙しく箸を動かしていると、先に菓子パンを食べ終えた山本が何やら一冊の教材を取り出して開いた。
「何だそれ?」
「は?見りゃわかんだろ、英単語帳だよ」
「それは分かる。でも勉強嫌いのお前が急に昼休みにまで勉強しようなんて、どういう風の吹き回しだよ」
「いやな、さっきはぼやいたけど椎名を見て思ったんだよ。運動と顔面は置いといて、とりあえず頭が良くなれば少しでも主人公っぽくなれるんじゃねえかって。だから俺はまず勉強から始める事にした!」
この時、僕は山本が主人公に見えた。