ショートショート:完璧な彼女
「今日の天気は、曇りのち雨でしょう。」
きた。
遂に来た。
待ちに待ったこの日がやっと。
今日は傘を持参しない。
目的は勿論、彼女との、あれだ。
彼女と付き合うことになったきっかけは、放課後の居残り勉強だった。
2学期の中間テスト。
生徒の学力向上と称し、クラス対抗で平均点を競う企画が催された。
1位にはご褒美を用意しますと言うもんだから、皆やる気になっていた。
一方で僕は青ざめていた。
なんと言っても僕は学年最下位の常連だ。
絶対足を引っ張るなよと、クラスメイトの何人からもプレッシャーをかけられた。
そんな時、勉強を教えてあげると声をかけてくれたのが今の彼女だ。
彼女の成績は学年トップ。
どんな問題でも完璧に答えるもんだから、頭の中に四次元ポケットでも入っているんじゃないかと囁かれ、いつしか彼女はドラえもんと呼ばれていた。
そんな彼女は中間テスト前の1週間、付きっきりで僕に勉強を教えてくれた。
その結果、クラスは1位に輝いた。
僕も学年順位がぐっと上がり、「やったね」と彼女は微笑んでくれた。
忘れっぽくて勉強も出来ない僕とは対照に、何でも簡単にこなしてしまう彼女。
僕はいつしかそんな姿に惹かれ、告白を決心し、そして見事成功を収めたという訳だ。
しかし、付き合ってまだ1ヶ月。
16年間生きてきて初めての恋人。
未だに手も握れていない。
恋愛初心者の僕にとって、「手を握る」というステップは、テストで満点をとるより難しく思えた。
そう、だから理由が欲しかった。
恋人らしい事をするための理由が。
———ザァー
昼食後、黒い雲が空を覆い、大粒の雨を降らせ始めた。
心の中でガッツポーズを決める僕。
そうして雨は勢いを弱めることなく、その後も延々と降り続いた。
来たる放課後。
下駄箱の前で胸を躍らせながら、彼女が来るのを待っていた。
用意周到な彼女なら、必ず傘を持ってきているだろうと信じて。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「大丈夫、僕も今来たところだから」
「よかった。それにしても、雨凄いね」
「本当だよ。なのに僕、傘忘れちゃってさ」
「だろうと思った。でも大丈夫だよ」
(キタ!)
「もう1本あるから」