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感情のドローイング

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感情を詰め込んだ魔法瓶。いつか自分の武器を持つために。
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その一言が、私たちから奪っていくものについて。

「あんたんとこは、大変やね」
叔母がつぶやいたその一言に、曖昧に笑って、「まあ」と相槌を打った。
お茶の誘いを受けたことを心底後悔しながら、胸の内で暴れる自分を慰める。

彼女は知らないのだ。悪意のない可哀そうが、私たちから何を奪うのかなんて。

  ○

「数学の先生が言ってましたよ、病気で大変なのにテストで90点以上取るなんて、素晴らしいって」
中学一年生の個人面談、担任がそう誇らしげに母に話

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帆を張り、風を受け、海へ。

帆を張り、風を受け、海へ。

高校一年生の夏、私はニュージーランドにいた。
二週間の短期留学で訪れたタウランガという海辺の町は、空が高くて、海が広い港町だった。

日本は夏、南半球は冬。
あの海を、今でも覚えている。
広くて、冬の太陽をうけてきらきらと水面がゆらいでいた。風の強い日は波が高くて、ざあざあと音を立てていた。

海のない県で生まれ育った私にとって、海とはタウランガの海のこと。
知らない土地の、知らない言葉の、知らな

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萌芽の帰り道。

萌芽の帰り道。

こだまが駅を出発する。景色も過去もすべてを振り切るように、速度を上げる。

夕日を浴びる富士の麓に目を凝らす。一時間前に検査を受けていたがんセンターが見えた。
初めて三島駅へと降り立ったのは、もう十年も前。富士の稜線が新鮮に映ったのは、最初の数年だけ。長い長い通院生活で、三島の町も、駅のお土産物も、富士に掛かる雲の形さえ、見飽きてしまった。

この町にもう訪れる必要がないのかと思うと、奇妙な気分だ

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思い出のかげぼうし。

思い出のかげぼうし。

ひさしぶりに散歩に出かけた。
買い出しやら通院やらで外出自体は頻繁にしていたが、ひとりで意味もなく歩くということは、随分と久しぶりに感じる。

ちかくの神社まで、十分もかからない短い短い散歩道。
夕方の町は少しだけにぎやかで、帰宅する中学生の自転車とすれ違うたび、なにかを忘れているような気持ちになる。
なにを忘れているのかはわからなくて、きっと思い出というものの影だけを無意識に心が追いかけているの

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なぜ今日も、情けなく息をしているのだろう。

人生で「死にたい」と言った回数がわからない。「死のう」と言った回数も。

ただわかるのは、私は生まれてこなかった方が良くて、私が生きているから家族に問題が起きた過去が、事実だと言うことだ。
それでもなお、情けなくも死を選択することができずにいる。自己責任論は強固で、私たちは望まず産み落とされ、望まずこの身体に入っているのに、ただあるがままにあるだけで、生きる事を選択し続けている。

何故死ねないの

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恋しい宇宙船。

恋しい宇宙船。

なんだかひどく疲れて、だけれども落ち着かない。
なにかに集中することができないけれど、なにもせずぼんやりとも出来ずに、意味もなく自室とリビングを往復してみる。
こういうときこそ散歩なのだが、空は重く、いつその上空で結実して、地を叩くか分からない。
なにより、やっぱりひどく疲れている気がする。

こういうとき、自分に何が足りないのかを、私は知っている。
それはつまり、物語だ。

  〇

何故だか調

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母は三歳児だから、空を竜が泳いでいる。

母は三歳児だから、空を竜が泳いでいる。

「私三歳児だから、いやいや期だから」
朝、リビングの机で母がそう言う。
今日は調子が悪いらしい。いつも悪いけれど。
「今日は調子が悪いので、なにもしません」
視線を机に落としてそう続ける母は、確かにどこか子供っぽい。
今日は、というか、今日も、では。率直な感想を述べればまた落ち込むことは目に見えているので「わかった」と一言だけ返して、カフェオレを啜った。

私の母は双極性障害だ。
この一年間、ほと

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人は羽ばたけない。

名鉄本線の車窓からは、白い鳥が見える。
その鳥が数回羽ばたいたら、電車は地下へと潜る。車内アナウンスがもうすぐ名鉄名古屋駅に到着することを告げている。

  〇

車がないと不自由な地域で生まれ育った私にとって、電車での外出は、とびきりのお出かけだった。駅のホームに滑り込む車両、窓の外を飛んでいく風景、老若男女様々な乗客。そのどれもが物珍しく映る。キョロキョロと落ち着かずに、母に叱られたことを覚え

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『不正解』で出来ている。

『不正解』で出来ている。

 例えば何か伝えたいことがあるとして。
 どうやったらこの気持ちが、私じゃない誰かに届くのだろう。
 手を離した瞬間、あてどなく流される風船のように届くかわからないものを、それでも届けたいと願う。
 けれど上手くいかなくて、いつだって白紙の前で、私は立ち往生している。何を恐れているのかと問えば、きっと私が恐れているのは『間違える』ってことなんだと思う。

  〇

 格好よく生きたいなとそう願いな

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私にとっての『開かれた文章とはなにか』という問について。

私にとっての『開かれた文章とはなにか』という問について。

自分の半生と離別したいと、ずっと思っていた。同時に、それは無理なのだと知っている。
だけれども、心は聞き分けの悪い子供のようで。いつまでも、もぞもぞと居心地が悪そうにもがいている。

  〇

『なにを書くべきか』について、近頃モヤモヤし続けている。そのモヤモヤを打開するきっかけをつかみたくて、ブリリアントブルーに応募した。番組でとりあげていただいた上に、ありがたいことに、仲さんがフィードバックま

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仕分けできない感情のドローイング。

仕分けできない感情のドローイング。

何かを書きたくて、パソコンを付けた。

感情は片付けの行き届かない部屋のようだ。山となった洗濯物に、床に落ちたノート。積み上がった本の塔の下には、書きなぐったようなメモ帳。

仕分けして整理するのが面倒で、もういっそのこと、すべて燃やして灰にしてしまおうと思う瞬間が、何度も訪れる。

すっと、私一人が消えたって、きっと誰にも影響しない。

そんな風に思考が流れていくのは、ホルモンのせいだろうか。そ

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ここは私の独壇場

ここは私の独壇場

料理をしようとキッチンに立つ。スマホで好きな音楽を流しながら、包丁とまな板を取り出す。鍋を火にかけて、炒める、焼く、煮る。

すると不思議なことに、身体が自然に揺れて踊りだしたくなるのだ。

鍋の中でくつくつと煮立つスープや、白くゆれる湯気のリズム。水を滴らせるレタスの先の、雫。東にある窓から見える空や、自転車で帰路につく中学生の制服。裏に住む子供たちの笑い声。
スマホで流している音楽だけじゃない

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書くことの、もっと高い場所へ。(cakesコンテスト結果発表に寄せて)

書くことの、もっと高い場所へ。(cakesコンテスト結果発表に寄せて)

スマホの画面に映し出された文字を、必死で追った。
名前があってほしい、という気持ちが半分。
もう半分は、ないかもしれないという恐怖。
それから、ほんの少しだけ、ないといいなって、そう思った。

だけれども、なのか、驚くことに、なのか、安心した、なのか。
私の名前は、二枚目のスライドの下の方に、ちまんと並んでいた。

  〇

書いたものに、自信がないわけではなかった。自分の中の大切なものを、精一杯

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バケツの底の小さな穴

バケツの底の小さな穴

・人が寝静まったあとのほうが、筆が進むと思う。なぜだろう。思考が静かになって、邪魔をされない気がする。

・何かを書こうと思い、パソコンをつけて、そのまま布団で寝てしまった。起きたら家人は寝静まり、少しこもりがちな部屋の空気と、蛙の泣き声だけが残っていた。

・そういえば、この土日にどこもかしこも田植えをしていた。空を映す鏡張りに、小さな苗が行儀よく等間隔で並んでいる。かわいくて、微笑ましい。

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