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帆を張り、風を受け、海へ。

高校一年生の夏、私はニュージーランドにいた。
二週間の短期留学で訪れたタウランガという海辺の町は、空が高くて、海が広い港町だった。

日本は夏、南半球は冬。
あの海を、今でも覚えている。
広くて、冬の太陽をうけてきらきらと水面がゆらいでいた。風の強い日は波が高くて、ざあざあと音を立てていた。

海のない県で生まれ育った私にとって、海とはタウランガの海のこと。
知らない土地の、知らない言葉の、知らない文化の、その中でみつめたあの海のことだった。

「はつか」というハンドルネームに理由はない。だけれども、文章を書き続けるうちに、次第に愛着を持つようになった。苗字をつけようと思ったのは、そんな愛着の影響かもしれない。
どうしようかとあれこれ悩んでいるとき、『名前を口にして、好きなものが思い浮かぶような、そういうものがいいよ』という言葉をもらった。

その時、ふとタウランガの海を思い出した。
遠くニュージーランドで、高校一年生の一週間、親元を離れて眺めたあの海のこと。先住民のカヌーと、イギリスの文化が混ざり合った、不思議な国のこと。

タウランガって苗字だと、なんだ?ってなるから。
あの、帆に風を受けて港を出ていく船たちのような、そういう苗字にしようとおもった。

帆風はつか、だからそう名乗った。

  ○

先日、ライターの学生インターンに応募して見事にお祈りメールをいただいた。
案の定落ち込んで、うだうだと布団の中でキノコを生やしてみたりして。面接の何がいけなかったのかとか、私が病気がちだからだろうかなんて、答えのない自問自答を繰り返したりして。
でも、何にそんなに落ち込んでいるのだろう。
私は、本当にその会社でインターンをやりたかったのだろうか。
そう問われれば、答えに窮する。

簡単な話だ、将来に対する不安が学生インターンという「なにかしている」状態を望んだのだ。

だが待て、では将来の何が不安なのだろう。

大学院修士一年、25歳。
休学の影響で卒業がいつになるか、いまいちわからない。年齢にしては遅い院卒だし、教員免許もない。とはいえ、就職口が全く見つからないとも限らない。
バイトだってなんだって、生きていく方法はある。

そうか、私、将来が不安なんじゃなくて「世間からどう思われるか」不安なのか。

これってほんと、馬鹿みたい。

  ○

人生の目標ってなんだろう。
最近つけ始めた手元のノートに、気が付けばそう殴り書いていた。
私の人生の目標は、「世間体が悪くない人生を送る事」なんだろうか。

年齢通り就職して、稼いで、結婚して。それって素晴らしいし、素敵だ。でも、私はそれを心から望んでいるのだろうか。

人生の目標の欄に、人の目を気にした言葉を掲げるって、なんか嫌だな。
殴り書きしたノートを見ながら、そう思った。

  ○

この苗字をつけたとき、私は文章と人生の航海へと出たいと、そう願った。あのタウランガの海を行く、気持ちのいい風のように。

私の人生に目標があるとすれば、おいしいごはんを食べること。ゆっくり気持ちよく眠る事。きれいだと思うものを見つめること。

それから、私の人生に、きちんと意味を与えてあげること。

癌になって、バセドウ氏病になって、鬱状態で休学して。
こんな体と心に、ちゃんと答えを見つけてあげること。

そのために、帆を張り、風を受け、海へと旅立つ。
文章と人生の航海へ。

そういう気持ちを、いつまでも忘れないでいられますように。

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